「クリスマス前の悪夢」ユノ×テミン(クリスマス企画短篇)
俺の後輩は可愛い。
みんな可愛い。
でも特に可愛がってるのの一人。
その後輩を交えて、事務所仲間で飲む機会があった。
「ユノヒョン!俺、彼女出来ました!」
こいつはダンス馬鹿で、俺に似たものを感じるのもあって、デビュー前からずっと面倒見てた。それがつい最近デビューして、この前なんとそれまで彼女がいなかったと内緒で告白されたばかりだった。
クリスマス前のことだった。
いいなあ。
俺なんか、ふられたばっかだよと思ったけれど、実際、滅茶苦茶忙しくて会えないし、別れる予感がしてたのも事実で、そこまでショックも受けなかった。
「良かったな」
「はい!ヒョン!今日は飲みましょう!」
きゃっきゃと喜んで飲んでいる。薄茶色のさらさらした長めの髪をなびかせて背も小さくて顔もちょっと女の子みたいなのに、「彼女が出来た」「クリスマス彼女と会える」と喜ぶ姿は本当に可愛いなと思った。
そして、数時間後。
俺は尋常じゃない頭痛で目が覚めた。
めっちゃ頭痛いな。
どうやら昨日飲み過ぎた。
ってか、ここどこ。
俺は横になったままじっと目の前を見た。
真っ白なシーツの向こうに二組のソファー椅子と広い窓の景色が見える。
なんかホテルみたいじゃない?
「え、ここどこ」
後ろから声がして、後ろを振り向いた。
あの後輩がいた。
「え?ユノヒョン?」
後輩のテミンが目を丸くした。
「ああ、なんかおはよ」
「あ、おはようございます!」
と、いつものくしゃっとつぶしたような柔らかな笑顔で、はきはきと応えられた。
直後に、二人で飛び起きた。
「な、な、な」
テミンが自分の上半身を見下ろして引き付けでも起こしそうに「な、な」と痙攣してから、
「なんじゃこりゃああ」
と、叫んだ。
俺も続けて言った。
「ユ、ユノ、ユノヒ、ユノヒ」
なかなかテミンがヒョンと言えないでいる。「ヒョン」は韓国語で「兄さん」と言う意味。
「テミン落ち着け」
でも、俺も心臓バクバクだ。
「お、お、お、落ち着いていられないです!」
「多分違う。多分違うから」
俺はだって、男にそんなことするはずない。
男はないって!
でも二人共、素っ裸だった。
「ユノヒ、ユノヒ」
テミンが酷い感じになっている。
「大丈夫だ!抱いてない!」
可愛いのはそう言う意味じゃない!
「それが俺!お尻すごい突っ込まれた感あります!」
「え……マジ?」
自分達は黙った。
そのままどの位か経った後に、
「……気のせいかもよ?」
と、切り出して見た。
くしゃっとテミンが笑ってから、
「俺ちょっとそこの窓から飛び降りて来ますね、ユノヒョン!」
元気よくそのままベッドから下りようとするから「待て待て!悪かった!」と羽交い絞めにした。多分そこの窓はそんなに開かない!
「おおお」
テミンが唸っている。
テミン、テミン、と声をかけるけど、だめそうだった。
ベッドで向き合って座り込んで二人で意気消沈した。
「……逆なら良かった」
股間だけ布団で隠した足元を見ながら、テミンが呆然と呟いた。
「いや……俺は、それは結構あれだぞ」
判明と同時に心臓停まって逝くかもしれないぞ。
そして、彼のショックは計り知れないことが改めて分かった。
顔面蒼白しているテミンが顔を上げた。
「……ヒョン。男もいけたんですか?」
「いや、いけないです」
その顔を見ながら唖然と応える。
「でも、いけてます!」
テミンが立ち上がってベッドの上で仁王立ちしたから、目の前で股間が見えた。
俺も顔面蒼白した。
そんな俺に顏だけ向いて見下ろした後、テミンの目からぶわっと涙が溢れた。
「髭え……ひげえ……」
俺が男だと言うことが彼を深く傷つけている。俺はこちらに向いたまま、ぼろぼろと泣いているテミンを見ながら、
「テミン、あのさ……犬に噛まれたとでも」
「俺、今きっと肛門から血出てます!」
テミンの尻も深く傷ついていることが分かって俺は何も言えなくなった。
片手で目元を抑える。
「テミン、ちょっと待ってろ。どこにも行くなよ。顔洗いたい」
泣いている後輩を残して、散乱していたスリッパをひっかけ、素っ裸のまま洗面所に入った。
確かにすっかり青髭になった俺がいる。少し長いから髪が顔につくのも気にせず勢いよく洗った。
柔らかな表情のテミンとは、小作りだけど真逆な自分の顏立ちを鏡で見ながら、端に置かれた台の上に畳んであったフェイスタオルで拭いた。
かなり広い洗面所だな。
どこのホテルだよ。カード出した記憶もないぞ。まさかテミンが出したのか。
口の中が気持ち悪くてついでに歯を磨いた。
あ、あいつ仕事は?
