夢の続き

東方神起、SUPERJUNIOR、EXO、SHINeeなどのBL。
カテゴリーで読むと楽です。只今不思議期。

「Turquoise(ターコイズ)」ジョンシン ミニョク CNBLUEの短編


この青のこと?


美しい海を見た、ある夏の日のことを彷彿とさせる。
海底は珊瑚で出来たような、もろもろとした小さな石が敷き詰められていて、水は透明でも、なぜか色がつく。
見渡すと、空と区別がつかないような、色。
名前を教えて。
こんな日差しの中では、ほうれいせんの出る口元はそんなに分からないだろう。何よりもそんなことは今、気にしていられないと。
高い背が、海を通して、白い底に陰を作っている。
膝丈の海水パンツの裾が、丁度浸かるくらいの水の高さの場所から、声を出した。
そうすると返事が、日焼け止めを塗ってもダメだったのか、元から色がついていても柔らかな肌だからか、うっすらと赤みがさした肩をした男から、返って来た。
もう少し深い場所にいる、高い自分の背に一番近い男。
肩に降り注いでいる日差し、拡がる海の、あの色。
カチャ。
ふたえということがあまり意味を感じさせない大きい目蓋の元で、ジョンシンは見下ろして、彼の背で、大分下に見えるテーブルの、椀のような硝子の入れ物から、おうとつはあるが滑らかな三センチほどの、一つを摘まみ上げた。
少しそれを眺めて、細長い顎におさまりきらないと言う風に出た口元をしかめた。
もう帰らせろよ。
思いながら、店内で作業を進める撮影スタッフを一瞥して、瞳の位置を戻した。
カチャ。
それも戻した。
今帰してもらえば、こんなものを見せようと買ったりせずにすむ。
似てると思って。
もし言えば、小さく細い、優しい目が見たこともないことになる。
想像がつく。絶対だめだ。
けれどまた摘まむ。
こんな色だったよ。
ミニョク。
夢だけどね。
買うなよ。
ジョンシンは、かちゃかちゃと、いらついた音をさせる。
自分の夢を見せたいなんて。
だって、キスした。
透けた海で一緒にいて、白く眩い日差しの中でキスをしたと、話したあとに、自分達は、本当にキスをしたのだ。
バンドメンバーの兄たちはいなくて、自宅に二人きりで、変な雰囲気だった。
宿舎生活をやめたばかりの寂しさでとか考えて、そんなわけないだろと全身が否定している。
ライブ映像見ない?と仕事で会う日でもなかったのに、気軽に誘ったのは自分で、そんなことは滅多にないが、やはり見たせいだろう。白い太陽に焼かれながら、躊躇わなかった姿を。
変な事を言ったから、変な雰囲気になったのか。変な雰囲気になりそうだったのを、変な話が後押ししたのか。
いいや、前から、感じてただろ。
言葉の端々にも、もし何かの病気にでもかかって、自分達の性別が消えてしまったら、一気にたがが外れるような、他の人間にはない、合間合間に訪れる可笑しな時間差を。いつでも。
だから。
こんなに、なかったことになるとは思わなかった。
ジョンシンは、いつの間にかうるさいほどの音を立てていた手を止める。
思考を中断させられた声のせいだった。
「あの」と、言われ下に向いた。
「メイク直します」
背の低い女性が自分を見上げていた。
「あ、はい」
口角を上げた。できるほうれい線は、いつもほぼ忘れている。
店内に置かれた小さい簡易椅子に華やかなニット姿の女優の横で座り、そんなに直す要素があったのかと思うくらい耳より上に切られている黒髪を丁寧に整えられながら、ジョンシンは、少し遠ざかったが、アクセサリーのショーケースの上で、飾りのように置かれた硝子の椀を目蓋のかかる目で見つめていた。飾りではなく値札が置いてあったのも見ていた。
唇にクリームを塗られながら、昔は、小柄な女性の方が好きだった気がするのに、今は、同じくらいの視線の高さでないことに気落ちしていることに戸惑う。
筆が口をなぞると、いつもぞくりと思い出しては、あの涼しい顔をする小心者を想い、小心からではなかったらどうすると、自らをたしなめて来た。
自分に理由をつけるなら、あの辛い外国時代に違いなかった。四人しかいない閉鎖的な環境で、柔らかい肌と表情の感じが、物静かなところが、一番、意識するのに良かったのだろう。あそこからきっとはじまっていると、ジョンシンは思ってみる。向こうも同じようにとは言えないが、恐らく本能と言う恋愛感情を感じ取って、こちらを意識が出来るくらいには刺激されたのだろう。空気感に拒絶をしなかったことが、自分だけではないと確信がある。
偶然ではない。
だってあれだけと、なぞられながら、ジョンシンはまた人より抜きん出て高身長の背筋を震わせる。



