「チャンミンくんの恋人22」ユノ×チャンミン
肌身離さずいられてしまえるようになったから。
そのことが通常になってしまったから。
たった数日なのにそうなったのは、
自分達の「ほぼ毎日顔を合わせて、長く助け合ってきた」境遇の元で、別個の人間として生活していた条件が外れて、更に相手という個体に慣れたからだと思う。
「そこにいるのが当たり前」なんてものじゃなくて、「いつも身近にいないと不安を覚える」存在になったみたいだった。
ユノが俺にその感覚を抱くのは分かる。
でも俺もそうかもしれないのは、
それが物言わぬ小動物じゃなく、人間で……ユノだから。
テーブルの上の悪魔を見つめる。
頭まで一繋ぎになっている服だけれど、起きた時とは違って家を出た時とは同じく、
ツノのついた頭は脱いで首の後ろで弛んでいた。
自分と一緒の茶色い直毛が出ている。
「頭被らないんですか?」
「きつい」
サイズが小さいんだろうな。
こちらをじっと見ている。
「お帰り……」
「……ただいま」
テーブルの端まで来てユノが手を伸ばした。
その手を揺らすから、テーブルに近づく。
自分も手を差し出した。
俺の指を触っている悪魔を見下ろして言う。
「やっぱりバイキンマンみたいだね」
俺を見上げて、なぜか不満そうに頷いた。
「こっちは食べたけど、腹減ってるか?」
マネージャーがグラスに入れた水を飲みながら言う。
「いえ、現場でも機内でも食べました」
「そうか」
「風呂入ってきます」
「俺も入る」
茶色い髪の悪魔が俺の指を握った。
何となく胸が痛くなるのは、きっとその握った手が、想像よりもずっと力が弱かったからだ。
「今日、何してたの?」
ユノは三角座りで俺をじっと上目に見つめて、口を突き出してる。
「答えてよ」
「……運動」
突き出した口でユノが呟く。
「どんな?」
「廊下走ったり、ダンスの振り付け確認とか」
マネージャー……ダイエット本気でさせたいんだな。
「何食べたの?」
正面の洗面器の中で、ユノは視線を横にそらせて黙った。
「答えてよ」
「……玄関まで、見送ろうと思ってた」
そんなことを考えてたのか。そんなに素直に言われると思わなくて、こっちは視線を泳がせる。
「ダイニングでも変わんないでしょ」
「俺も……仕事したい」
それは考えてただろうな。
「まだ三日しか経ってないでしょ」
「十分だろ」
ユノが呟いた。
忙しい最中だったしな。
俺は溜息をつく。
それは小さかったけれど、きっとユノにはばればれだ。
「いいこと、考えたんだ」
「何?」
俺を見ないまま、ユノが膝に視線を落とした。
「俺、小さくなった人専用のアイドルになるのはどうかな?その人たちの前ならライブも出来るんじゃない?」
そう言って自嘲を込めて笑った。
「俺はどうなるんですか!」
ユノがきゅっと目を瞑った。
「あ、耳」
「……大丈夫」
声を荒げた俺をユノが見た。
二人でふてくされたような顔をして見つめ合いながら黙る。
「……冗談だって」
「どうかな」
多分、冗談じゃない。
依存なんて言ってるけど、ユノは、俺と一緒に芸能活動が続けられるのならどんな形でだってやるだろうけど、俺と仕事のどちらかを選べと言われたら、きっとユノは仕事を取る。
「出ましょう」
俺たちは風呂から出た。
つづく