夢の続き

東方神起、SUPERJUNIOR、EXO、SHINeeなどのBL。
カテゴリーで読むと楽です。只今不思議期。

「変身」チャンミンの短編


ある朝、シム・チャンミンが気がかりな夢からめざめた時、自分がベッドの上で一匹の大きな、と言うのが正しいのかは分からないが、子供にしては大きな子鹿に変わってしまっているのに、気付いた。彼は濃い色から薄くなる毛の横っ腹を下にして横たわり、頭を少し上げると、短い毛の被さった柔らかな腹と、かくかくと筋張った、四本の脚が見えた。まだ掛け布団が丸く形を作り、温度を温かく保っていたのだが、更にずり上がり首を捻ると、色のついた背に白い斑点がくっきりと浮き出ている。
「おれはどうしたのだろう?」と彼は思った。夢ではなかった。周りを見渡すと、一人分にしては大きいようだけれど、良く見知った自分の部屋がある。色がところどころ違って見えるが、汚れの一つもないフローリングの隅に、これも良く知った、昨日置いたばかりの、てらてらと光るスーツケースが立ててある、――チャンミンはアイドルだった――ここには年に一か月ほど訪れる。海外を股に掛けている彼の、他にはホテルを転々とする中で、たった一つの定められた外国の別宅だった。
まだ信じられない心もちでチャンミンは体を眺めている。
晴れやかな天気は、分厚いカーテンの隙間からじんわりと光を漏らして、黒くしめった鼻先を、彼の大きな目からも見えるように照らしていた。
「今日の仕事は確か、夕方からだった。ではもっと眠ってしまえば、こんなばかばかしい姿はしまいになるかもしれない」と、考えてはみたものの、そうはいかなかった。白い毛皮の下の胃袋がきゅうと絞めつけられて、腹がとても空いていることに気付いたのだ。
「これは参ったぞ」そう思いながら、柔軟に動く首を、再び洗濯の行き届いた匂いのするシーツに倒して、目蓋を長く閉じては見たものの、やはり空腹のそれで思うようにはいかなかった。
「本当に自分が思った通りの姿になっているのか、一度鏡で確認する必要がある。もしそうなっていたのなら、おれとコンビを組んでいるユノ兄さんが、とても驚くに違いない。そして、この先仕事をどうしたらいいのか悩むだろう。それは当然の話だから仕方ないが、あの人は融通の利かないところがあるから、できない仕事も、できる仕事と決めつけてやってしまう節がある。そうなる前に、おれはそうしてはいけませんと言わなければならないだろう。ああ。考えるだけで面倒なことだ」と、チャンミンが黒い鼻から鼻水混じりの息を漏らしながら、首を起こすと、ノックの音がした。
「チャンミン。起きてる?マネージャー急用みたいで、いなくてさ」
あの間の抜けた声!ユノ兄さんだ!チャンミンは体をベッドに跳ねさせて布団を蹴り飛ばし、起き上がった。フローリングに彼の硬いひづめの音がかかっと音を立てる。
「兄さん!開けて下さい」
返事をしたチャンミンは、自らの声にぎょっとした。まるでガラス瓶の口に向かって話しているようだった。聞いたことのない低い籠った音が出たのだ。そんなつもりはないのに、一緒になってぶるぶると鼻も震えた。
「今、チャンミンが返事したの?」
相方のユノが、張り詰めた声色で聞くから、彼がとても警戒していることが分かった。それでも開けてもらわないことには仕方がないのだから、と思い、チャンミンは意を決して、「そうです」と返事をする。同じ低い籠った声が出て、息を呑んだように扉の向こうが静まり返った。そして、チャンミンは、取っ手の下の鍵が横向きになっているのを見て、寝る前に自分が鍵をかけていたことに気付いた。
「やっぱり良いです!自分で開けます!」
駆けて扉に向かうと、チャンミンは、平らで薄い金属に、柔らかい鼻先を強く押し付ける。けれど、粘り気のある鼻の体液で、力が上手くかからない。即座に彼は背を逸らせた。二本の前足で鍵を細かく蹴り続けた。
ほどなくして鍵はあいた。体勢を戻すと、今度は取っ手を、顎を慎重に乗せて、回す。ゆっくりと横から縦になっていくドア板の後ろに、簡単なTシャツと、つるりとしたハーフパンツを履いたユノが、目の淵を思い切り拡げて立っていた。まともに眠った証拠に横髪を一跳ねさせている。チャンミンの姿を見て、高い背の割には小さな顔の、下唇の厚い小さな口が開いていく。「顎が外れたのかもしれない」と初めて彼を見た人がいたのなら思うほど、開かれる口元を見ながら、チャンミンはまず、
