「少し暗い日々の帳を抜けて6」ユノの短編 ウニョク キュヒョン ヒチョル
誰も乗っていない電車で、正面の車窓に拡がる色の変わっていく空を見る。
こうやって誰もいなければこの、どこかに行かなければいけないようなぼんやりとした焦燥に駆られることはないのかもしれない。誰かと比べたりするから、これでいいと思った生活に疑問を持ったりするんだろう。
帰ったらTシャツと下着姿でウニョクが起きていた。
「お帰り」
「おう。どした?」
「なんか緊張してんのかな。あんまり眠れなかった」
「なに?パン食う?」
「あ。ありがと。夜電話したんだよ、バイト先」
ああ、したのか。ウニョクも好きなパックの苺牛乳も袋から出すと、嬉しそうに台所に来た。小さい簡易テーブルに向かい合って、まだ明けきらない朝の朝食を取る。
「面接はしてくれるらしくて。簡単でいいから履歴書出して欲しいって言われてさ。ちょっと見てくれる?」
苺牛乳片手に、畳んだ布団の上に置いてあった求人誌を持って来る。中に挟んであった履歴書を俺に渡した。
「前にもここ、ニャースから問い合わせあったんだって。でも掌に毛が生えてるから不採用になったって」
「製造は難しいかもなあ」
ウニョクは意外にも字が綺麗だった。俺より綺麗かもしれない。
「ここ、最後に以上って書いといた方がいいよ」
テーブルの上で指差して見せると、「待って」とウニョクは本棚の上のペン入れからボールペンを持って来た。綺麗に「以上」と書いた。
「特技、掃除だけじゃアピールにならないんじゃない?」
「じゃあ教えてよ、俺の特技」
ボールペンを持ったまま、こちらを見た。
ストローを刺した苺牛乳を吸いながら俺は考える。
「料理かな?丁度良いし」
「俺、ラーメンくらいしか作れないよ」
ウニョクが歯を見せて笑った。
「でも、俺より上手いよ」
「あんなの料理のうちに入らないだろ」
でもウニョクは、料理と書いた。
「ユノ、印鑑ある?」
「あるよ」
神妙な顔でそれを押して、ウニョクは満足そうに出来上がったものを眺めた。
生きているだけで、自分達は毎日同じじゃいられない。それは互いの影響もきっとある。
毎年のようにポケモンの新種が発見される理由も少し分かった気がした。
「あ、面接にはトレーナーも来てほしいって言われたんだけど、ユノ大丈夫?」
「うん、いいよ」
食べ終わって、片付ける。
「来週の火曜日が良いらしいんだけど、変更もできるからさ」
「いや、大丈夫だよ。その日も休みだし」
仕事が夜間だと疲れが倍になる気がする。飯を食うと、シャワー浴びる前に寝そうだった。でもそんなわけにはいかず、かなり汚れてたから浴びて、
部屋の掃除を始めたウニョクの横で寝た。
つづく