夢の続き

東方神起、SUPERJUNIOR、EXO、SHINeeなどのBL。
カテゴリーで読むと楽です。只今不思議期。

「ある散歩」ユノの短編(記念企画)

*何でも許せる方のみご覧ください。



マネージャーとチャンミンと三人で、飯でも食いながら軽く打ち合わせと言うか、最近思うことを話してみる、みたいな集まりがある。
夜遅くなるのは、忙しい時期には仕方なくて、それでも仕事中には出来ない二人組アイドルの意志の疎通は大切だし、プライベートで肩の力を抜いて会うっていうのは結構自分でも良いオフになる。
チャンミンのスケジュール的に今日はその時間まで少しあるから、俺は用事を終えて、近場の目的地まで歩いて行くことにした。
散歩は好きだ。
早朝や夜に時たま歩く。
考え事なんかある時は良い解決策が見つかったりしするし、単純に外の空気を味わいながら、体を動かすのは気持ちが良い。
人目もあるから、なかなか出来ないけど、自宅から近い線路沿いを帽子を深くかぶってひたすら歩いて、帰りはタクシー拾ったりもする。
今日の道も、線路沿いだった。
遅い時間だからか人影もなくて、ほっとしながら、俺はキャップのつばを少し上げた。
この前まで桜が咲いていたりしたけど、もう散っている。厚手のトレーナーは1枚でも少し暑く感じた。
ロゴの入った黒のトレーナーは電灯がないと闇に紛れる感じで好都合だ。
そんなに距離はないけど、じゃあ、行こうか。
俺の横を電車が通り過ぎた。灰色の車体に赤と青の模様が入っているから中央線だ。もうどのくらい乗ってないだろうな、なんて思いながら、足を進めた。
腕時計を見ると、22時20分だった。待ち合わせの23時には余裕で着くだろう。
最近は本当に忙しかったから、外に出ることもなかった。
何て言うのか、こういうのでリセットされるんだよな。
料理屋から良い匂いがしたり、どこかで弾き語りなんか聞こえて来たリして、こんな日常を忘れたくない、なんて思うんだ。
芸能生活が日常になるのは、望んだことだけど、ずっとこの生活が続くわけじゃないことを分かっておこうといつも思っている。
だから、地元の友達と、芸能生活で出来た友人は俺には少し違う。仕事も絡んでくるし。例えば、相方のチャンミンとか。あいつはまた別か、仕事仲間なのに、家族みたいなところあるし。他の仲間は、別グループのチャンミンの親友キュヒョンとか、そいつのグループの奴らとか、後輩達とか、他の事務所の人間だって、友達だけど純粋な友達とは言えないような気がする。どちらが良い悪いなんてないけど。
そんなことを考えてから、ふと足を止めた。
……道合ってるよな。
線路沿いだから一本だと思うけど。なんか、ここ通らなかったか、というよりスタート地点に戻ってないか?
俺が眉を寄せたその時。
「ヒョン!」
向こうから良く知っている人物が走ってきた。俺を「兄さん」って意味のヒョンと呼び掛ける。まあ年下はみんな言うけど。
「チャンミン」
仕事早く終わったのか?すごい偶然だな。あいつも歩いて向かってたのか。
そう思ったら、抱きつかれた。
「え?」
「心配したんですよ!」
俺は焦った。まだ時間じゃないだろうし、人気がないとは言え、俺達みたいなのが、こんな公共の場で。こう言ったら何だけど、俺は背の高い顔の小さなスタイルで、歩いているだけで結構タレントとばれる。チャンミンなんて、俺に輪をかけてでかくて、自分達は顏だって目立つ方だ。
まあ暗いからか?暗いから良いのか?
それにしても変だな。事務所でそういう売り方はするし、自分達以外いないところでは他の男友達と同じで普通に肩組んだり、一緒に寝たりとかするけど、こういう接触をこんなところでするような俺達じゃない。
「まだ時間じゃないよな?」
眉を寄せたまま言うと、茶色のニット姿のチャンミンが俺の顔を覗き込んだ。暗くても自分と真逆な大きなくりくりの目は良く分かる。オフっぽい無造作な黒髪でも十分、アイドルっぽい。
「何言ってるんですか?10分遅刻ですよ」
まだ回されている腕が気になりながら、俺は顔をしかめる。
いつの間にそんなに時間が経ったんだと思いながらも、「そっか。ごめん」と言って、「でも、こんなに心配しなくても」と、苦笑した。
すると、
「いつになったら、俺の愛の深さを分かってくれるんですか?」
と、くりくりの目が睨んだ。
俺はそれと見つめ合いがら、ちょっと考えた。まず、まだ腕が回されているのが気になるし、愛の深さとか、チャンミンの口から初めて聞いたなと思った。
愛……愛とは?
