夢の続き

東方神起、SUPERJUNIOR、EXO、SHINeeなどのBL。
カテゴリーで読むと楽です。只今不思議期。

「SUMMER GIFT」テミン×ウニョク(誕生日記念)(除隊記念)


夏の日に、喉から手が出て心臓が止まるかと思った。
血の滲む努力も無駄だと悟り、そうすると、つまり血の滲む努力をし続けないといけないと言うこと?と思った自分の喉から。
怖い。
きもい。
ツライ。
すごくツライ、でしょ?そういうのは。
昼間から見た幻覚に驚いて、ウニョクは目を逸らしながら、そこまでかよと表情変えずに思う。
そんなに、プライドとか持ってたのか。
見た光景と、怖くなった。鼻筋が通った自分の鼻の下で、ぼやける口元から三本目の手が、長く、伸びて、目の前の人間を掴もうとした。
とか怖いよね、と「ここまで」と振付師に言われた言葉を聞きつつ、ウニョクは何もないフローリングにまばたきをする。
何だよあれ。超怖いわ。
思いながらも、振り付けは滞りなく済み、初日の練習を終えた。同じ事務所の中で異なるグループから選出され作られた三人のダンスチームは、スケジュールも合わず、二日しか合同の練習時間はないが、既に全員が踊ることが出来た。
しかし、ウニョクは、踊ることは出来たよ。出来たけどさ、と、帰り支度にシャワーを浴びに行ったりそのまま着替えにロッカールームに移動する人間達の中、レッスンルームの真ん中で考えていた。
次に使う人間がいるから、ここには残れないが、自主練習できる場所はある。するか、しないか。
しても、多分あの動きは無理だ、と考えた瞬間声をかけられた。
「どうしたんですか?」
立ち尽くしている間に、Tシャツもハーフパンツも冷房で乾き、汗をかいた頭だけが濡れている姿で、ウニョクは振り返った。
一緒に踊っていた後輩がいる。
自分と似た白い肌で、自分より綺麗な、女の子みたいな顔をして、さっき伸びた手が掴もうとした相手とほぼ遜色なく踊るんだもんな、と眺めた。そこまで汗もかかなかったのか、シャワーを浴びずに帰るようでキャップを被っている。
自主練しようと思って、とは言えなかった。年下の後輩二人が、自分に付き合って帰ることができなくなるので、ウニョクは「ちょっと、感慨に浸ってて」と呟いた。
にこっと笑った顔を見て、「お疲れ、お前ら気を付けて帰れよ」と言って隅に置いていた携帯電話を取りに行く。
「あいつこれから、メンバーと合流してまた振り付けなんです」
「やばいね」
ウニョクは答えて自然と笑いながら、シャワーを浴びていると思っていたあと一人がまだダンスレッスンをする姿を想像すると、そうするか自分も迷っていたのに、急に疲労を感じて、今日はやめようと思った。
「じゃ一緒に出る?」
「はい。ウニョク兄さんは、シャワーは浴びないですか?」
「んー……」
気持ち悪いほどは……はっきり言って汗はかいていたので、黒いTシャツが完全に乾ききって、ジーンズもダンス用ではなく、すぐに帰宅できる私服で練習していた後輩を見つめて逡巡した。
「浴びようかな。お前先出る?」
付き合いも長く、特に気遣いなどなく、今はどちらかと言うと一人になりたい気持ちがあったが、地下駐車場に行くくらい何と言うことはないし、ただべたつく体が気持ち悪いだけだった。
「じゃあ、俺も浴びます」
「お前帰るつもりだったんじゃないの?」
ウニョクはそこまで気を使われるのかと、あっさりした目元を拡げる。
「俺も汗かいてて。行きましょうか」
そう言って腰を屈めて携帯電話を取る自分を微笑んで見下ろしているから、ウニョクはまだ乾かない白に近い金髪の短髪を、「おう」と後輩に気を使わせてしまった気まずさで振りながら、姿勢を戻した。
