夢の続き

東方神起、SUPERJUNIOR、EXO、SHINeeなどのBL。
カテゴリーで読むと楽です。只今不思議期。

「黒蜥蜴」カイ(レイ誕生日記念)EXOの短編


滑らかな鏡面に映っている。
自分の後ろ姿だと言うことに、俺は本人であるから気付かないのだ。気付いているのは、この俺が振り向いて見ている、白い顔。
小鼻が膨らんだ鼻筋は意外としっかりとしている。丸みを帯びない額は骨が厚く男の形をしている。優し気だが、小さな目は男の簡素さがある。下側が長い唇も薄い色をしている。
でも綺麗だな、とカイは思った。
誰もいない夜中だった。
その夜は小雨が降り、明かりがなかった。
水分を含んだ黒い空が落ちてくるような肌寒い日は、暗闇の中でここに小さな光を見つけている。
本当は、LED照明に照らされている。でも本当は、ここに光はない。
だから、カイは彼の白い顔を見て、安堵の息を漏らした。地黒な自分の厚い唇から出た溜息は、男の前では、とても汚く思えた。
潰れたような鼻も、顔立ちが整っていると言われるのが嘘のように思えた。その人間より高い身長も、長い脚も、筋肉をつけた肩幅のある体格も、何もかも汚く見えた。
それほど、男が綺麗に見えた。
「兄さん……帰って来たんだ」
低い声はうっとりとした。そして、笑むと横に長い半円を描く目でそうした。黒塗りの瞳は離れなかった。
自分に微笑みかける中国人のメンバーに。
「まだ帰って来ないかと思ったよ」
敬語は「二人の時には面倒だからとって」と言われたので、それを忠実に守っている。スーツケースはもう宿舎に置いて来たのだろう。小さな黒いボディーバックを身に付けているだけだから。そうか、そっちはこちらより暑いのだ。だって、俺はもう上着がないとダメだから、羽織って来たジャケットはレイ兄さんに着てもらおう。
中国で出したソロ曲のダンスも劣っていなかった。
ダンスが格好良い兄さんが戻って来てくれたなら、次の曲は二人でセンターで踊れる。
カイは「練習するの?」と聞いた。
レッスンルームのドアを背に、最近黒髪にしたのは知っている、肌の白さが引き立った兄は、その唇の端をわずかに上げて、自分を見据えたまま、ゆっくり首を横に振った。
うぅ。
獣の唸りに似た声をカイは白い枕に染み込ませた。
一人部屋になって良かった。ほぼ口も聞かず急いて帰った自室で、一緒に選んだ床のダウンライトもつけることなく、湿った夜の色のまま、服をはぎ取られた。
小鼻の膨らんだ鼻から息を漏らして笑い、くすんだ柔らかい唇に噛みつかれると、レイの味だと、匂いや、濡れた舌の表面をまとった唾液と、それに入り混じった疲れを感じさせる長旅を経た何かに思った。
肌はまだ冷たい夏の香りがする。中国の大気汚染、機内の淀み、ソウルの漆黒に拡がる霧雨、ほぼ何も見えない自室の中で、あの晩と同じだとカイは思った。
メンバーが三人いなくなった。中国班と分かれていたグループは、たった一人残った中国人と、同じ国の二人と共にもう宿舎を一つにした。
「カイの方が上手いから」といつも微笑んで、物静かにしていた中国側のダンサー。兄は、練習の日レッスンルームをあとにするメンバー達を見送り踊り続けるのが常だった。物静かに微笑みながら、燃えるように踊る姿には頼もしさと男の性がある。尊敬の意を込めた眼差しを向けながら、自らも残って踊るカイに彼自身がくすぶらせている自尊心と対抗意識を滲ませ、更に熱を上げられると、本意ではない切なさと、相乗して発達させた運動神経を刺激する本能が呼び覚まされる。
永遠に一緒に踊っていたくなる、頼もしく美しい兄。その兄は泣いた。
一人、また一人といなくなる同士達に、異国に自分だけ残されて行くと言う無念さと、愛情に敗けて、耐えきれず何度か涙をこぼした。
