夢の続き

東方神起、SUPERJUNIOR、EXO、SHINeeなどのBL。
カテゴリーで読むと楽です。只今不思議期。

「Kiss me,baby.1」ユノ×チャンミン


「チャンミン。もう我慢できなくなった」


と言われて、俺は、


「はあ」


と、声を出した。






久しぶりにプライベートで飲んでいた。


芸能人御用達の個室の焼肉屋で、


サムギョプサルに、韓牛、
今メニューを見たらポッサムもあったので、これはいいな。と注文したばかりだった。


二人だけのアイドルグループになって長い自分達は、宿舎も別々、
こうやって仕事以外で会うのなんて久しぶりなんじゃないかな。


「でも俺が抑えきれなくなっただけだから、チャンミンはいつも通りにしてていいから」


中まで凍ってそうな生ビールのジョッキの取っ手を持って、
片割れ、というか二人しかいないけどグループのリーダーが言う。


「はあ」


また俺は声を出しながら、自分のジョッキを見ると空だったので、店員を呼んだ。


「すいません。これおかわり」


と言って顔を上げると、正面で、リーダー、ユノが少し唖然とした顔をした。


「あの、どうでもいいんですけど、早く本題に入ってくれませんか?」


「好きだ」


俺に向かって呟いた顔を見る。
店員がすぐに持ってきたジョッキを受け取った。
また個室には二人だけになった。



「好きだチャンミン」



こちらを見つめて今度はしっかりと言ったユノを眺めながら、俺はそのジョッキを口に近づけて、中のビールを飲んだ。


それから、目の前にあった辛味噌で和えられたねぎを食べた。


それからもう一度、


「はあ」


と、言った。



軽く要約すると、


一年位前からずっと好きだったけど、チャンミンは普通に女の子が好きだし、自分のことをなんとも思ってないのは分かってる。なんたってアイドルなんだから、スキャンダルはだめだし、付き合いたいとかはないし、むしろ俺の気持ちに応えられるのは困るんだけど、俺はチャンミンに気持ちを言いたかった。


とのこと。




おったまげた。









あの人、そうだったのか。



朝、歯磨きしながら、鏡に映っている自分を見る。



イケメンだよな。


イケメンな……男だよな、俺。



まあ、ユノもイケメンだとは思うけど。
いや、イケメンはどうでもいいんだけど。
とにかく、男なんだよ。俺も……ユノも。


そんなこと思ってたら、久しぶりにマネージャーが来る時間までに用意が出来ずに、


集合時間に遅れた。


とは言ってもその時間も余裕を持った設定だったし、仕事には支障がない。


でも、移動車で隣の席に座ったユノが俺にこそっと言った。



「次、遅刻したらキスするから」



もう一昨日までのユノじゃなかった。


一瞬、気が遠くなりかけながら、
ぎょっとしてその顔を見た。


「ヒョン。冗談でしょ?」


「ううん」


「ヒョンは今まで俺の嫌がることは言わなかったでしょ?」


苦笑される。


「嫌なんだ」


そりゃそうでしょ。


「でも俺、今恋してるから」


「勝手にしといて下さい」


「遅刻はだめだろ」


「もうしません」


「それならいいじゃん」


「よく……ない」


と言って、その顔を見た。


「ううん、だめ。絶対にするから」


そう言って微笑んだユノは、



完全に恋してる目だった。









つづく

「ジル・ド・レの住んだ町1」ユノ シウォン チャンミン キュヒョン

*ユノの相手がチャンミンではない可能性がございます。
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時は19世紀初頭。



これは二人の、とても仲の良い青年達が住む、小さな町に起きた物語。





フランス革命後、アンシャンレジームと言われる旧体制が崩壊し、古い封建制度が撤廃された。
聖職者、貴族、農民、市民はその活動領域を曖昧にし、旧制度で分けられていた身分の違う者同士が、交流する場も増える。


