「チャンミンくんの恋人31」ユノ×チャンミン
夕食中にマネージャーが明日は何が食べたい?とユノに聞いて「アイスとかケーキ」と呟いたから、いきなり限界が来たなと思った。
でもマネージャーは「じゃあケーキ食べるか」と意外にもそれを了承した。
チョコレートとかチーズとかパイとかタルトとか、
みんな自分が食べたい種類を上げながら、
何となく俺が「作ってみようかな」と言うと「じゃあみんなで作るか」と言われて、作るのはやっぱり面倒くさい、と、言ってから思ったけれど、自分が言った手前言い出せなくなって、忍者もちょっと期待したような目で見てくるし、明日作ることになった。
「生クリームたっぷりにして」
「ユノで少なかったらそれ、ないのと同じだから」
洗面台の上でユノが俺に振り向く。鏡には長袖のTシャツを脱いだ俺と、上だけ脱いだ忍者服が腰に垂れている小さな後ろ姿が映っている。
ユノが手を伸ばす。二人きりになると寂しくなるのか、俺の言い方が良くなかったのか分からないけれど、何かを確かめたくなる時にこれはされるらしい。
手を差し出すと、少し俺の指を触って見上げてくるから、その頭や顔をそっと撫でると、緩く微笑んでまた行動を再開した。
そして寝る前に、キスをしてくる。
これも確認行動とは思っているけれど、その後ユノにしばし見つめて来られると良く分からなくなる。このキスに恋愛感情を見るには自分達はあまりにも特殊な条件の元に置かれている。
本当にユノは俺と恋人同士になりたいのだろうか。
でもそれも追求しなくても自分達には済む。
俺は、ユノと恋人同士になれるかと考えると、それには同性という以前にこのユノの大きさが、それを考えさせるのを妨げている。
そういう相手とみなすにはこの存在はあまりにも小さい。軽く考えてはいないからこの条件を口先だけでも飲んだし、ユノがこの小ささになったからこそ、こんな状況に自分達は置かれたのだけれど、この小ささはユノが仮に女だったとしても関係ない、支え合うには非力すぎる。
でも俺はこれからも沢山の巨大な、いや通常サイズの女性達と外に出て会うと思うけれど、彼女達と恋愛をするほど深い関係になる前に、今の生活を維持しようとするかもしれないな、とも思う。
それはこの小さなユノがいつでもどこでも一緒にいて、二人で楽しめる生活に馴染んできたから。
……肌身離さずいられる。ユノのことを寂しがりなんて言ったけれど、もしかしたら寂しがりは俺の方だったのかもしれない。
だからきっと今の自分は物理的な支え合いを必要としていないのだと思う。
そう考えると、心の結びつきには男女はないのかもしれない。
このサイズだと男も女も関係なくて、こんな小さい女性に何かしようなんて考えは俺にはないし、元々高身長な女の子の方が好みだし。それにユノでなければこんな条件の元にも置かれなかったろうし。
だからユノとのことは深く考える必要性は今はないけれど、恋人として考え出したら分からなくなって、
ならもしこの相方が元の大きさのままだったらと考えると、
じゃあこうなっていないし、本末転倒だろ、と堂々巡りを続けることになる。
から、やっぱり考えないようにしていた。
朝が来る。
目を開ける前に、何にしたかな、と思った。
「……なるほど」
目を開けて、今日は口にも出した。
「うまいの作ろう!チャンミン!」
デスクの上からコックが俺を覗き込んで言った。長い帽子が落ちて俺の鼻にあたった。
「おー、やる気まんまんだな!」
ダイニングでテーブルについていたマネージャーが、珈琲を飲みながらユノに言った。
「どんな果物がありましたか?」
俺が来くと、
「色々買ったぞ」
マネージャーが冷蔵庫から取り出して、デスクチェアーからテーブルに上げられたユノの前に並べる。
「俺、ケーキなんか作ったことないからさ、携帯で材料見ながら買ったよ」
はは、とマネージャーが笑った。
「俺もないですけど」
「俺もないです」
拡がった材料を眺めて、
「そうか……大丈夫かな」とぽつりとマネージャーが呟いた。
つづく
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「夢の続き」にはならないのでご安心を。