「早く俺の愛を受け入れて下さいね」
そう言ってチャンミンが俺にキスした。
「うおうっ」
俺が口を離しながら叫んだその時。
「やめろよ!」
キスされた唇が気になりながらも、声が聞こえたチャンミンの背後を見た。チャンミンも振り返った。
良く知っている人物だ。栗色のパーマの髪に白い肌、チャンミンの親友キュヒョンだ。なんだ?なんでこんなとこにいるんだ。チャンミンと来たのか?
「あ、いや。これはな」
なぜここにいるかも気になるけど、キュヒョンに変な誤解をされたんじゃないかと思って、何考えてんのか分かんない相方の腕を剥がそうとすると、
「ユノヒョン!俺にして下さい!」
そう言ってキュヒョンが、チャンミンをどけるように俺に抱きついた。
色の白い、こっちも大きな目の顔が近づいて、ちゅっとキスされた。
チャンミンが「やめろよ!」と言って口と言うか顏を引き剥がす。
俺はがんじがらめになってるのもあるけど、何が起こっているのか分からずに、動作を停止していた。 
「俺だってユノヒョンが好きなんだ!」
キュヒョンが紺色のパーカー姿で、チャンミンに抵抗するように抱きしめて来る。
頭が真っ白な俺は、「くるしい。くるしい」とだけ呟いた。なにこれ、モテ期?いやいや、可笑しい!ちゃんと考えろ。
すると、
「ユノー」
声がして、俺たちは先ほど、二人の表れた道路の奥に目をやった。
長袖シャツの、華奢な体つきの綺麗な顔をした男が微笑んでいる。キュヒョンのグループのリーダーだ。なんでだ?なんでここにいるんだ?と思ったら走ってきた。
「大好き」
そう言って俺に抱きつきながら、つやっとした唇で、イトゥクが口づけた。
「んーーーっ?」
目を見開いた俺の前で間に挟まったキュヒョンが「やだ!リーダーやめて下さい!」と、苦しそうにもがく。チャンミンが無言でイトゥクを押した。
「お前ね、ヒョンだよ俺は」
イトゥクがチャンミンを睨みながら、どかないキュヒョンごと俺を抱きしめる。
「リーダーやだ!」
叫ぶキュヒョンとイトゥクと二人を押しやるチャンミンにまとわりつかれて俺は白目向きそうになりながら、一体どういうことだ、何が起こってると、「なにこれ、なにこれ」と言いながらもがいた。
そうしたら、
「ここにいたんだ」
また声が聞こえて、俺達は道路の奥に目をやる。
俺より上で、イトゥクの一歳下の彼らのメンバーが立っていた。
「か、カンイニヒョン」
ちょっと中年に差し掛かった体つきのカンインを、俺は凝視する。スウェット姿に無精髭で、優しそうな目がにこっと笑った。と、思ったらカンインがこちらに向かってきた。まさか……
「や……やめて下さいっ……ヒョン」
青ざめた俺が言うと、まとわりついていた三人が「ダメ!ダメ!来るな!」と俺に抱きつく。抱きつくな!離れろ!逃げられない!
がっちりした両腕を伸ばして、俺の顔を掴まえた。
「ユノ。愛してるぞ」
「むごーっ!」
カンインの薄い唇が押し当てられた俺から、「やめろ!やめろ!」と言ってチャンミンとイトゥクが彼を引き剥がす。「くるしー!」おしつぶされているキュヒョンが声を上げた。
意識が混濁しそうな俺に、「いいから俺にしとけ!」とカンインが引き剥がされても抱きついて来る。
もう、死ぬかもしれないと思っていた時に、また向こうから声がした。
「探したんだから」
全員が道路の奥を見る。
リーダーイトゥクの彼らのグループの中で一番体重のあるシンドンが立っていた。
また少し太ったなと思った体型でも猛スピードでこちらに走って来る。阻止しようとしたチャンミンとキュヒョンを払いのける。イトゥクとカンインが「お前!来るなよ!」と俺に抱きついた。
だから何でって!逃げられない!