シャワールームに移動する廊下で、背の変わらない彼の頭を横目に見た。前髪も耳に掛けられるくらいの長さの黒髪は濡れていない。
「一人で先に出て大丈夫だけど?」
隣が正面を向いたまま、目蓋を閉じて苦笑した。その柔らかい表情は本当に女のように見えた。しかし身長は170過ぎの同じほどだし、サイズが丁度のTシャツから見える二の腕も胴体もかなり細くても鍛えているのは分かる。
「気になることもあって、話したいって思ったんです」
「そうなの?なに?」
「さっきの練習中、兄さん動きとめたでしょう?」
「流石だなあ」
わざとらしい言い方で、相手も反応しないが、本心ではあった。鏡ばりの部屋で、ばれて当然だが、ウニョクはあんな短い出来事に気付くなんて余裕があるなと思った。
動きをとめたと言われたが、振付師が動いていて、自分達はそれに軽く合わせていただけだ。自分のグループならほぼセンターで踊っているからダンス中にそれは分かるが、後部に紛れると、多分メンバーは気にもしないだろうと思った。
「何でもないよ。後輩がうま過ぎて、感動しただけ」
「感動したように見えなかったですよ」
「流石だなあ」
個室が並んでいるシャワールームに着いて、「すごい驚いたように見えました」と苦笑したまま言われ、「後輩が上手くて驚いちゃって。じゃああとで」とウニョクはその中の一つに入った。
備え付けの小さなロッカーに荷物と着替えを入れ、頭から湯を浴びながら、さきほどの光景を思い出した。
疲れてるのか、漫画みたいだったなと思った。
湯がだくだくと頭を伝わっている中、しかし、すごかったな、と十分明るい個室内に視線を泳がせた。
それから唇の色が赤めの口を開けて、少し触った。柔らかい自分のそこがあるだけだ。
数秒もなかったかもしれない、幻覚。
あの手は、掴んでどうしようとしたのだろう。
どうにもならないだろうに。
確かに、俺の手だったと俯いて、両掌をこちらに向けて拡げた。
短く頭を振る。さっさと済ませて貸し出しのタオルで体を拭き、来た時の服装に着替え髪も乾かし個室を出た。入口で荷物を持った後輩が先ほどと同じ服で座っていた。座ったままウニョクを見上げる。
「なんか喉乾きましたね」
「乾いたな。奢ってくれる?」
「どうぞ」
笑いながら、ペットボトルのスポーツドリンクを差し出されて、ウニョクは目を丸くした。
「いやいや、払うよ。何だよ人をケチみたいに……見抜いて」
最後は聞こえないくらいのトーンで呟きながら、リュックから財布を出そうとすると、「日頃のお礼です」と言われた。
「お礼なら次から車とかにしてよ。ありがと」
後輩も、同じペットボトルの蓋を開いて飲んでいる。座って飲むかと隣に腰を下ろした。
「兄さん。さっきのあれ教えてくれないんですか?」
「俺が忘れたって」
正面を向いて、脱力したように言いながら、蓋を開けて口付けた。
「全員気付いてましたよ」
隣は応えず、続けた。
「えー驚くなあ。それよりそんな大したことだったっけな」
ウニョクも表情変えず、飲み続ける。あまり冷えていないが渇きは癒えてきた。
「兄さんのあんな顔初めて見ましたよ」
「俺は日々驚きの連続だよ」
「あんな傷ついた感じの顏」
ごくごくと通過して行く、その場所から伸びたものをウニョクはつり上がったころっとした目で、もう一度再現して見た。
遅れて、返事をした。
「俺は、驚いてたんだろ?」
「驚いてました」
「いつ傷ついたの?」
「その後そう見えました」
「お前凄いな、俺のこと好きなの?」
「いいえ。え?あ、人としては好きですけど」
「それにしては返事早くない?本当は嫌いなの?」
目を線にして声を出して笑っている後輩に、表情をゆるめてまた正面を向いた。
