「麒麟3」キリン×リョウク
「あれは何の鳴き声?」
僕たちは三メートル位の高さのある岩場に来た。地平線に隠れてしまった夕日は辺りを薄紫色に変えていた。もう星が見える。
ここで寝た方がいいと言われたけれど、さっきまで寝ていたし、全然眠くはならなさそうだった。
昼間の日差しが強いのか登ってみた岩肌はほんのり温かい。でも急に肌寒くなってきた。
「あれはラーテル」
「ラーテル?」
「うん。何かを襲ってるんだよ」
「襲ってるんだ……」
赤ちゃんの短い泣き声のような声がどこかからずっと聞こえている。他にも様々な声が囁くようにそこかしこで聞こえる。
「ねえ、キリン」
キリンは、首を曲げて僕を見た。
「僕、ちょっと寒いんだけど、どうしよう」
キリンが更に首を曲げて、僕にひっついた。
「どう?」
温かな首が僕を巻いた。少しだけ生臭い動物の匂いと、太陽の匂いがする。
「あったかいよ」
「危ない時は離れるから、逃げようね」
テントも何もないこんな大草原のど真ん中で僕は夜を過ごす。
こんなこと、ありえないと思うのに、素肌についた岩の感触も、キリンの毛の感触も、匂いも、耳元で聞こえた声も、これが現実じゃないなんて思えない。
なんでこんなことになっているんだろう。
「ねえ、キリン」
「僕はキリン?」
キリンの顔は僕の顔のすぐ隣にあった。
「ねえ、ライオンって知ってる?」
僕は聞いてみた。
「知ってるよ。いっぱいいる」
いっぱいいるんだ……
「じゃあ、何でキリンは通じないんだろう」
キリンは黙った。考えても、お互い答えは出なそうだった。
「ここから三日位歩いたら、人間の町に着けるから、大丈夫だよ」
キリンが呟いた。
三日。
僕は一気に自分のスケジュールが頭を巡った。
仕事、どうなってるんだろう。
「多分、僕眠れないから、先に寝ていいよ」
色んな意味で、全く眠れなさそうだった。
ふさふさとした長い黒いまつげがかかった、真黒な瞳が僕を見た。
「僕もそんなに寝ないから」
茶色の口元が左右に動く。
それがあまりにも柔らかそうだったから、
僕は手を伸ばしてみた。
そっとそこを、撫でると、キリンは口を動かすのをやめた。
そこはとても柔らかかった。
「何で触るの?」
不思議そうに僕を見ている。
「ねえ、キリン」
黒曜石の塊のような瞳が僕を見つめる。
「これは夢なんだよね?」
その塊に向かって確認した。
「多分、夢じゃないよ」
キリンは答えた。
つづく