夢の続き

東方神起、SUPERJUNIOR、EXO、SHINeeなどのBL。
カテゴリーで読むと楽です。只今不思議期。

「春に会う、迦陵頻伽 中編」(キュヒョン除隊記念)キュヒョン×イトゥク


「分からないんですか?」
分かってはいるが、分からない。
それを口に出せない。
この世界に入るために、形を整えた鼻、加齢にあらがうように、手入れを怠らないきめ細かな白い肌、薄く艶やかな唇、二重の女性的な目、最近はダイエットというよりも仕事の忙しさで華奢になった体、今も、黒いスーツが体に合っていないし、白い袖から出る手首は細すぎて女みたいだ。同じ年齢の一般男性よりは美しいと分かっているし、周りの評価もある。そんな外見でなければ、キュヒョンはこうならなかったのだろうか、とまた考えて、違う、人間性と言っていたと思い出した。それは誰のことなのか、やはり俺のことなのか。言葉が出てこずに、イトゥクは、しかし、キュヒョンはこの状況でも、こちらに頼っていることに改めて気づく。
「本当に、分からないんですか?」
不安そうな顔は、様々な憶測をしているのが分かる。保身のために逃げられるとか、本当に気がついていなかったのだろうかとか。でも、すがるような黒い瞳も、やはりそれ以上踏み込まずに、キュヒョンは、また端の上がる口をつぐんだ。それを見て思わず、声を出した。
「キュヒョンは、優しいね」
リーダーとして、頼られている自分が不安にさせてどうするのだと、己を叱咤したのと同時に、相手に負けないくらい穏やかに、響かせていた。イトゥクの考える美声にはならなかったが、その耳にはきっと悪くは届かないだろう。和らいだ表情が物語っている。末っ子で、メンバー達が可愛がり過ぎたせいか、誰よりも頭が良く回るせいか、年上を年上とも思わない、好き勝手なことを言う自由な弟。だけど歌唱力は抜群で、いつの間にか仕事では、全員が頼っていた。キュヒョンは今も、憶測をしながら踏み込まず、ただ自身が傷つくことを選んで、それはきっと、困らせたくない気持ちが最終的に打ち勝ったのだろう。
気付かぬうちに、もう十分に分別のついていた弟と見つめ合っている状況と同じく、向き合うしかないと、イトゥクは、寂しく微笑みかけた。
「さっき言ったこと、理解できなかったことがあった。けど、お前の気持ちは知ってるよ」
覚悟をして言った自分に、むしろ困惑しているようだった。大きな黒い瞳が揺れ、良く回る頭が逡巡している。悲しませたと思っているのが見て取れた。こんなに相手を追い詰めるとは思っていなかったというような。
イトゥクは、自分も表情を作れなくなっていることを理解しながらも、出だしとは打って変わって、戸惑っている様子のキュヒョンを見て、また出来るだけ落ち着いた調子で続けた。
「人間性が魅力って言うのは、俺のこと?」
キュヒョンらしく、困らせるから伝えなかったのではないと言っていたくせに、いざ困惑した姿を見ると、無いことにしようとする。その大人びた優しさと、それでも何か期待しているのだろう子供っぽい傲慢さに、これが同性かと思った。
もし、相手が女なら、ここまで客観的には捉えられない。焦りの種類も違う。どんな人間であれ、異性と言うだけで大目に見ている何かがあるのだと、イトゥクは思った。どうしても冷めた目で見ている。その目でも、相手と同じ気持ちになることはあるのかと、ふと考えて、それはどうでも良いと、心中で首を横に振りかけた時、色白な弟が、自分をじっと見つめたままゆるく頷いた。その様子が、兄として、リーダーとして、可愛らしさを覚え、少しだけ顏の強張りがとけた。
しかし、告白の許可を感じ取っているキュヒョンが、何の駆け引きもない自然さで、
「好きです」
と続けた台詞には、やはりまた強張った。若干は、向き合っているイトゥクの顔色を伺ったが、「どうすれば良いと思いますか?」と、キュヒョンは直ぐに問うた。
「お前はどうしたいの?」
分かっていても、決定打を下されると、イトゥクは、頭を殴られたような衝撃はくらったが、もうひるむことはなかった。少し背の高い弟を上目で見据えていた。そんな自分を、しばし眺めて、
「付き合いたいです」
と、まるで叱られた子供のように呟かれた。イトゥクは、相手に分からないほどのかすかな溜息をつく。
「それはすごく難しいと思うよ」
泣きそうに、大きな目が見えて、優しく伝えた。中年にもさしかかる男が、傷ついた表情丸出しで、黒い瞳を揺らしている。
「絶対、好きにならない?」
小さなつぶやきは、その美声を勿体なく思わせた。覆うように覗き込まれて、必死さは伝わり過ぎているほどだ。ふわりとした茶色の髪は、あと一か月もすれば全部刈られて、この弟は、自分の前からいなくなる。
「絶対」とは言えない。
事実、キュヒョンに恋愛感情を剝き出しにされても嫌悪感はなかった。男でさえなければ、もしかすると、こんなに男の外見でも、女性でさえあれば、今の心境は違ったかもしれない。けれど、イトゥクは、どうしても考えられなかった。世間的なものも当然だが、それ以前に、同性をそういう対象にしていない。
もし色々な理由が重なって、それこそ夢みたいに、性別でも変える薬や、誰でも好きになってしまう薬でもあれば、不可能ではないかもしれない。100%ではないから、心の底では否定しない。しかし、そのくらい、イトゥクには、荒唐無稽なことだった。
だから、絶対に好きにならないよ。
そう嘘をついてしまえば、良い。変に望みを持たせるよりも、一時の失恋の辛さで終わらせてやるのがベストだと決意し、伝えようとした。だが、不安で泣き出しそうな末っ子を見ると、イトゥクは、
「絶対とは思わないけど」
と口にしてしまっていた。
年上で、まとめ役の責任感に近いエゴが、これ以上この弟を傷つけたくないという正直な答えを出してしまっていた。良心に近いエゴかもしれなかった。正直なのに、嘘に近い。だから、「でも今は、そんな風に見れないかな」と続けても、今だけ互いの呵責から免れることができそうな、騙したような台詞は上塗りされるだけで、変えることはできなかった。そのせいで、イトゥクは嘘をついていないのに、良心が痛んだ。確かに嘘でもなく、状況を鑑みれば、そこら辺の人間なら振られたと捉えるだろう。しかし、この頭の良く回る弟は、今の返答に、最大の可能性を見出すはずだった。それがイトゥクには分かっていたし、キュヒョンはやはり、深刻な表情を和らげるどころか、上向きな口角を上げた。





つづく

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