異国の弟の無力が自分にのしかかったからだろうか、尊敬の念と庇護欲と白い容姿に押されるように、基地外じみたことを考えるようになった。本当に、綺麗な兄だなとカイは思った。
何度もそう思い、とうとう、そう伝えた。
瞳の位置が左右少し違う不思議な双眸を丸くさせ、「そう?ありがとう」と微笑んだ。
数度言えば、やがてその綺麗な顔は、表情をなくした。
同性愛の異常さにまとわりつかれた兄が、黒いタンクトップ姿で汗を拭きながらレッスンルームの木目の床に座っている。これでもう二人で練習することはないかもしれないとカイは仰向けで寝転びながら、顏だけ向けて眺めていた。
飛び出た白い喉仏が動いたのを視認した。その日はそれだけであった。
しかし、「一緒に食べよう」と飯時に隣に来たり、未だ残る言葉の壁から、他のメンバーには気遣って離していた距離を、あれから自分にだけは遠慮なく詰めるようになり、カイはこの兄が寂しかったのだと言うことを知った。
いつも自分達はそれを思わせないように心を砕いていた。同じだけ彼もしていたのだと知った。
途惑ったが、カイは返事を期待していたわけではないので、避けられないどころか、贔屓でもされてるみたいな扱いに、「役得だ」とささやかな喜びを感じていた。
それだけではなく、レイの中で、消去法が極致に成ったように見えた。カイだけは離れず受け入れるということに、孤独が安心の方向性を変えたようだった。レイは必死に自分を愛そうとしていた。それは不快感を、自分を歪めることで抹殺させようしていると映っていた。自分の方はもう手の内は明かしているから、重く熱を含んだ眼差しや、端々で生まれる緊張がどこから来ているか彼は知っている。けれど、嫌悪感剝き出しに手を払うことは今のレイには出来ないのだ。
わざと身体を接触させることをし、布団に潜り込まれもする。横になって見つめ合ってくる兄を見ると、不安定な位置をする瞳は、自己否定と慣れたメンバーへの愛情が混沌とした黒い光を持っていた。
罪悪感と切なさに苛まれ、カイは早まる心音に気付かない態で逃げるように目蓋を閉じ、眠ろうとした。レイはそんな時、交流を終えたと思うのか、部屋を出て行ったり、朝に寝顔を見せる時もある。
こんな距離感で、十分幸せを覚えていた。しかし、自己の歪曲はそれでは足りないと、熱心さがレイには仇になった。そう言う風にカイは見えた。ある晩、レイが中国から戻って来た深夜に、彼が不在の時カイは、帰って来ないのではないかと言う恐怖と、恋人を作って帰る当たり前の姿が想像され怯えるが、それは今回もなく布団に潜られた。いつもの如く黒い瞳に、胸がつまり申し訳なさを覚えながらも、自分の気持ちには嘘がつけないと目蓋を閉じ、同時に、カイは喉を鳴らした。
重なっている唇の正体を分かりながら、硬直した体で、目蓋を開き、視線を泳がせた。絶対に動いてはならないと。
その愛情は幻に近いと告げることもできず、受け入れるには良心に苛まれる。
それが、顔を見てはならないと言う定まらない視覚で、見過ごすことが出来ない自分であった。カイは美しい兄が、ここまで思い至ったかと言う衝撃にも身動きが取れずにいた。
暗闇の中でも、白い顔は目が慣れて来ると薄く漏れる月光などに良く反射するのが分かる。動かない自分にじれるようにくすんだこの唇を、もう一度唇で食まれた。
思わず小さく息を漏らしてしまったのに焦り、呼吸を止め、カイはうろうろとさせていたものを二つの瞳に向けるだけだった。
瞬きながらも見つめ合うと、まどろんだ目をする相手は、これは夢だと自分に言い聞かせているようだった。
だがこちらは、想い人と唇を重ねて感じずにはいられない。カイはこの感触、レイとのキスを忘れないようにしようと思い、何度も脳裏で復習させた。