「無理!無理!」
俺は叫んだ。金色でくるくるパーマをかけた頭に、長袖Tシャツとチノパン姿のシンドンが、
「俺だけを見て」
と、言ってふくよかな顔のおちょぼ口を開いて俺の唇を塞いだ。
「もごーっ!」
「やめて下さい!」
チャンミンが羽交い絞めにして引き離す。
「俺のなの!」
キュヒョンが加勢した。
「俺のだよな!」
イトゥクがべったりと俺にひっつく。
「俺のだよ!」
カンインもひっついた。
俺が気を失いかけた時。
「ユーノ」
動きを止めて俺達は、また暗い道路の奥を眺める。
白い肌に、大きなつり目の整った顔の男が、アニメっぽい女の子のイラストがされたトレーナー姿で立っていた。
こちらを見て、厚い唇の口角を上げて、にいっと笑った。
暗い夜道を楽しそうにスキップしてくる。
「お前は来るなよ!」
イトゥクが俺から離れて立ち向かっていくけど、かわされる。
「来ないで下さい!」
カンインもかわされた。
「ダメです!ヒョン!」
チャンミンとキュヒョンとシンドンが俺に抱きついた。だから何でお前ら抱きつくんだよ!
「ヒチョリヒョン、やめて下さい」
泣きそうになった俺の前まで来て、にやっと笑う。
「いやだ。愛してるもん」
長めの茶髪を跳ねさせてヒチョルが俺に飛びつく。
「くるしー!」と言ったキュヒョンの頭を押しのけて、大きな手が俺の後頭部にまわった。
「やめっ……ん」
厚い唇が重ねられて、舌で唇をなめられたところで、チャンミンが突き飛ばす。
「いって!おいっ!俺ヒョン!」
「ヒョンだからって許しません!」
チャンミンが怒鳴った。
「舌噛むとこだったぞ!」
「ユノヒョン俺が消毒する!」
俺に顔を近づけるキュヒョンをシンドンが体で押しやった。
「俺が濃厚なのでやっつける!」
本当にやっつけられてしまうと倒れかけた時に、声がした。
「ユノヒョン!助けに来ました!」
真っ白な肌に茶色の直毛のちょっと女に見えなくもない後輩が手を振りながらそこにいた。
厚手の白いパーカーと細めのジーンズで駆けて来る。
にこにことした顔で、全員の阻止を俊敏な動きでかわして、呆然としていた俺にひっついた。
「テミン。お前はしないよな?いや、できないぞ」
我に返って俺は自由になっている両手で、背の低い後輩の肩を押す。
「俺の愛でユノヒョンを守りますから」
テミンがピンクの唇でにこっと笑いながら、押されても顔を近づけて来る。
「させないって言ってるだろ!」
押しのけようとしたら、後ろから、「ユノヒョン!愛してます!」と、テミンのグループの俺とほぼ同じ身長のやつに抱きつかれて、羽交い絞めになった。
腕が!と思っている俺にピンクの唇がキスをする。
「むむむ」
「俺もする!」
後ろから手を伸ばして、テミンから剥がしながら、モデル体型の俺くらい顔の小さなミノが、俺の顔をそちらにひねる。
「ミノやめっ、むおっ」
爽やかに微笑むミノの大きな口が俺の口を塞いだ。
「やめて下さいよ!ミノヒョン」
テミンがミノの顔を掌で後ろにやる。
「やめろよ!お前ら俺のヒョンなんだよ!」
チャンミンがテミンの肩を引き離しながら俺に抱きついた。
「俺もユノヒョン愛してる!」
ミノが後ろから抱きついてくる。
「俺だって!」
負けじとテミンも抱きつく。
俺も俺も、と俺は全員に埋もれていって酸欠状態になっていると、
「ユノヒョン!愛してます!」
と、大勢が一斉に合わせた声が聞こえて、俺達はそちらに向いた。
道路の奥から、十人くらいのメンバーの後輩グループが走ってきた。その中の色の白いリーダーが太い眉を上げて嬉しそうに手を振る。
「ユノヒョン!俺達みんな愛してるんです!」
俺より大分年齢の低い若い奴らが、颯爽ときらびやかな衣装で線路沿いの道を駆けて来る。
「お前ら!おれたち先輩だぞ!来るな!」
イトゥクが叫んだ。
「愛に年齢は関係ありません!今からユノヒョンにキスしに行きますよー」
リーダーのスホが手を振りながら歌うような声で言った。
「やめろ、やめろ」
俺は息も絶え絶えで、何とか前のチャンミンや後ろのミノや横のテミンやキュヒョンや覆い被さるカンインやシンドンやヒチョルやイトゥクから地面を這って抜け出した。
線路沿いの道を、向かってくる奴らをかわして目的地の方に駆けだす。
「うおおおお」
最初からスピードをつけた俺の後ろから、
「待ってー」
と、大量の足音が聞こえる。
後ろを振り向くと、いつの間にかメンバーが増えている。良く見れば助けを求めようと思っていたマネージャーも入っている。
「ユノー!愛してるよー!」
全員が俺に手を振ったり投げキッスをしながら追いかけて来る。
どどどど、と足の振動が地面を揺らす。
「うおーーー」
なんで。なんでこんなことに。
そう思った俺の横を電車が追い越す。赤と青の車体に灰色の模様が入った電車を、見開いた目で見つめる。
どういうことだ。逆だ……逆だ、あの色。と思いながらも走る。
「ユノヒョーン!愛してるー!」
後ろを向くと、まだ俺に愛の言葉を叫びながら、追いかけて来る。もう向こうが見えないくらいの人数で、全員男だ。
「いやだあああ」
やめてくれ!