「何て言ったか忘れたけど」
白い日差しがすごくて、踏んでいくと、砂がころころした。
俺が近づくと、透けている底に、波と自分の影ができて。
水色かな。水色って、言ったのかも。
食べに行く前に、次から次に最近の自分達の動画をパソコンに映して見ながら、ジョンシンは、二人きりの状況と茶色の猫っ毛に見える髪の柔らかそうな横顔に、「昨日さ」と声に出したら、止まらなくなった。
眉をひそめて最初は笑ったが、終わりに近づくと、二つ並べたデスクチェアーの一つに腰かけ、広い机に片手で頬杖ついたまま、ミニョクは一切視線をやらなくなった。
「本当に綺麗な海で、ミニョクのとこまで歩いて行って」
画面に向いている細い目は、ドラムを叩く己の姿など見ていないのに。
ジョンシンは、眺めながら慎重に、最後を出した。
「ずっと立って、青い世界で、俺達キスしてた」
小さな目元は、予想通りだったみたいに表情無くして、眇めたりを少しした。
肌の色が濃くなったみたいな唇から喉元を見て、唾だけは飲みこまれたのをジョンシンは見つめる。
穏やかで、幼さも感じられる横顔に似合わず高い身長とTシャツから出た鍛えられた二の腕は身じろぎもしない。
何も言わない口元を見て、言いようのない感動に襲われた。
凝視しながら、彼が答えるのを待った。
観念したように、見ていない画面に向いたままミニョクは、
「それ、反応するの難しいんだけど」
と呟いた。
うん、ごめん、とジョンシンはその唇の横に、口付けた。
ミニョクが動かないのを見て、もう一度、同じところに唇をあてて、今度はもう少し、真ん中に滑らせた。
彼の体が震えて、小さく息を吐いたと同時に、顔が自分の方に傾いた。
抱き合いながら、互いに強く唇を重ねる。
どちらも震えているのが分かる。
即、唇を割って、少し侵入させ、煌々とした明るい部屋の中、二人ともすぐに吐息をこぼしながら、口づけて行く。
ミニョクの椅子を高い背で覆って、ジョンシンは夢中で、立った体をもたれさせ、抱きながら「椅子が壊れそう」と呟かれるまで、舌もつけあった。
結局、外にも出ずに相手が帰る深夜まで、Tシャツ姿のままベッドの中に移動し、口づけに没頭し、玄関に送る時までキスをした。



ジョンシンにだって分からない。
愛しさと今後どうするかで恐ろしいほど何も手に付かず、携帯電話に残ったのは、気を付けて帰っての自分に、うんの一言。
仕事仲間とか、男とか、兄弟とか。
音沙汰ないのは相手も同じ状態だからと見ないふりして、数日後に会う時のことだけを考え、寝ても覚めても想ったのに。
その数日後、こんなに達観した人間に出会うとジョンシンは思わなかった。
思わず笑った。
まるで今までのコピーを見ているようで。
それが最良だという、予想外に幼稚な善意を発揮されて絶句した。
本当に、何考えてんの。
言ってみようかと。
キスを一人でしたとでも思ってんの?
俺の存在ってどうなってんの?
一周まわって好きとかなら、そんなの女にだって面倒だろ。
だが、悟っているような顔で微笑まれると、それに付き合った方が良い気持ちに、ジョンシンはなった。
仕事も忙しく物理的にも会えない。
それを続けてここまで来て、ジョンシンにだって面倒だと言う気持ちも生まれて来る。
闇雲に想える相手でない。
そっちがその気なら、やめようと。
こっちはベースで、あっちはドラムで、それで良いとか。
弟同士で、それで良いとか。
むしろ目にするまで、そちらの方が強くなって、最近は本当に。
目蓋のかかる眼差しが捉えなければ。
偶然なんかではない。
初めてなほど強く掴まれた想いが、美しい海と蘇る。
けれど、今度こそ、相手が拒絶すれば自分は泣くことになる。
しかし、相手もこれで終わりだ。
ジョンシンは、撮影終わりに、硝子の椀から一つ手にした。
石を。
お互い逃げられないプレゼントをあげる。
そして、もう一度聞きたい。
この色を、彼に。







『Turquoise(ターコイズ)』おわり



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