夢の続き

東方神起、SUPERJUNIOR、EXO、SHINeeなどのBL。
カテゴリーで読むと楽です。只今不思議期。

「続きでも笑って 最終話」(ユノの場合)チャンミン 東方神起の短編

*何でも許せると言う方のみご覧ください。こちらのお話の続きでございます。「その目で笑って 5」(ユノの場合)チャンミン 東方神起の短編 - 夢の続き




お疲れ様です、お疲れ様ですとかけられ、元は同じ言語でも違う変化を遂げているものがいくつか混じっていたが、三日滞在すれば聞きなれていた。
汗に濡れた顔や、衣装から出た体を拭きながら、廊下をユノは歩く。
「煙草やめて良かったね」
第一声がそれかよと思いつつ、隣の男よりも小さく下唇の厚い口元を綻ばせた。
「でもやっぱりきついな」
「ダンスはもう良いでしょ。兄さん」
おどけて言う声を聞きながら、背の高い弟を少し見上げる。
自分とは違い、驚くほど肌は皺が少なく、つるつると保たれているのを見ながら、返事が出なかった。
この人間は、また、やるつもりらしい、と訝しく眺めた。
用意された時代遅れなデザインのきらびやか衣装は汗を吸わず、冷房もあまり効いていないようで、ユノは絶え間なく出て来るのに、辟易して手や肩で拭いながら、正面に向き直って歩いた。
途中でスタッフが良く冷えた飲み物を二人にくれ、受け取る。
二人とも黒に染めている短髪の頭まで、タオルで拭いながら移動した。
待機時間だけに用意された併設のホテルの一室で、「俺から浴びて良い?」と声をかけると、窓際のソファーに座っている、まだ乾かない髪のチャンミンが頷いた。
視線は窓の外だった。
二人共シャワーを浴び終え私服に着替え、またソファーに腰を掛けた。
「次は日本ですかね」
と呟いた彼を、昔は切れ長だっためじりが垂れ、一段と細くなったそこで見た。
なぜそんなことを言うのかは、聞きたくない気持ちがあった。
ユノの暮らしぶりは、株や友人と共同経営のクラブハウス、芸能事務所の顧問の収入でそれほど変わらないが、俳優業が減り、確かに時間的に少し余裕が出て来た。しかし、この弟の方は、アイドル時代とスケジュールがほぼ同じタレント生活をまだ続けていて。
それ以上に今回は特別で。
出来ないことはないだろうし、出資者も見つかるかもしれないが、それは道楽に近いと、年齢にも負けなかった端正な顔を見つめる。役柄にも備えて鍛えている体は、昔よりも厚くなってしまって、もう凛々しいなんてもんじゃないな、とユノは視線を落としながら、唇の端を上げた。
また窓の外に目を向ける。
「それともこの国に構えます?」とおどけた声を出され、返事に窮した。
一望できる景色を眺める。真昼の外は、晴れてはいたが、そんなに空は青くなかった。
眺めながら、この弟の、魂胆を制するように呟く。
「またバーベキューしよう、家族みんなで」
口をつぐんだ隣に、今、どんな顔をしているか分かるなとユノは顔を向けた。
目が合った。
困ったように唇を曲げ、睫毛の多い大きな目が見ている。
十歳年下の妻がいて。
こちらはそれ足す五歳年下の妻がいて、互いに子供もいる自分達にどうしろと思いながらも、ユノはぐりぐりした眼差しに何も言えずため息さえつきたくなった。
本当に俺は変わらないと苦笑しながら、腕を上げ手首を見た。
もうすぐ迎えが来る。
「兄さん」
少し黙ってから「なに?」とユノは答えた。いつの間にか隣に立っていた人間を見上げた。
「もう一回、二人でやりません?」
ソファー椅子に座っている自分を、デビューしてすぐ背を追い越した弟が見下ろしている。
「兄さん」
手首のそれを感じながら、まだかよ、とユノの心拍数が上がる。
変わらないのはこの自分と、その目だけだ。
窓の外には、38度線の上までも占領したように、アメリカ軍の専用車がところどころにちらつく風景が拡がっている。
何組かのミュージシャンが呼ばれた、メモリアルコンサートだった。
一つの国の名前さえ変わってしまった時代に、自由に行き来できるようになったここで、ユノは思い出そうとした。
まだ、自分達が沢山いた頃。更に昔の、デビュー当時を。
彼には全員甘くて、ぐりぐりとした睫毛の多い大きな目に見られるともう何も言えなくて。
ユノは、数年前に止めたものが吸いたくなってくる。
「兄さん」
ぐりぐりと困ったように見下ろされる。あの頃に戻って欲しい気持ちになりながら、隣にいるのは、すっかり渋い中年になってしまった男だ。
気付かれてしまい、段々と弟の眼差しが変わり、ここ数年二人きりにならないようにしていたのに。
しつこく時刻を確かめようとして、上からそっと掴まれる。
一段と細くなった視線を上げて、見つめ合った。
「宿舎なら」
やめろと言わなければと思うのに。
「ばれないよ?」
同じ目で、覗き込む男に言い終えられる。
まだかよ。
思ってはいるものの、歳をとった弟が、そのまま顔を下ろしてくることに、やはり黙ってしまう。
そして、流れて行った月日を思って気が遠くなりながらも、一度、唇を合わせ、間近で弧を描いたそこを見ると、ユノはもう、何も言うことはないと思ってしまった。








『続きでも笑って 最終話』(ユノの場合)おわり

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