そんな中、彼らは出会った。


けれどもし、旧体制が存続していた世の中でも、
出会ってしまえば彼らはきっと仲良くなったのだ。


雪解け水が野山を伝っていく。
そろそろこの町でも、長かった冬が終わりを迎えようとしている頃である。



木枠に手をついて、シム・チャンミンは窓の外を見つめていた。
昼過ぎから小雨が降ったせいで、もう外は日が暮れようとしている。
雨は上がったものの、太陽は最後まで顔を出さなかった。
チャンミンの視線は下を向いている。
もう殆どが夜、の景色を見つめて、その少し横幅のある口の角を上げていた。
同じ目の位置にあるのは背の高いマロニエの木だけだけれど、もう葉が落ちてしまっている。
そして、その日暮れに間に合うように、一人の男がこちらに走って来るのが見えた。
チャンミンは、鼻から息を出して笑った。
階下に駆け下りる。


「チャンミン様、お見えに」


「分かってる!」


階段の下で使用人が声をかけてきたのを遮って、上着の裾をはためかせてチャンミンは客間に向かった。


並べておいてあるソファーのいつも同じ場所に座っている。


聞いたところによると、「いつも自分は汚れているので、このソファーにだけ犠牲になってもらうことにした」と、言うことらしい。


「遅かったな」


向かいのソファーに腰をかけた。


「悪い悪い。すごいニュースがあるぞ」


部屋には暖炉が赤々と燃えている。この友人のために一時間も前から部屋は暖められていた。


「なんだよ」


チャンミンは自然と顔が綻んだ。


この男と過ごす時間が何よりも楽しいのだ。


いつもは旧貴族として、言葉遣いの比較的柔らかなチャンミンだけれど、この時だけは童心に返ったようになる。


初めて会ったその日に、友情にも運命があるのかと不思議に思ったほどだ。


そして、この友人は、いつもチャンミンに誰よりも新しい情報を届けに来るのだ。


友人は自分の心を落ち着かせるように、一呼吸おいてチャンミンを見た。


「……もう一つの城も買われているらしい」


「本当か」


チャンミンは顔の中で、人より比率の高い目を更に大きくして見せた。


やはり、今日の情報も言うだけのことはあった。


友人は頷く。


「明日の夜会では、その新しい城主も来るそうだ」


「それはすごいな。二つの城の城主か」


「ああ」


「一緒に行くだろ?キュヒョン」


友人の名前だ。


でもチャンミンはこの友人が首を縦にふらないことも予感していた。


「そうはしたいけど、明日も時間が読めないからな。気にせず先に行ってくれ」


やはりそう言って笑った。


「そう……」


思っていたけれど、少しばかり残念な気持ちになった。


なかなか二人が同じ夜会に招待されることはない。


チャンミンは生来夜会はそこまで好きではない。


でも今回は友人と一緒だということだけで、いつもより楽しい気持ちになっていたのだ。


「仕事が片付いたらすぐ行くよ」


その顔を見てキュヒョンが笑った。


「うん」


チャンミンは頷く。
チャンミンは働かなくとも生計を立てることができる。
貴族制度が撤廃された後、貴族の多くが貧困で苦しんだにも関わらず、彼には生活を変えなくてもいいほどの十分な資産があった。
けれど、キュヒョンに仕事と言われた時にはいつも心なしか羨ましいと思ってしまうのだ。
それはこの友人が、その仕事に多大いなる情熱を持っているからだった。
それが少し羨ましく、今回は少し残念にも思ったが、チャンミンは自分の望む仕事をしている彼をとても誇らしく思っていた。


二人は早くに親を亡くしている。
それは稀な一致であり、それ以外何一つ境遇が違うことは稀な不一致だった。
その全ての条件の下、町中の芝居小屋で出会ったその日から、二人はすっかり意気投合したのだ。


