「This is love comedy.27」ユノ×キュヒョン
カーテンコールが終わる。
キュヒョンがわずかに、自分を見て嬉しそうに微笑んだ。
俺はその笑顔で、我に返ったように、笑みを忘れた。
キュヒョンは舞台から消えていく。俺は今から自分がすべきことを思い出して、なぜか血の気が引くような思いにとらわれながらも、腕時計を見た。息を吐いて立ち上がる。
時間ももうない。
終わった後で、俺が行くと言っておいた通り、まだキャストやスタッフが、舞台裏でざわめいている中、キュヒョンは楽屋にいた。
ノックをした瞬間にドアが開かれる。
その顔を見ながら、中に入った。
一か月半ぶりに、二人だけの空間で会った恋人だった。
まだ高揚感があるんだろう、衣装のまま、上気したように頬を染めて俺を眺めている。
「お疲れさま。キュヒョン」
そう言うと、元から上がっている口角を更に上げて、照れたのか俯いた。
「すごい良かった」
その顔が上げられる。
「最高の舞台だったよ」
と続けて言うと、なぜか眩しそうに俺の顔をじっと見つめて、感無量なのか唇を少し開いたまま、何も言葉に出来ないようで口にしない。
俺は、ふと笑う。
「これ、差し入れ。お前の分だけで悪いけど」
俺は持っていた紙袋を手渡した。躊躇いがちに受け取られる。
「……ありがとうございます」
やっと声が聞けたな。
「見て良いですか?」
「うん」
頷いた俺の方をちらちらと見ながら、キュヒョンはソファーの前のローテーブルにそれを置いて、立ったまま腰を曲げて、開く。
「なあ、キュヒョン」
「あっ!」
目を見開いて、俺を見る。
「日本のカップ麺ですね!」
それを取り出して、にこりと笑った。久しぶりの見慣れた笑顔に、俺も口角を上げる。
「あ、まだある」
俺は何となく、目に焼き付けるように眺めている。顔を輝かせながら、次の物も取り出される。
「日本のビールだ!これも美味しいです!」
そう明るく言いながら、何かに気付いたのか、笑顔はなくなっていく。でもキュヒョンはビールをテーブルに置いて、最後の物も、その数個入れておいたうちの一つを、そうっと取り出した。
「プリン……」
と、呟いて、それを手に持ったまま、俺に向いて立ち尽くしている。
「全部、空港で買ったもので悪いな」
その正面まで近づいた。
「キュヒョン」
何も言わず俺を見上げている。
その呆然としている顔を見て、自分を落ちつかせるようにちょっとだけ口の端を上げながら、
まず言うことを口に出した。
「別れよう」
つづく