次に、兄から上手くこの状況を切り抜けてくれないだろうかと願った。気まずさで自分を避けられては困るから、年上の懐の深さを、何事もなかったように唇を離した後も見せてくれないだろうかと思った。しかし、彼の外国語はどこまでそれに対応できるだろうかとも考えた
再び口元に視線を落とし、カイは待った。彼の目を見ることはもう出来なかった。どんな表情も自分の気を晴らすことはないと分かっていた。
それに応えるように離され、そっと息をつきながら、これが最後の自分達のキスだなと冷静に捉えながら胸は痛んだ。悲しいとも思った。
どうしていいか分からないカイはすぐ前の相手以外を満遍なく見ながら、兄が切り抜けやすいように、口の端に力を込めて上げてみた。
その瞬間、噛みつかれるようにさっきの唇が何度も合わさり、目を瞠り何が起きているか知覚する。
自分の反応など何も構わない風に、頬を両手に挟まれ、上から覆い被された。必死でキスをされていると、抑え込んでいた好意にカイは嘘がつけなくなり、その健気さにも応えなければと、食んでいる唇に、返してみた。
舌が入って来る頃には上の男を抱き締め、硬い体にこれが男かと認識しながら、不器用にひっつきあってキスを交わした。
闇の中で見る白い兄の顏は赤らんで、興奮して見えた。
レイは、それからもっと自分を求めた。男も抱くことが出来たら、起きている異常は異常ではなくただの恋愛だと、馬乗りになって服を脱ぎ、抱こうとした。兄を抱く想像ばかりし、そんなことを彼が出来るとは到底思えなかったが、全てを好きなようにカイはさせた。はじめて本当に実現した時には、痛みと驚きと嬉しさの中で、なぜ出来たのかと疑問も出た。自分が同性に犯されると言う屈辱は、その頃にはぱんぱんに腫れあがった恋愛感情で消えた。抱き合っている間は、不思議さを覚えながらも、何度もされると慣れが出て、特に兄は的確に追い詰めるようになった。そのせいで疑問も愛しさも、快感に飲み込まれ、自分の体で終わりを迎えられると、恋人の錯覚さえした。
なぜ兄が男の自分に興奮できるようになったのかは分からないが、一度完遂すると、きっと興奮材料として捉えられるようになったのだろうとカイは思った。
「好きです」と最中や、二人きりになった途端キスされた時など、言いたくなったが、不快感を再確認させ煽りたくなかったので、言葉に出さずにいることは頑なに守っていた。
自分達の関係が何かは分からずに、だが、体は重ねた。朝の光を受けて、相手もだが、髭など伸び、とてもではないが男以外の何物でもない自分に向けて、眠たげな顔で「おはよう」と微笑まれると、カイは愛情を受けたと勘違いしかけることもあり、その度にこちら側は募らせた。
一度、あまりの快感で朦朧とし、布団に頭を沈めながら「好きです」と口が滑ったことがある。その時は「しまった」と冷水をあびた気分で、動きを止めた後ろの人間の顔が見られず、思わず自分の口を手で塞いだ。
間を置いたのち「俺もだよ」と、そのまま継続されたが、息を詰められたのも伝わり、まるで自分に言い聞かせるように強く腰を振られ、大きな嬌声を我慢しながら、カイはもう失敗しないと誓いを新たにした。それからも彼は変わらなかったから、胸を撫で下ろした。
しかし、兄が中国の仕事が忙しくなり、段々と一緒に活動できなくなって、最後に宿舎を出た日に、カイは見つけたのだ。デスクの上に「俺は好きだよ」と一言だけ書かれたメモ用紙に近い物を。
携帯電話で伝えれば良いのに。カイはそれを宝物にし、「自分も」と送った。返事が来なかったのは、忙しさと気まずさからだと分かっていた。次にちゃんと相手の顔を見た時に、きっと兄は同じことを伝えてくれるだろうと分かっていた。
――兄の形だ。
今回はかなり長い別れだったから、まだ準備は足らないが。
馬乗りになり、自分がはにかんで着せた上着を床に放り、白い体が暗闇の中で被さった。早急に体中を舐められ、柔らかい唇で胸の小さく色濃いところを含まれ、ちろちろと舐められてからじゅっと吸われると声が漏れた。
