「夢の続き35」ユノ×チャンミン
俺のことばに、ユノが動きを止めた。
「え……」
と、声を出したあと、みるみる笑顔になるのを見ながら、吐いた溜息をそっと吸い込んで言う。
「ただし、条件があるんです」
ユノが固まる。
「一つは……」
俺は一息ついて、言った。
「俺は再来年の三月末か四月初めには帰国します。だから一緒に住むのは実質一年と三か月ほどです。そのあとはユノさん、ここに一人で住んでください」
こたつテーブルのテーブル板をとんとんと指で叩く。
少しだけ考えるように上を見てから、
ユノが微笑んだ。
「うん!それは大丈夫!」
え、本当に分かってんの?この人。
これ結構この人にとってキツイ条件だと思うんだけど。
でもユノは俺に微笑んでいる。
まあ、大丈夫なら、次に行くか。
「それから……」
俺はテーブルを叩いた指を上げた。
ユノが真剣な顔になって身を乗り出してくる。
これを言うのは嫌だけど。
「俺とベッドで寝ること」
その目が瞬く。
「え……え?……あ、なんで?」
乗り出した身をユノが引いた。
「風邪を引かれるのはもう勘弁なんで、でも見ての通り、この部屋にはもう一つ布団を置いとくスペースはありません。だから俺とベッドです。あと、あなたにはこれから厚着させます」
ユノが自分が着ているトレーナーを見る。
「今はいいです。そして、もう一つ。これが一番重要なんですけど」
息をひそめて見つめられる。
「俺に変な事しないこと」
きょとんとしたユノの顔が、数秒置いて一気に赤く染まった。
「キスは勿論。ベッドでくっつかれるのも嫌です」
赤くなりながら、大袈裟に首を横に振る。
「しない!しない!大丈夫、任せて!」
任せて!じゃねーよ。
その点については、昨日から今朝までの記憶をはっきり呼び起こしてもらいたいんだけど。
俺はおざなりに、はいはい、と頷いた。
「まあ頼みますよ、ほんとに。……で、以上です」
上げていた片手の人差し指を下げてユノを見た。
ユノは気が抜けたように俺を見ている。
「……それで終わり?」
聞かれて、俺はまたおざなりに頷く。
「……それでチャンミンと住めるの?」
昨日から、考えてた。
そして、これしか出なかった。
なんだかんだと言って、ケーキを見て、持って帰ろうと思ったり、
玄関に出てドアの前に座っていたユノを、ホラーだと思いながら、もし俺があとちょっと帰るのが遅かったら、階段から落ちてたんじゃないかと怖くなった自分が本当のホラーで、
ここ数日、俺の良心が、放っておけない、と思っているから、ここでこうしてるんじゃないかと言うのが、俺の出した結論だった。
それに、
俺はおざなりに頷いたあと言った。
「これ変なんですけど、まだユノさんが来て数日なのに……もう一か月くらいは経ってるような感じで」
まあ慣れたんです、と言って、自分でその変な感じに笑った。
「チャンミン!」
と歓声を上げたように俺の名前を呼んで、ユノが満面の笑みになる。
さっきも見た、黒目が目にいっぱいになる、元気になった笑顔だ。
「はい」
と答えると、その笑顔が何かに気付いたように口を開く。
「ケーキあるよね!!」
そうですね、でもお祝いはしませんよ。
「お祝いしようよ!!」
「それはしませんけど、ユノさん……」
「なに?」
俺は、「よろしく」と言って、片手を差し出した。
この顔には今、これから待ち受けるだろう幾多の苦労を思い浮かべながら無我の境地になっている笑みが薄く浮かべられている。
ユノは最初理解できなかったようで、丸い目で俺の手を眺めたあと、その顔をぱあっと輝かせた。
「よろしく!チャンミン!」
只今9時23分(ユノの退役まで483日)