「兄さん!お腹が空いたので、ご飯の用意をお願いします!」
と、言った。全然聞いてはいない様子で、ユノが、か細く、「はー……」と、力の抜けた言い方で、操り人形のように頭を斜めにして首をがくんと前に倒している。今にもその首と一緒に床に倒れ込んでしまいそうだった。
「君、チャンミン?」
そんなわけはないと後に続く眼差しでチャンミンを見つめて、ユノが言う。チャンミンは、「この僕がそうだと言っているのだから早く信じて欲しいものだ。臨機応変と言う言葉を兄さんは知らないのだな」と思いながら、嘆息を黒い鼻からぶるりとこぼした。
「そうです。それよりも兄さん、ご飯の用意をお願いします!」
と、同じことをもう一度口にした。目と口が開いたまま固まっていたユノの顏が、暫くしてやっと動いた。そして、まだ何となしにうわの空の調子で聞いた。
「何が……食べたいの?」
ようやくありつける、と嬉しくて、チャンミンは鼻息を荒くする。肉汁の染み出るぴらぴらとした脂で覆われた鶏肉を、頭の中でずっと想像していたのをここぞとばかりに声を張り上げて主張した。
「ほどよく温かいフライドチキンが食べたいです!昨日出前したやつがまだ残っているはずです!骨は取って下さい!」
チャンミンが首を何度も揺らしながら、前足でフローリングの床をノックする。視線を時間をかけ、ぐねぐねと回したあとに、ユノは、やっと考えが追い付いたように、
「分かった。待ってろ」
と、言って踵を返した。チャンミンは興奮でまだステップを踏みながら、「おれはこんな姿になってしまったけれど、今のところはそんなに問題ないようだ」と、安心と、衣の良く揚げられたフライドチキンを想像した喜びで、いてもたってもいられなくなり廊下を駆けだしたが、ユノが丁度ダイニングから出て来た。
「ほら、チャンミン」
差し出されたレタスの玉をチャンミンは鼻先で払い落とした。
短く叫んでユノが、転がるレタスを掴まえる。それから、「だって、鹿が肉食べるのなんて見たことないだろう!」と、神にでも祈るようにして天を仰いで目を瞑って、言った。
「おれはフライドチキンが食べたくて仕方ないんですよ!兄さん!」
彼が子鹿ではなかったら、鋭く枝分かれした大きな大人の角で、今にもつきささんとばかりにチャンミンはこうべを揺り動かす。悲し気に眉を歪ませて、ユノはその様子を少しの間見守ると、神妙な面持ちをして、「分かった」と呟き、とぼとぼと歩いて行った。チャンミンは後ろ姿を見送った。
ユノがダイニングから、両手に一つずつ、先ほどのレタスの玉と、ビニールで出来たチューブのマヨネーズを小走りに持って来て、「ほら、チャンミン!」と言い終わる前に、くるりと身をひるがえして、後ろ足の一本で、チャンミンはマヨネーズを蹴り落とした。
チャンミン、と、悲痛なユノの声が廊下に響いた。
「兄さん、ふざけないで下さい!おれはフライドチキンが食いたいと言っているんです!」
鼻と口から体液をしぶきのように飛ばしながら、チャンミンは頭を振った。
「そんなの食べられないって、チャンミン!死んだらどうするんだ!」
必死にレタスとマヨネーズを持った両手を上げ下げして、身振りでも気持ちを伝えようとするユノに、「肉を食べて死んだ鹿なんて聞いたことがないと言っても分かりませんかね」と、チャンミンはぶるぶると鼻を鳴らした。


彼等の強い攻防は、昼過ぎた今もなお続いている。太陽は空の真上から少し傾いてはいるものの、日差しはまだ地上に惜しみなく降り注いでいた。












『変身』おわり














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*最初の二文を似せているのと、7行目『「おれはどうしたのだろう?」と彼は思った。夢ではなかった。』の一文はそのままお借りいたしました。大きめでございますが子供なので、「頭」に致しませんでした。原文に似せて「匹」にしております。後は全て文章も変更させて頂いております。名作のパロディでございました。フランツ・カフカ『変身』

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