俺は散歩がしたいだけなんだ。
日常を感じたいだけなんだ!
全力疾走する俺の後ろから「愛してるー好きだー」と聞こえて来る。
あんなの日常じゃない!
俺に、散歩を!散歩をさせてくれ!
「くおおお」
もう追いつかれそうだ。だめだ、俺がだめだったんだ!散歩なんてしたから!俺が散歩なんてしたから!
どんっ、と目を閉じて走っていた俺は、何かにぶつかった衝撃で、後ろに倒れ込んだ。
息切れしながら、目を開けて見上げる。
「ヒョン?」
道路の上で肩で息をする俺を、相方が覗き込んだ。
「どっからきたんですか?何してるんです?」
茶色のニット姿で、無造作な黒髪をかきあげる。
何も言えない俺に、首を傾げながら「何で走ってたんですか?タクシーは?」と、手を差しのべた。
その手に掴まって起き上がった俺の横を、灰色の車体に、赤と青の模様が入った電車が通り過ぎる。
俺は後ろを向いた。人気のない、静かな線路沿いの夜道が続いている。振り返って、相方と向き合った。
「……チャンミン?」
「はい」
眉を寄せて、くりくりの目が訝し気に俺を見ている。
「俺のこと好き?」
「は?」
丸くした目を歪ませて、信じられない表情でこちらを見つめている。
俺はどっと肩の力が抜けた。
「ちょっと確認したかっただけだ。何でもない」
「何ですかそれ。まあ、言わなくても分かりますよね」
見ると、首まで赤くして視線を泳がせている。
俺は少し顔をゆるませながら、なぜか心臓が高鳴ったのを感じた。けど、それは気のせいにした。
「ヒョン。それより何でそんなもみくちゃにされたみたいな恰好してんですか?あれヒョンの帽子だよね?」
チャンミンが顔を向けた場所に、俺のキャップが転がっている。
「なんか壮絶で」
俺はぼさぼさになった緩いパーマがかかった明るい茶髪を手で梳いて、めくれあがった服を直しながら取りに行く。
「チャンミンは?何でここにいるの?」
キャップを被ってチャンミンを見ると、「これが見えたんで」と上を指差した。
見上げると、桜が咲いている。夜空に白く浮かんでいる。
「もしかして、まだ桜って咲いてたの?」
見ながら俺が呟くと、
「どういうことですか?この桜遅いと思いますけど」
と、言われた。
「そっか」と返した。
「行きましょうか。時間過ぎてるし、マネージャー待ってるんで」
「うん」
歩き出した相方に並んだ。
「俺、日常に戻ってきたな」
良い匂いもしないし、弾き語りも聞こえないし、見えるのはもう繁華街だった。
「はあ、お帰りなさい」
前を向いたまま、チャンミンが言いながら歩く。
「うん。ただいま」
俺は全身に疲労を感じていた。
「なあ、チャンミン」
「なに?」
「散歩って恐ろしいぞ」
「そうですかね」
「とりあえず顔洗いたい」
「洗面所行けばいいでしょ」








『ある散歩』ユノの短編(記念企画)おわり





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