「レイ兄さん」
胸の両方ともにする自分より若干背の低く、硬い体が愛しくて仕様がなかった。抱き込んで呟くと、また唇を塞がれた。覚えのある感触だった。綺麗な白い顔が優し気に微笑む。カイは涙が出かけた。
「好きなんだ」
「うん」
レイが頷く。後ろ向きにされ、とろとろの粘液をつけた指が焦って上手くなく動く。それでもカイは感じたし、風呂も入っていなかった自分に躊躇いもせずされたことに感動も覚えた。
でも、「もう良いよ」と言ってしまった。若干逡巡はあったが、己の欲望にも負けた温かさが、そこについた。息を呑んで待ち受けると、入ってきた。少しは解れていた筋肉をとてもゆっくり押し拡げてくる。兄は自分とのやり方を覚えている。カイは喜びをこみ上げさせながらも、この瞬間は緊張し、呼吸が浅くなった。
「もう、帰って来ないかと思ったんだ。クリス兄さん達みたいに」
緊張をとろうと枕に吐いた。
「そんなわけないだろ。恋人もできたんだ」
鼻にかかった高い声が後ろで答えてくれた。
「それ、俺のこと……だよね?」
徐々に入って来る苦しさに、顔を押し付ける。
「そうだよ」
嬉しいな、と暗いシーツを握りしめ呟く自分に手を重ねられた。明かりの無い部屋で四つん這いになって耽っている。
「もう全部いれる」
それと同時に、最奥まで一気に貫かれ、カイは首をそらし呻いてのけぞった。上げた顔で、夜のベッドの先を見る。
そちらに突き出した喉の奥から「あっあっ」と声が漏れた。
動かされ出した衝撃は久しぶりだとかなり大きかった。そのまま後ろから上体を起こすように抱き締められ向くと、柔らかい唇で食まれた。その体勢で何度もえぐられ、内臓が動く。だが、その手前にある部分にレイは的確に合わせた。
膨らんだこりこりとしたものに硬くぶつけられる。
「痛い」
カイは鼻から息を出して、再び枕に埋まった。
「痛くないよ。もう出てるだろ」
うん、とシーツに放たれたのが匂った。青臭さが暗い部屋を充満している。まだ腰を振られると、ねばと糸を引いて、小さい水溜りに釣り糸でも垂らしたようだ。白い手を握り返すとあてられて、背を逸らせて悲鳴に近い声が上がる。
もう一方の白い手が固まってきたものに伸ばされて上下される。
「好きだよ、好きだよ」
気持ちよさに口走ると後ろから、「うん、うん」と苦し気な返事がされ、強まる衝撃にカイは朦朧としてくる。黒い壁に眩暈がして、兄の終わりを感じながら自身のそれも感じた。
シーツに爪を立て、さらりと黒髪の頭をもたげ、同じく汗ばんだ黒い髪が頬につく、好きな人間の身体の匂いを感じ、二人で闇の中を這いまわっている。
尻を持ち上げられ、これ以上ないほど腰の骨まで感じるほどにぶつけられ、最後の瞬間に硬直した。
彼に握られた手をどくどくと通過する。二度目もそんなに少なくはない。
だが、実際は一度目だからだ。
カイは枕に押し付けた顔を上げた。シーツに出す前に、ティッシュを用意しようと思うのにいつも間に合わず、ぼとぼとと零れた液体を拡げるように拭く羽目になる。
兄さんの動きが性急だからだよ。電気のついていない自室でカイは声に出さず言った。
少しついた自分の手を気にせずベッド脇に置かれたトイレットペーパーに伸ばし、誰もいない湿った夜を背に、まだ快感で頭を押し付けたシーツもおざなりに拭いた。膝立ちで、まだ糸を垂らしているものも一緒に拭くと、それを床に放って素っ裸で四つん這いのまま、正面を見た。
「今度は長くいられるんでしょう」
黒い壁に無言で投げかけると。
うん、と闇の中で白い顔が微笑んだ。






『黒蜥蜴』おわり




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