「そんな顔分からないだろ」
後輩はまだ笑って答えない。
「テミン」
「すいません、失礼なこと言いました。ちょっとそう思っただけなんです」
名前を呼ばれたテミンは申し訳なさげに笑い終えた。
殆ど空になった自分のボトルに対して、あまり口を付けられていない相手のそれを横目で見ながら、ウニョクは溜息をついて、しばし考える。
その間、隣も何も言わず、ちびちびと口つけている。夜も遅くなってきたシャワールームには人が来ず、広い空間に自分達のためだけに蛍光灯が灯っている。
汗をかいたあとのさっぱりとした体とTシャツ姿と空気感に、ウニョクは、なんか夏っぽいなと思った。
「傷ついた、つもりはなかったけど。驚いたのは驚いた」
「何でですか?」
表面から落ちて来る滴を感じながら、ウニョクはボトルを持って、こちらに顏ごと向け見つめて来られるのをちらちらと伺い、躊躇ったが、「俺、疲れてるみたいで」と言って、Tシャツから突き出ている互いの腕に視線を泳がせた。自分も細いが、年齢が上なのもあり、鍛え上げ程よく脂肪ものった腕は太く、後輩は顔のイメージ通り、鍛えてはいるが華奢に見えた。
そんな相手に年上の自分がどこまで言うのかと思い、「疲れてるみたいなんだ」と続けて終わらせた。
噴き出して笑う彼が「ウニョク兄さんは、いつも兄さんて感じですね」と言うと、「どんな感じ?どんな感じ?」と体ごと向ける。
「もう兄さんが教えてくれない」
前屈みになって笑っている後輩を見て、こいつも成長してるんだなと、ウニョクは彼の昔のもっとか弱く、引っ込み思案だった姿を思った。確かに、あの頃から闘志は誰よりもあった気がするけど。
「俺の口から手が伸びた」
そんな彼に、良いかと決めた。
「前で、踊るあいつをその手が捕まえようとした。気付いたらなくなってたけど。すごいリアルだったよ」
後輩が口の端をまだゆるめようとして、戻す。眼差しは真剣と言うよりも、ただ見ていた。
「結構焦って、感触とかはないんだけど。お化けみたいな、ちょっと開いたところから出て、それから血管とかも浮き出て、俺の腕と全く同じなの」
やばいだろ?と思い出すように点々とさせていたそれを彼にもう一度向けて、見直した。
「今度はお前に伸ばすから」
ははとウニョクは声だけで笑った。
しかし、後輩が笑いもせず驚きもせずただ自分を眺めているので、見つめ合ってから聞いた。
「オフの顏になったの?」
「俺もありました」
「ええ!って何が?」
笑顔になった相手に、「まじで?」と静かに正面を向いて後ろの壁にもたれた。
「ジョンインと会ってすぐくらいに。あれも夏だったかな」
ジョンインはもう一人の後輩の名前だった。
「はじめて一緒に練習した時、最初にあいつが踊って、俺は立ってて、そしたら口から手が出て伸びて行きました。あれから出てないけど」
ウニョクは目の前の床を見つつ、思い出していた。
「うそだな」
何も返事せず隣も同じように後ろの壁に凭れたのを感じながら、暫く黙ったが、また聞く。
「その手はどうなった?」
「消えました」
「すごいじゃん。俺たちは未知の領域に踏み出したんだ」
「はい」
感情のこもっていない返事を聞いてから、「テミン」と後輩に向くと、彼も見た。近距離で見つめ合うと、ウニョクは改めて綺麗な顔をしていると思った。
「兄さんて綺麗な顔してますね」
「はあ?お前に言われると思わなかったけど、俺も自分でそう思うよ、ありがとう。話戻していい?」
「はい」
どう見ても男の自分より、少しでも女性的な後輩の方が顔の整い方など考慮しても綺麗に見えたが、それも何か気にくわないと思ったことは置いておき、ウニョクは「その手はあいつを掴んだの?」と聞いた。
