夢の続き

東方神起、SUPERJUNIOR、EXO、SHINeeなどのBL。
カテゴリーで読むと楽です。只今不思議期。

「魔宮 1」ユノ(東方神起)カイ(EXO)


その中に命を見たから。


暗闇に辺りが変わっていた頃に、廊下に電灯が一、二秒でついていくと、それに反射しうるべき輝きをもって、リノリウムの床は磨かれていたということだった。
そういうものだった。
しかし、その瞳は映さなかった。
黒の中に、四角く切り取られた白があった。
窓が輝いていたということだった。
ユノは、瞳で真黒になりがちな切れ長の細目をその中に向けていた。
不思議なのは、ドアを通しては何も聞こえないということだった。ドアの上部に、はめこまれた透明な板から見える中には、踊り子がいる。
節ばった長いと言われる指を、二十一歳のユノは反射的に内側に向けた。
空を掴むようにして、止めた。獣がひっかくような格好になって、そこからは動かなかった。
一度ゆっくり涼しげな目蓋を細めて、眩しさを抑えたが、音の無い中の彼の動きに合わせた手を直し、ユノは、今度は銀色の温度の低いドアノブに乗せた。
静かにしなくても良いだろうと思ったが、そうした。常識からなのかもしれなかった。けれど、癖のように、そうしたと言うのが、一番としっくりきた。
踊る、だけじゃないよ?
歌えたら、歌いたいし、喋れたら、喋りたいよ。
生きてるって、そうじゃない?
まるで踊らないと、意味がないみたいに。
俺は、好きだっただけだよ。
意外にも、すぐに相手に認識された。動きを止め、仁王立ちした正面にはめられた鏡で、相手は、ユノを見た。大きく切れ上がった目は丸くなってすぐに、一気に太く弧を描いた。
「あ、こんばんは」
「おう」
汗をかいていない顔で、ユノは、別に練習ではないのだなと思った。しかし、少し呼吸が乱れて、上気はしている。
返事をした後、何に合わせて踊ったのだろうと、思った。
黒いタンクトップにも、汗は掻いていなかった。
ユノはコートを脱いだ。その顔が、鏡越しに、何も言わず目を若干眇め、また戻した。それに意味があったわけではないと言うことは、表情が変化しないので、分かった。
冬で、下にハイネックのニットを着ていたが、丁度良い温度だった。あまり暖房は効いていないよう感じた。
「一人なの?」
と、出しにくく感じた鼻にかかった地声は、少し風邪を患っていた。
数度頷きながら、自分とそんなに変わらない身長と体格の彼が、「はい」と鏡の中で答えた。
部屋は、向き合った二面が鏡張りだった。
フローリングにユノは胡坐をかいた。硬いジーンズ生地から伝わる温度で、そこまで寒くなかったなと思った。
「気にせず踊ってみてよ」
双眸が太い線に曲がって、はにかんだのを彼の後ろでぼんやりと見上げながら、胡坐にしていた脚を、膝を立ててユノは、抱え込んだ。見てますよと、アピールした年上の先輩に、彼は笑って頭をひねりながら、動いた瞬間に真顔になり、振った片腕を真横に伸ばした。同時に踏み出した脚を軸に、体を回転させ、両腕を曲げて重ねた手のまま、もう一回転させ、腕を解き、指をばらばらと間接まで滑らかに動かしながら、天に片手をあげてまた戻した。それを二回無言で繰り消した。
天才が入ったんだよ。
事務所中で、誰かが言った。既にデビューしている同僚やら、グループのメンバーも全員名前を聞いていた。最後は代表が、嬉しげにその話題をした。一度目のオーディションの時から認知されていたのは、才能と言うよりも、規定外の若さが原因で話題に上ったのが大きかったが、次はまるでその全貌が現れたような姿で、彼は、規定内の年齢に達し、合格してきた。
あれだ、あれだ。
