夢の続き

東方神起、SUPERJUNIOR、EXO、SHINeeなどのBL。
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『 Zirconia(ジルコニア)』ジョンヒョン ヨンファ CNBLUEの短編(「その目で笑って」番外編)

*こちらのお話の番外編でございます。「その目で笑って 1」(ジョンヒョンの場合)ヨンファ CNBLUEの短編 - 夢の続き




「おめでとう」


視線を上げたのを見て、微笑む。携帯電話を手にしたまま、綺麗に映される中で目が合わせられる。
白目と黒い瞳が、鏡の上に付いた照明で光っていて、ジョンヒョンは切れ長の双眸を少し細めた。
「ありがと」
言葉の割に、上目遣いに見ている眼差しに訝しげな鋭さが混じったのは、さっきあれほどメンバーで祝われ、言葉を送られたからだ。
汗に濡れた前髪がおろされていて、特別な日とかけられた言葉で、それでも表情はどことなく綻んで見えた。汗で肌も綺麗に光っていて、背後に立っていたジョンヒョンは、隣に腰を掛けた。
ヨンファの顔が自分に向いて、見つめ合った。
「なんだよ?」
自分より膨らんでいる唇が開いて歯が見えたが、眉は寄せられ怪訝には拍車がかかっている。
ジョンヒョンは束の間、言葉につまったが、
「プレゼント」
と黒い小さな箱を差し出した。
濡れたような目が歪められて、捉えた。眉間に皺が寄る。
メンバーはその日一緒に過ごすことになればケーキと、離れていれば祝いの言葉で済ませる習慣が定着している。
しかし、決められたものではなく、特に問題は無いはずだと、ジョンヒョンは彼の眉間を眺めた。
一度考えてみると、まるで悪戯でも思いついたように、あげて見たくなった。
こんなもので何も変わらないからと、相手の持つ携帯電話を視界に入れながら、ジョンヒョンは笑みを浮かべた。
恋人とのやり取りが、小さな明かりしかついていない暗い楽屋に灯っている。
半信半疑な表情で、同じく湿ったTシャツを着た自分を一瞥してから、箱を取られた。顔はまた正面に向き、青いリボンを解いて、中を開く。
「ピアス?」
少し前に出た口元が呟いて、ゆるんだ。
ジョンヒョンも安堵して微笑んだが、不審そうに見ながらも笑っている整った横顔を見つめると、
「つけていい?」
と口からついて出た。低い自分の声が独り言のようで、聞き取り辛かったろうと思った。
膨らみのある唇が何か言う前に手が出て、濡れた髪の毛をかけている耳の、既に付いている部分を摘まみ、そのまま硬い金属と柔らかな肌を揉む。
抗議の声が発されなかったので、接合部分を摘まんでいる指と目で確かめた。
両手で手早く外して、壁から突き出た簡易テーブルに置こうとすると、上の鏡で丸くしているそこと視線がぶつかった。
「あ、ごめん」
鋭い眼差しをする相手がそんなに唖然とするとは思わなかった。
勝手に取ってしまったものを握りしめ、見つめ合う。そこが瞬いてから「かせよ」と仕方なさげに言われて、渡す。
「自分でつけるから」
口にしてから、贈り物には嬉しさがあるのか、表情は若干明るくなり、渡したものを持ったまま、テーブルに箱を置いて、自分のあげた新しいものを一つ取り出す。
その表情で、自分のあげたピアスが装着されて行くのを見るとジョンヒョンは、冷房で乾いて来たTシャツの胸の下で動悸がした。
ヨンファは筋肉のついた首をひねり良く見て、更に口元をゆるませた。
「これダイヤ?」
凝視している疑った顔に笑みが混じっているのは期待と言うよりは、この大きさのそんなものを男の自分に渡さないだろうと馬鹿にしていた。
その通りだとジョンヒョンは歯を見せて、眺めている。
「にせもののダイヤ」
と、答えた。
「本物くれよ」
彼が笑うのを見て、すっかり満足して微笑んだまま、喜びとかすかな罪悪感を覚えていた。
目の前の相手はそんなジョンヒョンを笑みを浮かべたまま奇妙そうに横目で見る。
「ありがと。でもこんなの普通男にあげないだろ」
ジョンヒョンは「あのギターより安いし」とヨンファが自分で買うとメンバーの前で言っていたギターのことを視線を下げながら答えた。
「お前は安いからって男にアクセサリー送んの?」