これはアンシャンレジーム崩壊後に生まれた、元貴族と市民の友情なのだった。



「明日はチャンミン、モテて仕方ないぞ」



キュヒョンがにやにやと笑った。


「やめろよ」


「いや、お前も逃げてばかりいないでそろそろ」


「いいんだよ。俺はまだ」


そう言って首を振るチャンミンに、キュヒョンはいつも言葉がつまって、冗談を言っていた声色が変わってしまう。


「また、お前はそうやって」


「いいんだよ、うるさいぞ。お前こそ見つければいいだろ」


「俺は仕事が奥さんだ」


チャンミンはいつもの友人の口癖に微笑んだ。


「はいはい」


「いや、でもどんな人間であれ、城主二人が一番、目は引くだろうな。俺まで呼ばれるような夜会を開くくらいだ」



キュヒョンの言う通りだ。




明日の夜会はとても、不思議なものだった。




ここは辺境の町である。しかしそんな町にも、二つの小さな城があった。
革命後は町で一番資産のある貴族が保有していたが、近年、病で倒れ、その土地を手放す話が出ていた。
小さいとはいえ城である。
誰も買い手はつかなかったのが、二つ続けて、新しい所有者が現れたのだ。


その最初に買われた城から、二週間前、夜会の招待状が届いた。


チャンミンは夜会に招待されることは多々ある。
それはその容姿に加え、チャンミンがこの町でも裕福な方の貴族だったからだ。
夜会は、実力者、権力者など、招待する側のステータスに反映されるものが招待されることが多い。


しかし明日は、この町の年頃の男女が、なんと全員招待されたのだった。
言葉通り宮廷舞踏会だ。



「どんな人間なんだろうか」



チャンミンはまだ見ぬ主催者を思って、視線を空に漂わせた。








つづく

「夜光虫1」ユノ×チャンミン


「死んでいる人間を見たことはあるか?」



その黒い瞳の中には虫がいた。生命が明滅を繰り返している。
もう誰もいない。深くあいた慟哭は海のように拡がっている。波打ち際で、向こう側に来いと呼んでいる。そこで見えた光を、俺はその虫に応えている。


ーーねえ、本当は、


ーーあなただって、


ーーいきたくないんでしょう?








「偶然だね」



と、少し面白そうに言われた後に、でも複雑に目元が歪んだ。
俺はそれを見ながら、まだそんな類の表情を読む気持ちの余裕もないことに、封筒を持つ自分の手が造作もない紙に穴を開けそうなほど湿っていることで気づいている。
太陽の光は翳って、もう網膜に反射してくる光線の色は変わっている。


その原因がこの封筒の中にあった。


もっと早くに済ませられると思っていた。ここは日本だったから。でも俺の予想に反して、その手続きは、正確すぎたのかもしれないと思う。けれどやはり理由は分からなかった。
今日中に、顔を出せただけでも良かったのかもしれない。


自分は今、研究室に向かう廊下を歩いている。




「君と同じ国から来てる人がいるよ」




と言って、彼は前を向いた。日本人らしい黒縁の眼鏡の奥から、思考を読み取れないようにそうした様な気はした。でもそれが確信できるほどの、心の余裕も、体力も残っていなかった。


気候もあった。


昨日初めてこの地に踏み出したとき、口の中に潜り込んでくるような重さを持った空気に、吐き気を覚えた。息も出来ないような湿度が、外に出るだけで自分の体力を奪っていく。


「そうなんですか?」


と、自分が言うと、「うん」と返事がされて、間が空いた。
夏季休暇の今、外から聞こえてくる音は蝉の声だけだった。その声も日没と一緒に消え始めている。
不自然に空いた間に、先ほどから覚えている違和感は、自分の気のせいではないことを確信し始めている。でもそれを追求するほど、自分は初対面の人間とたやすく会話のできる性格ではなかった。



