夢の続き

東方神起、SUPERJUNIOR、EXO、SHINeeなどのBL。
カテゴリーで読むと楽です。只今不思議期。

「How much is your christmas?」ヒチョル×スホ(クリスマス企画短編)


お金。


気が付けば、それは払うものになっていた。
それは練習生の頃からそうで。
当たり前のことだ。家庭環境がそれぞれ違うのだから、誰かがそれで心苦しい思いをするのは防ぐべきだし、そんなに高い物を払うわけじゃない。
デビューが決まれば更にそうなって、勿論そんなことで、グループの「リーダー」になったとは思わないけれど、自分のこれで、ポジションが有利になっていることも少なからずはあるだろう。それを期待してしてるわけではないけれど。


だから、先輩達と時々一緒になると、不思議な気持ちになることもある。


「ありがとうございました!ご馳走様です!」


いつものようにメンバー達と言い合って、先輩達は当たり前のように振る舞う。誰もが当たり前。でも、自分だけが「今日は逆だったな」なんて思っている。


「なんだ、お前」


先輩の一人に言われて、首を傾げた。


メイクの残る姿は、目尻の上がった大きな目が猫みたいで、厚い唇も、大きく高い鼻も、その整った感じは威圧感がある。


「何でそんな顔してんだよ」


と笑われた。「ありがとうございます」と一緒に言い合っていたメンバー達は多分何も分かっていない。ただ、自分がからかわれているのだと思っている。
だけど、自分にはそれは一直線ではなく、少し回り道してできた「ありがとうございます」なのを、この人が俺の顏から読んだことが、俺だけには分かった。


変わってると思った。
それはずっと先にデビューして、アイドルの道を今なお第一線で歩んでいる彼の世間的な評価と同じだったけれど、自分には少し意味合いが違った。

何となく、警戒した。


その時の俺の顏を、一瞬、真顔で見据えた表情も忘れない。でもそれから俺は可笑しかった。そんな数ある後輩の一人一人の表情を見ているのも変なその人を、現場が一緒になると警戒心からか、つい見てしまって、ある日とうとう、彼に、


「お前俺のこと好きなの?」


と、まで言われてしまった。
今度こそからかわれていると思いながらも、その顔があの時と同じ真顔だったのを見て、この人がそう思うのなら、そうかもしれないと、まるで自分の「ありがとうございます」のように回り道をした自覚をして、また俺は首を傾げた。


もし、好きなら自分はどうなるのだろう?と思った。


けれど、それは俺が何かを言う前に、相手の方が驚きの答えを出した。


「じゃあ、付き合ってやるよ」


と言った顔を見ながら、俺は何も言うことが出来なかった。そして、それが俺の返事だと、受け取られた。


――からかわれてるだけだよな。


それから毎日思っている。



「美味しそう」



と、言われて「食べたい?」と聞く。食べたい、と言われたからカードを出して、俺は、「じゃあ戻ってるから」と移動車に戻った。
メンバーの誰に、食べたい、と言われたかも覚えていなかった。休憩中に見つけたカフェで、各々好きな飲み物を注文したいと外に出たところだった。
窓から見ると、クリスマス前の冬の町に人だかりができ始めていて、自分達に人気が出てきたことが良く分かる。


携帯電話を見ると、


『今何してんの?』


と、さっきも確認したメッセージを見る。同性だし、やっぱりからかわれているだけだ、と思いながらもこうやって毎日来るメッセージに返事をしていた。でも、自分は嬉しいと言う自覚があったから、俺の気持ちは、当てられた通りだったと思う。


時々電話も来る。


「俺のこと、好きだって言えよ」


と、言われて真っ赤になりながら「好きです」と答えて笑われたこともあった。思い出しては赤面して、メンバーに「彼女出来たの?」と指摘された。でも、あの時も、俺は「じゃあ貴方は?」と聞けなかったから、その指摘は合っているようで合っていない。相手の気持ちが分からないまま、いつも俺からは何もアクションを起こせずに、もし向こうが連絡を絶ってしまったら、この口約束だけの関係だって、あっさり終わりを迎えて、そんなことがあったのかさえ記憶からなくなるくらいのものになるだろうと思う、向こうには。
俺は多分、忘れられないけど。


でも、これはどういうことなのだろう。


画面を見て、悩む。


『クリスマスイブか当日時間ある?』


これは……本当に恋人みたいだな。
俺は宿舎のベッドに腰かけて、つまったスケジュールの中、寝不足の早朝、携帯電話の画面に思う。
両日とも、睡眠時間さえままならないほどスケジュールは入っている。
でも、もし、この人が会いに来てくれるなら会うことは可能だ。聞くくらいだから向こうは少し時間があるのだろう。
だけど聞いてみただけで、会うと言う目的ではないのかもしれない、先輩だし、お得意のからかいなのかもしれない。


