夢の続き

東方神起、SUPERJUNIOR、EXO、SHINeeなどのBL。
カテゴリーで読むと楽です。只今不思議期。

「一つの点を境にして、変わる瞬間に立ち会ったはじめての経験である 1」キュヒョン イトゥク(リクエスト企画)


人の印象と言うのは不思議なもので、洞察力の無い人間なら180度でも、相手の見方は変わり得る。しかし、普段より癖がついている者ならほぼ十割、予想は的中する。合うか、合わないか。善い人間か、ずるい人間か。
丸い大きな黒い瞳で、キュヒョンは困惑していた。出会ったのは春だが、それ以前に見たことがある。テレビの歌番組だった。
声が優しいというくらいで、これだけが、彼の印象だった。
当時、まだ自分がそのアイドルグループに入るなんて思いもよらなかった。歌唱力に自信があり、オーディションに合格し、嫌だった一重目蓋を整形して、デビューしたのは、既にあったその一員としてなんて。
最初の自分の挨拶が、気に入らなかったということらしい。
しかし、十八歳の高校を卒業したばかりの人間が、急遽社会に出て、合格したと同時に加入が決まったような状態で、右も左も分からない世界で、そんな理不尽な事はあるのだろうかと、呆気にとられたキュヒョンだったが、活動が始まって直ぐに思い改めた。この世界は、模範にならないとだめなのだと、気付いた。自分に対する彼の仕打ちは、許せないものであったけれど。
声の優しい、リーダーだと思っていた。テレビで見る新人アイドルグループは、確かに礼儀正しいこのリーダーを筆頭にしていたが、楽し気な雰囲気で、アイドルらしからぬ体型の人間もおり、打ち解けやすいのかと思っていたら、
「キュヒョン、お前にはないよ」
と、全員があるベッドが、自分にはない。相部屋のメンバーが多い中で、年長組は一人部屋さえあって、しかし、ベッドの有無の問題ではなかった。それは彼の仕業ではない。ただ、何かにつけてその調子で、その言い方で、本当にこの男に嫌われているとキュヒョンは思い至った時、困惑と言うよりも、愕然とした。
練習生の期間なくオーディションには合格し、学力も良く、数学はずば抜けて良く、姉は自分を可愛がり、両親は長男で末っ子である自分を可愛がり、友人達は皆、頭の回転が速い自分に振り回されるばかりで、この年まで世界は大変優しいとばかり思っていた。誰かに嫌われるなんてことがあるとは思ってもみなかった。
キュヒョンは、毎日繰り返される邪険な態度に、相当参った。
年相応でない重荷をかせられたのだと、相手に対し理解は出来るが、その未成熟さを向けられると堪ったものではない。だが、彼以外のメンバーには、段々と親しみを覚え出した。
「聞いてよ」
飲酒禁止の寮内で、焼酎の一升瓶を片手に、もうどうしても誰かと分かち合わねば、自分ではなくなってしまうと思い病み、若干生まれた月は早いが同じく弟分のメンバーのベッドに突撃した。
髭が濃いが、少年のような顔立ちをした背の低いリョウクは、同じ年にも関わらず、メンバーに愛されている。それを見るたびに、悲しみを覚えるが、唯一この人間だけが友人と言っても良い関係になっていた。
「僕もあるよ」
リョウクは、少年臭い顔立ちの割に慣れた様子で、少し面倒くさげに焼酎を注いだマグカップに口付けた。
キュヒョンはその言葉よりも、彼が一緒に規則をやぶってくれたのに救われた気がした。恐らくこの先も、メンバー1の友人になるだろうと確信した。薄い唇の間に、確かに酒が消えて行くのを目の当たりにしながら、その口が、
「でも、キュヒョンのは酷いと思う時あるよ」
と発言するのを聞くと、涙も止まらなくなった。はじめての境遇に、我慢は限界を迎えていたし、他人に言われ、確信すると、自分が被害者に見えて仕方がなくなった。馬鹿にされるとは思わなかったが、リョウクは、大の男が目の前でむせび泣いても、当り障りのない励ましの言葉をかけながら深夜まで付き合ってくれた。彼自身、リーダーとは、他のメンバーよりも距離を感じる時があるらしい。しかし、キュヒョンには己に精一杯でそんなものは気付きもしなかったし、明らかに悪意を感じている自分にとっては、悪いが些細なものだと捉えてしまう。ただ、この日から、心を割った相手が出来たのだと思うと、気が軽くなった。
説教でもしてくれれば良いものを、ただ、冷たいだけで、年上の権力というものを思う存分誇示されるという感じだった。リョウクはああ言ったが、絵に描いたような虐げがあるわけではないことはキュヒョンにも分かっている。
その人間は、今日も楽屋で一服している。室内に煙が充満して、吸わないメンバーには辛いが、年長組が殆ど吸うので仕方がない。
「キュヒョン、コーラ飲む?」
頭上からベッドを良く一緒に使わせてくれるソンミンが声をかけて来た。年上だが棘がなく、顔つきも柔らかくて、話しやすい。
「ありがとうございます」
キュヒョンは、紙コップに入ったそれを受け取りながら、腰かけていた椅子から思わず立ち上がった。最初に飲み物を配ってから、すっかり油断していた。なくなったら、気を配らなければいけないのも自分なのに。
思った通り、つりあがった濃い眉毛の下でちらりと見られる。大きかった鼻先をデビュー時に直したらしい。少々鷲鼻気味になったのもまた直され、今では完璧に直線の鼻筋と、ほど良い大きさのつり目が、こちらを見ているのも相まって、きつかった。煙を吐き出しながら、横から「兄さん、置いときますよ」と差し出されたリョウクの紙コップを「ありがとう」と言って、視線を逸らされた。テーブルを挟んで前に座っていた年長組のカンインと話し出した表情を見ると、まるで違うと、キュヒョンは思う。
自分だけが異物だと、今日も実感する。
新しいメンバーとはこういうものなのか、と考えるとキュヒョンはそうじゃないと直ぐ訂正する。やはり、あれからなのだ。
自分が入る予定のアイドルグループが、事務所の廊下の向こう側から現れた時。加入することは、もう互いに周知されていて、でもキュヒョンには、初めての出会いだった。未来の仲間で話題の芸能人。予期せぬ出来事だったが、それよりも、既にテレビに出演している人間達に、合格したばかりの自分が混ざると言うことを、相手がどう受け止めているか、何となく想像がついていた。それが上手く出来なかった理由なのだとキュヒョンは思い込みたいが、しかし、実際は、くだんの彼の感覚通り、その挨拶は叱られて当然の心もちでされていたというのが正しかった。
「あ、こんにちは」
彼に呟いた自分を思い出しては虚しくなる。全く言いよどむことなく堂々とした態度で直ぐに非を指摘してきた相手も一緒に思い出して、更に落ち込む。
声の優しさは変わらない。ただ、声は優しくても、キュヒョンに対しては、とても厳しいのだと印象が変わった。
あの瞬間に。





つづく

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