「まあいいだろ」
相手の笑い声を聞きつつ、若干俯いたまま微笑んで、そろそろ彼を呼びに来た自分の使命を果たすかと思った。
「これ俺、みんなに見せるのか」
気持ち悪さと面白さが混じった声で言われ、ジョンヒョンは苦笑して顔を上げる。身体を前に傾けて、まだ観察している。
「見せないで良いよ」
このリーダーは見せるとなれば、本当にくまなく見せるはずだと、テーブルの小さな箱の横に置かれた機器に新しいメッセージが来ているのを確認する。
「なんで?」
ジョンヒョンは、こちらに向かれた濡れたようなまなざしを眺めて、切れ長の目を細めて言った。
「だって、にせものだから」
だから誰も見てないところでつけてよ、と小さめな口の端を上げた。そろそろ本当に行かなければ。残念な気持ちを抱えながら、唖然とされたのも忘れてまた取ろうとした。
「ジョンヒョン」
しかし、止めた。
膨らみのある唇が、
「悪いけど、その目で見るのはやめろ」
と言った。
視線を上げると、鋭い眼差しが見据えていた。
ジョンヒョンはまるで夢から醒めたように、目蓋を拡げ顔を強張らせて、そのまま手を伸ばした。
驚いた表情の相手に気にせず、
「やっぱり」
震える指でそれを外す。
「これ似合わないな」
呟いて箱も一緒に掴んで立ち上がった。
座っている相手の見開かれている目に、昔の面影が混じっているのを見ながら、そこが鋭かろうがなかろうが、これがヨンファだったと愕然とする。
ジョンヒョンは狂ったように体から出る心臓の音とともに、そらした目を泳がせて、「俺呼びに来たんだ。みんな待ってるから行こう」祈る心持ちで言う。
「待てよ、そのピアス」
「あいつらと一緒に、ギターにするから」
ヨンファに言い捨て返事も聞かず、血の気が引く身体で楽屋を出た。うしろからついて来る彼が並ぼうとする前に、近くの大きな会議室で出前のケータリングを拡げ酒を飲んでいるメンバーやスタッフに合流する。
こちらを伺う相手が何人かの人間に囲まれたのを見計らって、ジョンヒョンは抜け出した。
動悸と荒い息をさせながら誰もいない廊下を歩き、人が来ないのを確認して、階段を上がり踊り場に置かれたごみ箱の前で立ち尽くした。
冷房があまり効いていないが、夜も遅いから暑くはなかった。
きっと問い詰めない。
清掃され空に近く見える長い箱を見下ろして、自分達の出会ってからこれまでをジョンヒョンは思い出していた。
濡れたような、あれが特別になってから長い。恐らくヨンファが言い出したのは、今回、許容範囲を超えたからだ。
ジョンヒョンはより白くなった顔でビロードの小さな黒い箱を開け、二つ並んでいるものを見つめた。
眩しさが似ていると、丸くカットされたその輝きを見て、少し悪戯心が働いただけだった。
ストイックで、メンバーにも厳しいが、相手の言動が変わればそれも全て見ている。自分が変わるしかないとジョンヒョンは蓋を閉めた。
しかし、投げ入れるのがその一歩と思いながら、ジョンヒョンはギターを弾く皮が厚めの指で掴んだまま、今度はさっきの光景がフラッシュバックした。
この石が、あの人間の肌を転がって、貫いて、収まった。
鋭い目で自分を気にして話しかけられながらもこちらを見ていたヨンファも。
今思えば、もう二度と訪れないないほどの、密な時間だった気になって来る。それは多分、これからは彼が警戒を隠さないし、ジョンヒョンも必要以上に一緒にいないからだ。個人の仕事は忙しくなるばかりで、ツアーもこれからあとどれくらいできるか分からない。
ジョンヒョンは切れ長のそこでもう一度盗み見るように、蓋を開けた。
そして、既に塞がってしまった自分の耳の端を撫でた。
ーー誰も見てないところで。
別に付けなくても良い、ただ持っているだけで。自分以外誰も見ていない場所で、愛でるなら。
きっと、ヨンファは許してくれる。俺もそうしてきたことをいつからか知ったみたいだからとジョンヒョンは、誰もいない場所で眺める。
これからは、この眩しく硬い石が、代わりになるのだからと。








『Zirconia』(「その目で笑って」番外編)おわり

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