余りにも悩んで、その日、返事が出来なかった。


すると、次の日に「何時~何時、空いてる?」と24日と25日の時間指定が入った内容が来ていた。
ほぼ深夜だから、寝なければ何時間かはかぶる。睡眠時間とせめぎ合いながらも、もし会えるなら、一時間だけでも会ってみたいと思った。けれど、そんな短時間だけに向こうも貴重なクリスマスの空き時間を使わせるのは、売れっ子の大先輩にはばかられるだろうとまた悩んで、でも流石に返事はしないとと、パニックになった。
気だけ焦って、忙しい時間は過ぎて、宿舎に戻ったのは深夜で、画面と睨みあう。
時間を聞かれているだけだし、聞かれたことに答えただけだと「何時~何時に空いています」と打って、逃げるように寝た。
起きて、恐る恐る携帯電話を見た。
「じゃあ車で行くから、1時に地下駐車場に入れるようにしてくれ」と言う文面に、ますます訝る。
こちらの状況が筒抜けなのは、先輩も似たような状況なのだろうから分かるけれど。
本当に自分達はそんな日に会うのだろうか……


移動車の中で茶化して「リーダー、リーダー」とメンバーが呼んでくる。携帯電話ばかり見てるのに女の影がないから、更に茶化しても大丈夫だと思われている。
「分かりました」と言う返事も迷って、やっとさっき打ち込めた。
 心臓がどきどきする。いや、それはこの関係になってずっとだけど。

この口約束をしてから、二人きりで会ったことがない。他の人達も一緒なら、仕事で何回か会っているけどその時は、自分が変な目で見そうで避けている。だって男の俺が、同性でかなり年上の先輩に熱い視線を送っていたら、茶化されるどころじゃ済まされない。確かに外見は端正だし、格好良い人だけれど、自分の視線は、憧れのそれじゃない。
 時々からかって、大勢の中で近付かれて話を振って来るけれど、笑って済ませて逃げていた。
そうだな。
これは、二人きりじゃないこともある。
二人きりで会う意味も良く分からないし。
むしろ二人で会って、俺がへこむような種明かしされるより、クリスマスだからと他の人もいる交流に加えられた方ずっとましだ。


あと二週間、それまでにも仕事で一回会わないといけない。
喜ぶことだけれど、話なんか出来ないだろうし、また避けて切り抜ける自分を考えると気が重い。
今日のメッセージは俺の返事からあとには、来なかった。
ほっとする反面。お遊びに飽きてきたのかなとも思った。


溜息ばかり吐きながらスケジュールをこなして、あっという間に仕事で会う日になって。
メッセージは一日一回来るか来ないかに減っていた。こっちは好きなんだから、飽きられるのは辛くて、少なくなってくる連絡に俺は出来るだけ丁寧に返していた。


久しぶりにその姿を見た。


楽屋にメンバー達と一緒に挨拶に行くと、肘掛けに手を置いて、クリスマスらしい真っ赤な衣装で他の先輩達と並んでソファーに座ったまま、上目遣いに睨むように見据えられた、と思ったら、にやっと笑われた。いつもの笑いだ。


「じゃあ、今日はよろしくお願いします」


うるさい心臓を抱えながら、早めに切り上げて背を向けると、彼と同じグループの、別の先輩に呼び止められた。



「スホ」



安心した。この先輩達の中では一番馴染み深くて、面白いけれど自分の名前をつけた飲み会を開いては、時々それに誘ってくれたりする人の声だ。
振り返ると、栗色のふわりとパーマのかかった髪と自分やあの人と同じ白い肌が目に入った。大きな瞳の、大きく開いた二重の目が俺に微笑んでいた。


「お前も来ない?イブの0時くらいからパーティー開くことにしたから」


俺の前に立って、覗き込む。俺はそんなに背が高い方じゃないから少し見上げた。イブは……頭に何度も確認したメッセージの文面が浮かぶ。丸被りだし、そうじゃなくてもパーティーは疲れて無理だなと思った。ちらっとその後ろを見ると、ソファーに足を組んでじっとこちらを見ている目と、目が合って、そらした。


「すごい……行きたいですけど」


「疲れてる?俺もだよー」


と、笑って肩を組まれる。笑みがこぼれた。耳元でこそっと「あんまり無理するな。リーダーお疲れ」とこの人特有の響く声で言われて、不覚にも少し目頭が熱くなった。俺の顔を大きな瞳が覗いて、肩を組まれたまま、ぽんぽんと頭に手を置かれた。


