「Kiss me,baby.27」ユノ×チャンミン
女性店員が、注文した料理を持ってくる、彼女の白い腕が、ユノの目の前に突き出されるのを俺は見る。同様に俺にも置かれた。
「分かった。確かにここ最近、お前のこと避けてたかもしれない。それはやめる」
ユノが投げやりに箸を取って料理を食べだした。
「でも見ないんですね」
俺も箸を手に取って、口に運ぶ。料理は味がしない。
「食ってんだよ」
手元しか見ないユノを眺めながら、俺も味のしないものを食べる。
こんな機会、もう来ないかもしれない。ユノは多分、二人で会う事すら次は全力で避けるだろう。そう考えると、気になっていたことを一から十まで確かめたくなる。
料理は更に、味がなくなった。
「二人だけなのが、気まずいなら、あの後輩でも呼びましょうか?」
ユノの手が一瞬止まって、でも表情を変えないまま、また食べだす。
「呼べば?」
「嫌そうだから、呼ばないです」
「どこが嫌がってるんだよ?」
ユノが箸を置いて、本当に嫌そうな顔をした、俺に。
「俺は、お前に彼女が出来て欲しいって思ってるよ」
俺も箸を置いた。どうせこれ以上食べられない。
「あの子が好きなのはヒョンです」
「でもお前はあの子をそういう対象で見てたよ。この一年」
俺が黙る番だ。俺を見たユノが顔を斜め下に俯ける。
「……すごい洞察眼で」
ユノも黙った。俺も予期せぬ露呈に視線を泳がせた後、一息ついて言った。
「確かにそういう対象では見てましたけど、別に好きだって思ったことはありません。彼女は完全に最初から、ヒョンだったから」
「頑張ればいいんじゃない?」
ユノが立ち上がる。俺も続いて立ち上がった。
「どこ行くんですか?」
「もう行く」
ユノがジャケットを羽織った。
「一時間半はあるよ」
「あの子呼べよ」
足を進められる。
「そんなこと思ってないだろっ」
引き止めようとした分、声が大きくなった。ユノは立ち止まって振り向くけど、やっぱり視線は床に落としたままだ。
「あの子とうまくいけなんて、ヒョンは思ってない。なら何で俺に告白したんだよ、何でこんなものくれたんだよ!」
ユノは喋らない。
「こっち向けって」
ユノが俺を見た。でもその目は睨んでいる。俺は構わずに、正面に歩み寄った。
至近距離になった俺より背が低い、
上目になったユノの、鋭かった目が変わる。
「俺と上手くいかなくていいなんて、本当は思ってないくせに。あんな目でキスしたのは、俺と、どうにもなれないのが、哀しいんだよ」
ユノの眉がひそめられる。でもキスの言葉でその視線は変わっていく。
「本当は俺とうまくいきたくて、たまらないくせに」
俺を見る目が、意識していく。でも、自分達の顔が近づいていくのは無意識だ。
「俺に嫌がられたくなくて、嫌われたくなくて、あんな軽いのを最初にしたんだよ、ヒョンは」
黒い瞳の瞳孔が開いて来る。
その瞳が、潤んで来る。
それを確認するように、近づけていく。
「でも、本当は俺ともっとキスしたくて、たまらないくせに!」
そらせなくなったユノの目が俺のそこから逃げられなくなる。
俺もユノの瞳に合わせていた視線の先が変わっている。
お互いの唇から俺達は、逃げられなくなっている。
顔を傾けて、その唇と重ねようとした俺に、ユノが慌てて背中をそらす。
「それはだめだろ」
更に離れようとするユノの腕を掴む。
「それって何?」
ユノが目を見開いている。
「ヒョン。それって何ですか?」
つづく