「おい、テミン。仕事は?」
歯ブラシを咥えたまま、洗面所を出た。
座った足元に布団をかけて泣き腫らした顔のテミンがこっちを見た。
「ユノヒョン、なんか着て下さい……それ見たくないです」
「分かったよ」
お前さっき俺の前で仁王立ちしただろうが。
バスタブの近くに置いてあったバスローブを羽織った。俺、そういや、シャワーとか浴びたのかな。
一服したかったけど、やめてすぐにテミンの元に戻った。
泣き濡れたテミンの目が俺を見た。
「ユノヒョン。俺、彼女と別れなきゃ」
「ほんと、悪かった」
俺は正座していた。
自分も、もし同じことになったら別れるからな。
それにしても、俺、男抱いたのか。とんでもねーな。しかもデビュー仕立ての後輩を。
「償えることじゃないと思うけど、何でも言って」
でも、きっと俺も後で物凄いショックが来るに違いない。
本当に一体何が起きたんだ。
テミンが首を振った。
「ううん。俺が悪いんです。何となく思い出して来て。なんかユノヒョンにレクチャーしてもらってたんですよ」
レクチャー……
「ユノヒョンは全然思い出さないですか?俺も今段々って感じで」
「あー?」
なんか思い出して来たぞ。
テミンもまた思い出して来たのか、二人で空中をぼんやり見つめた。
「みんな帰ってんじゃん。俺のマネージャーどこだよ」
「今日はとことん飲みましょう!」
「もう俺ふらふらだよ」
「じゃあそこのホテルで飲みましょう!帰れなくなったらそのまま寝ればいいし!ユノヒョンと二人楽しい!」
「仕方ねーな。じゃ行くか」
「あれ?ここ大統領泊まったとこだー!」
「ダブルなら、部屋も空いてるらしいぞ……」
「じゃ、ダブルで!」
「カードどこだ?……いいや。キャッシュで!」
「いい湯でしたー。バスローブいいですねー」
「俺なんか気持ち悪くなりそうだからシャワーはいい」
「スパークリングワインありますよ!」
「こんなに飲むの久しぶりだなあ!」
「ユノヒョン!俺、実は悩んでるんです!」
「あそう。テミン。何本飲むんだよ」
「俺、そういうのしたことないから、クリスマスちょっと緊張してて」
「そういうの?」
「ユノヒョンは多分上手いやつです!」
「いや、別に上手くはないけど、そっちね」
「あ、こぼしちゃった」
「ベッドで飲むのやめ。俺、もう記憶なくしそう」
「ヒョン、ちょっとお聞きしたいんですけど。もし入らなかったらどうすればいいんですか?」
「気合だせ」
「あー、もー酔ってる!いつものユノヒョンならもっと親身になってくれるはずなのに!」
「分かったよ!親身になる!」
「投げやりじゃないですか!動きとか体勢とか良く分からないんで、ちょっとユノヒョン、寝転んで下さい」
「え、俺でやんの?」
「動きだけです」
「えー」
「早く早く!」
「どう?」
「なんか、こんなでかい女の子良く分かんないな。脚重すぎませんか?」
「こんなもんだろ」
「そうかなあ。全然動けないです。俺もっとダンス上手くならないと」
「うん。そういうの大事だよ。おい、脱がすなよ」
「脱げたんです。全然分からなかったなあ」
「前で入らなかったら、後ろからすればいいだろ」
「彼女の顔、見えなくないですか?」
「そっちの方が緊張はしないだろ」
「分かりました。じゃあユノヒョン四つん這いになって」
「それはない!」
「えー、じゃあ俺がなって、動き見ます」
「ちょっと微妙だなあ」
「もっとヒョン飲んで。これ美味しいですよ」
「あ、甘いね!これなに?」
「なんだろ?これなに?」
「美味いな!」
「ユノヒョン!乾杯!」
「おー」
「暑い!」
「暑い!」
「ヒョン!寝る前に動き動き!」
「んー、もうダメだ俺。だから、こんな感じ」
「なんか裸で俺達。あはは。ってヒョン何かたってないですか?」
「一瞬寝てたし。動くぞ!」
「え、まっ」
「えい!」
「いってー!!」
カオスだ……
「ってか、ここ大統領のホテルって」
現金今残ってるんだろうか。
正面のテミンに向いた。
「ユノヒョン……シャワー……浴びてない」
テミンが泡噴いている。
「大丈夫だ!仕事終わってすぐ浴びたからっ!」
それよりもお前、あの酒何なんだ!
「えいって、無邪気すぎますっ!!」
テミンが片手に握り拳を作って、また仁王立ちになった。
「テ、テミン。悪かったけど、お前もなんか着ろ」
テミンを見上げながら、青ざめる。
でも、テミンは俺を見下ろして、そのまま眉を下げた。ぐるりと口を囲んだような唇がへの字に曲げられている。
「テミン?」
「俺が……全部悪かったですね。本当にごめんなさい」
その目からまた涙がこぼれた。
いや、俺も無邪気だったし。と思いながら見つめる。
「テミン、座れよ」
素直に座ったテミンが、「すいませんでした」と繰り返しながら俯いて泣く。そっと背中に腕を回してさすりながら、「俺も無邪気だったし」と言った。
細くて白い体も茶色の長めな髪の毛も本当に女の子みたいだった。
「あのさ、テミン」
自分の肩のあたりで泣いているテミンに囁く。
「……はい」
「これ、不可抗力だから、彼女に言わなくてもいいんじゃない?」
「……言いません」
「うん。それが良いよ」
こんなのあんまり良く分からないと思うし。
「でも、別れます」
さすっていた手を止めて、その顔を見ようと後ろに体を引いた。
白い顔を泣き腫らしたテミンがこっちを見る。
「だって、言えないことが出来るの嫌だから」
ぐちゃぐちゃになっていた茶色の髪とその顔を見ながら俺は苦笑する。
「それでいくと、お前の恋人になれるの俺しかいなくなるだろ」
涙にぬれた丸い目が俺を見た。
それから、
「本当ですね」
と、言ってくしゃりと笑った顔が、何となくそっちの可愛いさだったからかは分からない。
今年のクリスマスに一緒に遊ぼうと誘って、その晩も自分達は飲み過ぎた。
その日は、キスだけで済んで良かった。
『クリスマス前の悪夢』END