「それが分からないんです。気が付いたら消えてたから。だから掴んだりはしてないかな」
テミンが再び凭れたから、ウニョクもそうして正面を向いた。がらんとした空間を見つめる。
「何がしたかったんだと思うよ、俺たちの手は」
「欲しかったんだと思います」
隣も呟いた。
「天賦の才的なことをお前は言うの?」
「手に入らないから」
「入らなくても良いよ。くれるなら貰うけど」
見開いたそれが向けられたのが分かったが、ウニョクはそのまま凭れていた。
「でも……傷ついた顔に見えましたよ。俺はすごい嫌だった。まるで決定されたみたいで」
「俺は、あいつに才能があるとか、自分にないとか、そう言うのはきついけど、良いよ。それ言うなら、俺たち二人とも才能あるだろ、そう信じてるし。そうじゃないんだよな」
ウニョクは、あの時思ったのは、と。そんなプライドや意地があったのだと怖くなった。満たされれば出ないかもしれないが、出ないだけだ。
「確かに最初からあれば違ったろうけど、今与えられても、遅いよ。また言うけど、くれるならもらうよ。でも、あんなの出すほどの自分と一生だぞ。天賦の才が集まったとこに行けば、その中で一番とか競うの?その度に俺あれ出すのかよ」
それってすごい怖いよ、とテミンを見ると、見ていた。そして、わずかに笑っていてウニョクは眉を寄せる。
「どこらへんが面白かったか、教えてくれたら嬉しいけど」
「なんか、兄さんの聞いて、気が楽になりました」
「そう。良かったね」
破顔しながら「聞いて下さい」とテミンは言う。
「今まで、あの手が出たってことは、才能がないんだってことばかり考えてたけど、そうじゃないかもしれないってことですね。才能があっても出すかもしれない」
「どうかな。天賦の才ってのがあるなら、それがある人間には出ないかも。言いたくないけど、俺よりダンス上手いお前達になくて自分にそれがあるとは思えないしな。そもそも周りで聞いたことないよ。口から手が出て困ってる奴をお前は知ってるの?」
無言で首を振った後輩を短く鼻で笑った。
「俺は全然気楽にならないぞ。このまま努力するだけで、最悪だろ」
「手が出て良かったこともあるかもしれないですよ」
いつの間にか年上を元気づけようとするほど、明るい表情になった後輩を見る。
「例えば?」
「こうやって兄さんと話すことが出来たこととか」
「どちらかと言えば、出なかった方が良いけど、お前はどう?」
テミンが声をだして笑いながら。「じゃあ、これを機会にすごい友達になるとか」
「すごい友達って何なんだ。俺たち口から手出してんだぞ?恋人くらいにならないと割に合わないだろ」
じゃあなりますか?と腹を抱えて笑っている相手にウニョクはもう一度壁に頭をつけて「俺、男は良いかな」と傾げた。
「俺もいいです」
「気が合うからいつでも恋人になれるな」
涙を拭って笑っている彼の本物の手から、ボトルが落ちて、シャワールームの床をごろごろと転がっていく。
自分のことを気遣った量がシェイクされていて、あっさりした目元でそれを眺め、ウニョクも段々と赤めの唇の端をゆるめた。
「とりあえず今から飯でも食いに行って、楽しむくらいしないと割に合わないな」
「俺奢りましょうか」
「それなら、俺が尻かしてやる」
嘘だよ、日頃の礼だからと立ち上がった自分を涙を流しながら笑って見上げている相手に、今度は声だけじゃなく、
「楽しさによっては恋人も考えるか」
そう言って、ははっと笑ったウニョクの高い鼻が感じたのは、去年より楽しくなりそうな夏の匂いだった。








『SUMMER GIFT』おわり






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