「今研究室にいるのはその先輩だけだね。人が来ない時の方が良いらしい」



少しずつ、俺に教えてくれるのは、恐らく口の軽さというよりもその必要性を感じているような言い方だった。全く笑みのない口元から、緊張しているのも分かる。日本に来て二日目で自国の言葉を聞くことになるのか、と漠然と思った。


「君の論文読んだよ」


いきなり、話の内容を変えられて、戸惑いと気恥ずかしさで、自分の頬が赤らんだのが分かった。
そうですか、としか答えることが出来なかった。初めて書いた自分の論文の内容が頭を駆け巡った。
その徒労も、思い出される。



「有名だしね」



僕は好きだな、と言って初めて俺の方を向いて見せてくれたまともな笑みに、自分の緊張もそれで少し解れる。
ありがとうございます、と簡単に礼を言う頃には、とうとう外は漆黒の闇になった。
新月の今日、上からの蛍光灯の明かりだけが自分達の視界を浮き上がらせる全てだ。



「ソウルは都会らしいね。東京みたいな感じなんでしょう?」


「あんなに大きくはないです。それに俺の実家はもっと田舎で」


「そうなんだ?ここも田舎だよ」



と言って、彼が歯を見せた。



その瞬間、



ちちっと音を立てて自分達に暗闇が訪れた。でもすぐにまた視界は戻る。


立ち止まって、上を向いた。


ここの蛍光灯が切れかかっているみたいだ。



「うちの学校は変わっててね。夏休みの前に文化祭をするんだけど、酔っ払ったどうしようもないのが、スパークリングワインの栓をぶつけたんだ。
うちのは全部LEDなんだけど、どこか接触がおかしくなったらしい」



俺が正面を向くと、目の前の彼も上を見ていたみたいで、俺に向き直った。



「直さないんですか?」



「今、日本は『お盆』っていう特殊な期間で、学校が使う業者が休みなんだよ。それに夜まで使われる研究室なんてあんまりないんだ」



と、言って俺達の目の前のドアを見た。廊下はここで終わっている。


目的の研究室に着いたようだった。



「先輩は色んな噂があるけど悪い人じゃない、と僕は思ってる」



と声が極力まで落とされて言われた。


でも、と続けられた会話にまた『ちちっ』と上から音がする。




―――君は気を付けたほうがいい。




そう、薄闇の中でささやかれた言葉が鼓膜にとどまる。
俺は何も答えられないまま、視界はまた元に戻った。






じゃあ、と俺に目配せをされたあと、引き戸が開かれる。



水音が聞こえる。


自分の研究室なんだとすぐに分かる。


まず匂い。


これは潮の匂いだ。


室内で嗅ぐことのない海の匂い。


そして、部屋の真ん中に置かれた、透明な箱。


酸素を注入されている水音。


その水が入った大きな水槽をこちら側に向いて覗き込んでいる人間がいる。


水には赤色の靄が溶けている。


まるでこの人間が吐き出した血のようだ。


そうみえても仕方がない。だってこの人は、入ってきた俺達に俯き加減な顔を上げることもなく、目だけゆっくり上げて俺達を見た、上目遣いで見るその冷たさ。まるで生気がないみたいな静けさ。


狂いがない鼻筋、質感のある唇が上手くおさまった口元、そしてまるで、俺達をそこにいないかのごとく冷ややかに見ている奥二重の眼差し。その中で作り物のような黒い瞳が俺を見ている。


怖さの覚える整った顔立ちだった。


この人のせいによる異様な光景に息を止めた。


俺の隣の彼が瞬時に緊張したのが分かった。俺もそうだったから。
隣の彼が俺に向いた。



「君の先輩の、チョン・ユノさん。それでユノさん、この人」



「ドア」



彼の言葉を遮って、目の前の異様な人物が言葉を発する。
俺はその発した声の主を見つめる。



「閉めてほしいんだけど、シム・チャンミン君」



苛立ちを感じさせながら、その言い方は恐ろしく落ち着いていて、



そして、自分と同じ国から来たとは思えないほどの、






日本語だった。











続く