夢の続き

東方神起、SUPERJUNIOR、EXO、SHINeeなどのBL。
カテゴリーで読むと楽です。只今不思議期。

「一つの点を境にして、変わる瞬間に立ち会ったはじめての経験である 4 」キュヒョン イトゥク


これだけ頑張っているのにとは言いづらいが、事実努力はしている。あの瞬間からここまで、酒の一件以外では、こちらの話し方にしてもきっと問題はなかったはずなのに、今日まで変わらない冷たさを感じる。本心は、自分について、実際のところどう思われているか知りたい。本当に嫌われているのかと。しかし、そんな勇気は持ち合わせていない。から、出来ない。ただ、主張することは権利として、して良い筈だ。
その態度に参っていると。
仲間に愚痴を言うことで発散はできる。ただ、それは根本的な解決にはならない。キュヒョンは忙しなく考えを巡らせながら、とりあえず、明日の晩にしようと思った。休日の今日が最適かもしれないが、昨日は深夜まで撮影が続き、体を休めないとそれが原因でまたこじれる可能性もある。家族のためにもとんぼ返りは出来ないし、したくはない。いちいち確かめずに出てきたが、明日は遅入りで、今日は実家に帰るメンバーが多いだろうだから、宿舎は上の階のほうも、もぬけの殻である可能性が高い。もやもやとした気持ちを抱えたまま、やり過ごすしかなかった。自分で思いつきながらも何て面倒なのだとキュヒョンは思う。テレビで見るだけの頃はただアイドル業をこなすだけだと思っていたが、こなすこともままならず、人間関係に悩まされる。けれどもう賽は投げられ、夢は現実となってしまった。この中で最善を尽くすしかなかった。
翌日。楽屋では、やはり実家の話題ばかり聞こえ、グループの中に中国から来た人間もいるが、彼と彼に付き合うように残った年上メンバーを除いては、ほぼ全員が帰省していたようだった。今日の話し相手も帰っていたらしく、仲の良い数人と談笑している。今話しかけられなくても、帰ってからで良いだろうと、キュヒョンは落ち着かない気持ちでちらちらと横目に見た。艶々とした唇が笑う。その左側には笑うとえくぼができるのは前から知っている。ファンに貰った銀のピアスと黒に染められた毛先にも目が行き、キュヒョンは顔をしかめた。イトゥクの硬派さは天下一品で、自分に対するあたりの厳しさでここまで思い悩んでいるのに、その口元は優し気で、雰囲気のせいかどことなく綺麗に見えなくもなかった。整った容姿は仕事柄当たり前でほぼ全員に言えることだが、キュヒョンだけに見せる厳しさがあるからなのか、外見が相反して見えた自分が気持ち悪く、仕事中出来るだけその姿を視界に入れるのはやめていた。
深夜になり、帰宅する移動車が年上組と別れる前に、キュヒョンは煙草の匂いに香水が入り交じった腕に手を置いた。自分より背は低いのに、パーカーの上からでも鍛えているのが分かる硬さで、こちらを見た無表情にもひるんでしまう。
「なんだよ」
本当に、険しいなと昼間の談笑している姿との違いにうんざりして、キュヒョンは二重の目を細め、一瞬視線を横に逸らせた。
すいませんと言って手を離しながら、また向き合う。
「帰ったら、ちょっと聞いて欲しい話があって」
訝しんでいるのか考えるような間があき、これはもしかしたら断られることもあるのかと思った矢先、「分かった」と表情を変えないまま、返事がされる。軽く唾を飲み込んだキュヒョンに、
「遅くなると他のメンバーが休めないから、飯食ったらすぐに俺の部屋に来い」
そう続けて返事が待たれた。はい、と言ったキュヒョンに頷くと他のメンバーが窓からこちらを見ている移動車に乗り込まれる。その姿をぼんやり見ていたが、後方の移動車から声を掛けられ慌ててキュヒョンも乗り込んだ。
緊張からか晩御飯は喉を通らずに、帰宅して30分ほどで上の階へ向かったのに、イトゥクと一番仲の良い年上メンバーのカンインに、
「今あんまりかも」
と、玄関で苦笑された。上の階へ来ることも殆どなく、こちらは決死の覚悟に近いのにどういうことだと眉をひそめる。
「まあ入って」
その表情を読み取ったように、恐らく今日着ていたトレーナーを脱いだだけのタンクトップ姿で廊下に通してくれる。下の階と違って、大量の靴は整理されていて、スムーズにそれを脱いで上がった。
「どういうことですか?」
「今電話中で、多分お父さんと話してる」
「じゃあ、終わるの待ちますよ」
前を歩いていた人間が、足を止めて振り返った。すぐ左のキッチンではまだ食べている人間が数人いる。しばし視線を泳がせて、「多分、あんまり機嫌よくないぞ」と下唇を突き出して不穏な空気を和らげようとされる。
「そうなんですか」
キュヒョンの声が沈んだのは分からなかったのか、カンインはまた歩き出し、中から微かに声の聞こえる部屋の前で、頭でドアを指した。無意識に口から息を吐き出したキュヒョンを置いて、台所に消えて行った。
ノックの音で、まだ耳に携帯電話をあてたままの中の住人がすぐ現れた。声を出さすに「入って」と言われ、キュヒョンは恐る恐るそうした。晩飯を食べていないのか、シャワーを浴びてすぐ電話がかかってきたのだと分かった。同室のメンバーのベッドに腰かけて、肩にかけられたタオルと濡れた毛先を眺める。
キュヒョンが腰をかけているベッドの主は、煙草を吸わないからか、窓が少し開けられて、普段はその隙間に向かって吸っているのかもしれない。今はキュヒョンに向かい合うように向こうのベッドに座って吸っている。その様子からもカンインの言ったことは当たっているのが分かった。春は終わりかけているがまだ肌寒い。床暖房がなければTシャツとハーフパンツで来たことを後悔しそうだなとキュヒョンは思った。「それは無理だから。もう切るよ」と言って彼のため息と同時に通話は終了したようだった。その会話の内容は見当もつかないが、普段の表情は柔和なのに、こちらに向かれると険しく、それに苛立ちの引きずりも加味されたそれが、真っ向からキュヒョンと相対した。







つづく

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