メンバー全員が実力と容姿で選び抜かれ、デビューしてすぐにトップとなり、外国では一日出ない番組は無いほど、ユノは人気があるアイドルグループの中の一人だが、彼の話を聞くと、どちらがそうか分からないと思った。事務所の廊下で、練習生との交流で、一緒にいる人間が「あれだ」と、この男を言った。
ダンスで合格し、ユノは、練習生の時からその才能を自負し、海外活動も忙しい自分のグループでもダンスを任されている。
だが、己より才能のある人間は、いる。踊りそのものの幅が広いこと、沢山の踊り手を見て来た経験からで、それが分からなければ、才能は無いとも思っている。鍛錬すれば、反射神経さえ鍛えられる。筋肉や、筋を、骨を、音に合わせて動かすことは可能で、振付師につけられた通りに、指先までリズムに合わせることが出来る。瞬発力を見せ、綺麗に、滑らかに見せることも出来る。鍛錬は苦しいが、仕事にしているなら、それは当然だし、好きだから選んだのだ。ダンスの担当だと言うなら、誰よりもすみずみまでリズムに乗り、動きで魅せなければならない。自分には才能があると思っている。そして、それ以上には、ならないとも思っている。
それ以上だと、分かった。
この人間をはじめて見た時に。
嫌だなと、思った。事務所内では一番踊ることが出来ると言う自信さえ、失われた。だが勿論、そんなことは関係ないのだ。グループは出来上がり、今最前線を突き進んでいる。リーダーでもある自分は、そこで踊るしかない。このレベルはそういるものではないが、また第二、第三の「それ以上」は表れ、彼らを後輩にして、アイドル人生は経過して行くのだから。
「ジョンイン」
まだ踊った方が良いだろうかと、レッスン曲の振り付けに変え、練習し始めた人間を、ユノは呼んだ。彼はすぐに足をとめ、振り向いた。
「膝開くのやめたら?その曲姿勢が伸びた方が良いよ」
踊ったことがあった。
「あ、はい。ありがとうございます」
彼は同じところから、膝だけを閉じて、同じところまで体を動かした。自分より、沢山の音をひろって。
ユノは黒い瞳で後ろ姿と前身を交互に見つめていた。微動だにせず、一緒に踊った。どれだけ鍛錬させても、拾えていない音があると、その動きで知る。膝なんか、一瞬で直せる、そんなものではなくて、瞬発力以上に、隅々までの動き以上に、彼は、聞こえない音までも表す。まだ華奢で、身長も成長中で、もう少しその身体は、表現方法を増やすだろう。
正面を向いたまま、笑いかけてきた。ユノは、どのくらい伸びるか分からないが、自分の方が高い背と、顏の大きさくらいかなと、彼より小さい唇の端を上げた。彼は、後ろを向いて、
「ユノ兄さん。今度は、いつ日本行くんですか?」
と、視線を泳がせながらも、時々ユノを見て、言った。
「来週だよ」
「そう、ですか」
そのまま黙った相手の大きな目の下が少し、気になった。微笑んではいるがぼんやりしていた。
「ジョンイン」
「はい」
「なんか俺より疲れた顔してんな?」
え、と言って太い弧を目で描かせる。低くこもる声だった。そんなに遅い時間でもないのに、外から何も聞こえない。静かだなとユノは思った。この相手がいないと、少し怖いほどだと思った。弧を描いた目元を戻して、見下ろしている。疲労はユノもすごかった。今は殆どが日本にいて、たまにこちらでも活動する際は、睡眠時間を削られるスケジュールだ。しかし、目の前の相手は、自分が皮膚科にも行きアイドルの顔を保っているのに対して、この前見た時には知覚しなかった、やつれさえ感じられた。
「どした?」
聞いたユノに、ぼんやりしているからか、言おうか言うまいか逡巡したのか、沈黙のあと、厚めの唇が、最近、とぼそっと言った。
「寝ると疲れるんです」









つづく

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