「キュヒョン」


後ろから、電話口でも聞いた声がして、組まれた手が止まる。


「ちょっと座れよ」


肘掛に肱を乗せて頬杖ついたまま、顎でしゃくって、空いているソファーを指したあの先輩の言う通りに、明るい表情のまま「じゃあ、また連絡する」と座りに行った人の後ろで、俺を見ている視線から、逃げた。


「じゃあ、失礼します!」


と、笑顔でそこを離れた。
あの先輩と男の俺が付き合っているなんてやはり思えなかった。
これは、まあ、冗談だな。
リハーサルを終え、疲労感と、馬鹿にされていそうな自分の恋に心労を覚えながら舞台裏で出番を待つ。
まだ早くて、メンバーはトイレに行ったりモニターを見たりと散り散りだった。


「こんにちは」


声かけられて飛び上がりそうになった。
真横に立っていた。


「お疲れ様です!」


心臓が口から出るかと思いながら、精一杯笑った。
間近で見下ろされる。さっき肩を組まれた先輩よりは若干低いものの、180近くの身長は、その履いている靴もあるのか、大分差がある気がした。切れ長の大きな目が食い入るように見て来る。アシンメトリーにわけた、ウェーブのかかった黒い前髪がその片目に少しかかっている。


「なにそれ」


呟かれて、どう答えていいのか分からない。


「お前さ」


唾を飲んだ。


「はい……」


笑顔が強張る。


「俺と会うんだよな?」


返答につまった。
会うことにはなっている。けれど……
色んな思いが駆け抜けて、この人と会って、何回したか分からない、頭を捻りながら、その目が伺うように狭められるのを見つめた。


「あの」


声を出すと、鋭い目元がぴくっと動いた。


「えっと……他の人も呼びますか?」


笑顔を作り直して、できるだけ明るく聞いた。
表情変えず俺を眺めて、


「あー……」


と、言ってから、そのまま俺の顏を眺められる。沈黙に、次は何を言われるのかと眉をひそめた。見つめあっていると、



「ヒチョル」



その名前を、彼のグループのリーダーが後ろから呼んだ。


「なに?」


こちらを見つめたまま、返事をされて、焦る。
冗談のような口約束の関係に、もしかしたらもう冗談として公表しても良いかもしれないくらいだったけれど、俺にはまだ隠さないとと言う思いがあった。


「録音が、マイク固定されてるかもう一回見たいって」


「固定されてただろ」


「いや、ウニョクがさっきテープ外れた」


「あそう」

全く視線をそらさず会話されて冷や汗が出た。
本当に俺だけ慌てて馬鹿みたいだと思うのに、ぎこちない笑顔を作ることしかできない。それも真顔で見られている。


「じゃあ、本番、頑張って下さい!」


二人に笑って言うと、俺はモニターを見ていたメンバーの元に走った。


「スホさん!ディレクターが最後のコメントの尺、見たいそうなんで!」


アシスタントディレクターに言われて、メンバーの一人と、回れ右してそちらに向かう。何となく、先輩の方を振り返って見た。当たり前だけれど、いない。
統制以外にもリーダーと言うだけで、動き回らないといけないことは色々あって、心労に加えて疲労も蓄積されていった。


本当に何を考えているのか。
クリスマスが来ることが更に気が重くなって来る。
だけど、俺はやはりあの人が気になって仕方がなかった。


スタッフの用意したものがイマイチで、帰って来てからメンバーが口々に、あれ食べたいこれ食べたいと言うから、夜中、24時間出前のとれる店のメニューを注文させた。嬉しそうにメンバー達に礼を言われながらカードを切る。


「なあ」


疲労困憊の体で、ダイニングの床に座って、自分の注文した豆腐のキムチ鍋を食べる気力もあまり出ず、隣に座っていたメンバーの末っ子に声をかけた。
細くて背の高い末っ子が自分を見た。


「あのさ、俺って女っぽい?」


にこにことした顔で、俺の方を黙って見る。


そして、


「どう見ても男です」


と言ってにこにこした顔で、スープをスプーンで飲んだ。


「だよな……」


眉と目元がしっかりして男っぽいと自分では思っている、確かに背も、口元とか鼻筋も、先輩より小型ではあるけれど。色が白いのはお互い様だし。
男二人で付き合うのなんて、向こうには冗談だよな……と思いながらさっき自分を見据えてそらさなかった目を思い出して、分からなくなる。


そう言えば今日は連絡……と思って携帯電話を見たけれど、連絡はなかった。


食欲が完全に失せて、「ごちそうさま」と箸を置いてから、メンバーがまだ食べているのをぼんやりと眺めた。


それから連絡がなくなって、俺は忙しさに任せて、ただその存在を忘れようと必死に過ごしていた。これはキャンセルだなと思っていた。
なのに、イブになった深夜0時、「今から出る」と、仕事終わりに来て、唖然とする。
「一時間、外出て来ます」とマネージャーに伝えて、気が付いたメンバーには目を輝かされて、彼女か聞かれながら「違う」と答えて向かった。


