夢の続き

東方神起、SUPERJUNIOR、EXO、SHINeeなどのBL。
カテゴリーで読むと楽です。只今不思議期。

「雪のような恋人」ヒチョル×イトゥク(クリスマス企画短編)


窓を開けて、微笑んだ。空気は冷たかったけれど、今年も降ったその雪に、ホワイトクリスマスと言う言葉が浮かんで、暫し、下に拡がる景色を眺めた。
パーカーを羽織り、イトゥクは部屋から出ると、ダイニングに電気がついているのを確認してから、洗面所に向かった。顔洗って歯磨きを済ませる。化粧水にクリームを塗っていると、洗面所のドアを開けて立っていた。


「仰せのままにしました」

全体的に長めの茶髪をオールバックにして固めて、濃い灰色のスーツに黒いシャツを合わせた恋人がいた。手のひらを上にした両手を「見ろ」と言う風に拡げて、俯いた顔が照れている。


「俺も着替えるか」

と、イトゥクはその恋人に笑いかけた。
顔が上がって、きつい目元がイトゥクを見た。大きな切れ長の目に白目が眩しい。その厚い唇が微笑んだ。

「どっちでも良いよ。早く来い」

自分も所属するアイドルグループのメンバーの一人である恋人が顎でしゃくった。化粧までしている端正な顔を、目を細めて見る。


「やっぱり着替えるよ」


「分かった」

ヒチョルが微笑んだまま、少し顔を傾け返事をして踵を返した。
「早く」と優しく言われた。
「特別な感じにしたい」と言った自分のために、気遣ってくれた気持ちに応えられるよう、イトゥクは白いシャツに腕を通して、待たせたくなく、無難な黒いスキニーパンツを履いた。並んだアクセサリーを前に、懐かしくていいかと銀の十字架のピアスをしてみた。クリスマスっぽいかと思ったら、鏡の中の自分はあの頃より老けて、デザインも時代遅れに感じて外した。悩むと時間がかかりそうだったから、最近良くする黒いリングのものをつけた。
簡単に化粧もすると、まあましか、と気分が良くなって口の端を上げる。
はだけた胸元のボタンをはにかみながらもう一つ止めた。台所に行くと、ヒチョルがにやりとイトゥクに笑いかけて、シャンパングラスに、スパークリングワインを注いでいた。


「えー、酒?」

イトゥクは笑った。


「無礼講」

ヒチョルは座れと頭で指した。
サラダ、チキン、ピザ、を食べて、ケーキを持ってイトゥクの部屋に移動した。スーツのままのヒチョルに後ろから抱き締められながら、ベッドの上でイトゥクは笑った。


「食べさせるから」

そう言われて、銀のフォークで、ベッドに皿を置かれた赤い苺のショートケーキが掬われる。それを見ながらイトゥクはさっきの十字架を思い出した。
老いていく自分が果てのない闇に落ちて行くのを感じた。
ぼうっとしながら、今はやめろと自分に言い聞かせる。部屋の何もかもがきらきらと輝いている聖なる夜に、頭が混沌とする。この輝きは自分の栄光から生まれているのに、それを見せたい人間がどこにもいなくなったと朦朧とする。
この闇は長い年月を経ていた。
年を重ねるごとに、ひとたび、そうなったら、もう抜け出せないような気がしてくる。またそこに、はまろうとしていた自分に、


「ほら」

と、赤い苺の乗った柔らかそうな白いケーキが見せられた。


「口開けて」

横から覗き込まれて、イトゥクは言われた通りにした。口に甘くふわふわとしたものが入って、イトゥクはそれを出来るだけふわふわと動かして食べた。甘く美味しいと感じた。
横を見ると、満足そうなヒチョルと目が合った。
こいつを、俺は道連れにした。イトゥクは思った。仕事は山ほど入って来る。でもそれを喜ぶのが誰なのか分からない。だけど、それがないと自分の価値が見出せない。生きる意味が無い、それなのに誰もいないと、一度この酷い闇にはまって、リーダーの自分は逃げることもなく、当時の恋人に縋ることも出来ず、ただ仕事を無心でしながら、前が見えないほどの黒い世界でにこにこと笑うだけで、こうやっていたら死んでしまうかもしれないと思っていた時に、自分の一番近くで生活をしていた人間に気づかれた。そのことを今でも、良かったか分からなくなる。その人間が心のよりどころになってくれた。でも二人とも男だった。自分達はそれまで女しか恋人の対象にしていなかったのに、この人間は己しかいないと思ったのだろう。何でもさらけだせる恋人のようになってくれたと、何度も思い出してはイトゥクは考える。これは間違いなのかまた分からなくなる。でもそれが、何年前かさえ、あやふやなくらい昔になっていた。
だけど、この人間がいないともうダメだと思った。自分のせいでヒチョルは異性の恋人を作らない。イトゥクの方がこれではダメだと異性の恋人を作ろうと関係を持った時でさえ、ヒチョルは何も言わなかった。
自分はこの一番大切な人間を不幸にしている自覚がある、なのにどうすることもできない、イトゥクはこの恋人をとても愛していた。


ヒチョルはフォークを下ろして、恋人に気づかれないように小さく溜息を漏らした。しかし、口元に笑みは浮かべたままだった。
悲しそうな目をしてはにかまれると、たまらなくなる。またいらないことを考えてるなと苦笑しながら、ヒチョルはこの恋人にぞっこんだった。
その心の闇に気付いた時、なかなか踏み込めなかった自分が許せなくなるほど、決意してみれば恋人の真似事をするのは簡単だった。そして、それは真似ではなくなった。自分の気持ちは伝えてあるし、イトゥクの気持ちも分かっている。しかし、別の人間と関係を持たれた時、自分がこれほどかと打ちのめされたことを相手は知らない。
なかなか難しいなと、ヒチョルは苦笑した。


「もっと食べて」

イトゥクの外見の自己管理力には脱帽する。少しでも、何かが欠けるのを恐れる気持ちは分からないでもない。でも、ヒチョルのそれとは出所が違うし、レベルも違った。だけど、それを突破させて、自分の用意した料理を山ほど食べさせてみたいものだとヒチョルは思った。
しかしきっと、このケーキくらいは食べてくれるだろう。
イトゥクはやはり口を開けた。ヒチョルは笑うとえくぼの出来る部分に、抱きしめながら後ろから口づけた。可愛くて仕方がなかった。
自分の方が背が高くて良かったなと思う。


「クリスマスの歌うたってあげる」

言うと、口づけた部分にえくぼができたのが分かった。


「お前が歌?」


「心込めて唄うから」


「クリスマスの歌に心込めるの?」


「相手にね」


ヒチョルはそう囁いて、白いケーキを崩しながら、その相手の口元に持って行った。艶々とした綺麗な唇を見ながら、出来るだけ愛の言葉が入った歌が良いなと、頭で探し始める。
その歌が唄い出されると、銀色のフォークは、またえくぼができて、イトゥクの目には入らなくなっていた。何度も現れるのは、ただ甘くて白い、恋人のケーキだけ……







『雪のような恋人』おわり



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