「チャンミンくんの恋人46」ユノ×チャンミン
「じゃあ、二時間ぐらいで迎えが来るから。寝てても良いぞ」
それからすぐに帰って来たマネージャーが、玄関で俺に言う。
マネージャーとユノは病院の後スタジオに直行。俺は別で宿舎からスタジオに向かうことになった。
ハーフパンツをジーンズに着替えたユノがスニーカーを履きながら、俺に振り返った。
見覚えのある目の様な気がした。
けれど、俺には焦点がぼやけて、良く分からなかった。
そのまま、ドアの向こうにいなくなった。
まだ頭が働かない。
玄関には、処分できていない主のいなくなった檻があった。
それを眺めてから、久し振りに出歩こうかと思ったけど、マンション前のファンの姿を思い出して、言われた通りもう一度寝ることにした。
今日からアップの撮影も入って来るだろうし。
雑誌も。
テレビも。
何もかもが元通りなんだろう。
部屋のドアを開けると、一部が崩れたデスク上のおもちゃが視界に入った。
でも見ないようにした。
この部屋に一人でいると実感するよりも早く、寝ようと思った。
だってまだ、俺だけ目が覚めていない可能性だってある。
携帯電話のアラームで起きる。
時刻を見ると一時間くらい眠れていて、自分の気配しかしない部屋で俺は起きた。遮光カーテンに閉ざされた部屋で、隣のデスクは見なかった。
迎えの連絡が入っていて、すぐに仕度をしてそのままスタジオ入りした。
ユノとマネージャーも時間通りに現れて、昨日撮り終えたプロモーションビデオのセットを残したままのスタジオでメイキングを作ると言う事で、何も事情の知らないアシスタントディレクター達も呼ばれていて、カット数が殆どないのに彼らに疑問も抱かれなかった、形だけのプロモーションビデオ数カットを撮り終える。
マネージャーもずっと出ていた会議の策は入念で、全ての事態に対応できるように、衣装もサイズ違いのものをユノに用意してあった。
終わった後も、撮影監督とカメラマンはユノの話題には一切触れずに「お疲れ様でした」とだけ言い合って、自分達も別のスタジオに移動する。
そこではもう、これまで通りの大勢の人間に囲まれた、昨日までのユノを誰一人知らない仕事現場だった。
楽しそうにスタッフに話しかけられながらメイクをされているユノを眺めて、俺もぽつぽつと色んな人と会話する。
途中、ユノが隣に来て話した。同じ目の高さで会話することに違和感を覚える前にまた誰かが話しかけに来て、そうやって長い労働時間は終わった。
移動車も一番後ろの三人掛けのシートには荷物だけで、俺は真ん中の分かれたシートに座る。ユノもそうしたし、以前通りだ。
「久しぶりの長い現場で疲れただろう?来週はテレビの収録も入って来るぞ」
「それは、良かったですね、ヒョン」
「……うん」
俺は目を閉じたまま会話した。ユノの声からしてもへとへとなのが分かる。でもその表情は喜んでいたかもしれないけれど。
俺は時々寝かかって、腕を動かしてしまう。それを乗せていたケージは隣になくて、苦笑いした。
つづく