あ、服。
コートの下は今日一日着ていた普通のボーダーのニットにジーンズで、もっとイベントっぽくした方が良かったかそこで気付いた。でも、こんな短時間でクラブなんかには連れて行かれはしないだろう。
それに気合い入れて、「これで冗談終わり」と言われたら格好つかない。
もう良いと、溜息をつきながら駐車場で次の連絡を待つ。


本当に来るのか。
来るなら会いたいと思いながらも、その後のことを考えると、逃げ出したい気もした。


それから10分も待たず、外にはファンが恐らく数人はまだ立っているマンションの地下駐車場に、本当に自分の誘導と共に言われた外車が入って来る。空いている場所に停まった。
何となく体が震えた。


近付くと、助手席の窓ガラスが開いて、不機嫌そうな、こちらも見ない横顔が見えた。
ストレートになった前髪で、表情が良く分からない
ここに来て逃げ出したい気持ちは最高潮になるけれど、上にした指を曲げて「入れ」と言う風に動かされる。
あ、プレゼント、と思い出して、いや、それももう良いと頭を振って中に入った。
助手席に座ってドアを閉めた途端、黒白のチェックコート姿で、運転席から立ち上がられる。


「え?」


と言った俺の口が、喰らいつかれたように塞がっていた。
目の前に伏目にして、量感のある唇を押し付けて来る顔があった。
わけわからず目を丸くする。
俺の上に乗られて、何度も唇を食まれる。
好きな人間に口づけられ、息が上がって来る。頭が追い付かないまま襲って来た興奮に、キスを返しはじめると、やっと少し距離が開いた。肩で息をする。相手も少し上気しているように見えた。


「はっ……あのっ……これどういう」


「人がいた方が良かった?」


にやりとその口が笑って、近づく。
再びキスされて、その体を抱きかかえる。夢かと思いながら唇を重ねていくと、また離されて、両頬を掴まれた状態で、


「お前さ、俺が悪かったわけ?」


と上から覗き込まれて、「何が」と聞く前に、舌が入ってきて絡める。もう気持ちよくて、力が入らなくなって背もたれに身を預けた。
その腕に抱き締められる。


「なあ、スホ」


後頭部で囁かれる声に、本当にこれは現実なのだろうかと、放心した。


「男同士って一時間でえっちできんの?」


「は?」


瞬いて、顔を上げる。


「いや、それよりお前シャワー浴びて来た?それ言い忘れたな」


その顎を触って首を捻りながら、今日のご飯どうしようかな、くらい自然に言われる。


「え、ちょ、えっ」


挙動不審になって慌てる俺を、鼻で笑って見て来る。
何も言えず見上げていると、


「冗談だよ」


と、目尻の上がった鋭い目が、微笑んだ。


「どれが……」


独り事のように呟いた俺に微笑んだままで、「どれならいい?」と落ち着いた調子で言われた。
呆然と考えてから、



「……どれも嫌です」



と答えると、噴き出して笑われて、その笑いは大きくなって、俺は初めて自分がこの人をこんなに笑わせたと思った。
笑いがなくなって、「俺はお前の何だよ?」と、見下ろされて、こんなことがあるのだろうかと、俺はやはり良く分からないまま、でも、


「……先輩」


と答えた。


「先輩じゃなければ?」と言われて、「兄さん」と答える。


「じゃあ、兄さんじゃなければ?」


その真顔に見られると、きっともう何を言っても、俺は読まれてしまうと、本当は真っ先に思い浮かんだけれど飲み込んだ言葉を出した。


「……恋人」


厚い唇がにやりと笑った。


「お前には言いたいことが山ほどある」


まずお前から連絡よこせ、と続けられた。その光景をうわの空で眺めて


「なんで、俺と付き合ってくれたんですか?」


と、呟くと、また鼻で笑われて、


「奢って、不思議な顔した奴は初めてだったから」


と、俺の上からどく。
運転席に戻った姿を見ながら、頭を捻る。


「それも」


フロントミラーで自分を見た鋭い目が笑った。車にエンジンがかかった。


「他にも思いついたら言うから、何か食い行こうぜ」


動き出した車の中で、一時間は過ぎるけど、どうせ帰っても寝られないと、顔が綻んでくる。


その俺に、奢ってやるからと、面白そうに言われたクリスマスは、始まったばかり。








『How much is your christmas?』ヒチョル×スホ

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