夢の続き

東方神起、SUPERJUNIOR、EXO、SHINeeなどのBL。
カテゴリーで読むと楽です。只今不思議期。

「アラベスク的並行宇宙」ソン・シギョン×シウミン ギュライン(キュヒョン チャンミン ミノ ジョンヒョンCNBLUE スホ)


不断の読書というものの中に、明確に意味づけられたのが意義の発掘とするなら、常識的だろう。
しかし、これはお前に聞かなければならない。
この唇が良く使う名を呼んで。
「キュヒョン」
瞬間に、全ての顔が向き、ソン・シギョンは閉口した。
合わさった線の端は全員の中で十近く年齢が上であるのが関係し、たるんでいる。
薄闇だ。
死に場所を求めた男が、穴の中で眠る、昔、映像で目にしたイランの世界がそこにあった。
あの国では、まだあんな男がいるのだろうかと、シギョンは映画を思い出した。
あれはテヘランだったか。
彼らの背後の壁に貼り付けられた古ぼけた世界地図にはその名の都周辺がペンで洒落た風に彩られていた。
古ぼけたと言っても、実際に古いわけではなく、見せかけだ。
自分達の両脇に並んだ樽も、その中に入っている赤や黄の香辛料も、恐らく隠れた場所はからだった。
天井には、イスラム圏特有の幾何学的な模様を付けた薄い布が真ん中を膨らませ張り巡らされている。
見せかけと言っても十分な、スパイスの香り。
「シギョン兄さん」
キャンドルの明かりしかなくても、丸く黒い瞳が揺れた。
そう言えば、とシギョンは上を向いてから、店内に視線を走らせる。
各テーブルの両側に置かれたキャンドルしかどうやら光はないらしい。
しかし、メンバーは半数以上が色が白く、自分も白い方で、このテーブルだけが、仄白く見えた。
一番手前の席を空けて座る男の、綺麗に癖のつけられた栗色の髪を見下ろして、自分に向いている黒い瞳、それから全員をまた見渡す。
「えー……」
と声を出した。
わざと、染み入るように出したのは、かすかにわいた自己顕示欲だった。
飲み物は全員が凍ったジョッキのビールだ。そして、インドではない初めて見るスタイルに盛られた雑穀米と銀の丸皿が人数分置いてある。
シギョンは目を輝かせて見ている人間達に言った。
「なんで君たちカレー食べながら、こんなとこで漫画読んでんの?」
これが若さか。
そんな感じで、自分以外の人間が抱腹絶倒しているのを、黒いフレームの眼鏡を通して眺めた。
「座って下さい。兄さん」
笑いながらその、栗色の髪のキュヒョンが立ち上がる。
真っ白な肌の彼の隣で、地黒な男も立ち上がると共に全員が立ち上がり、シギョンは「いいから」と言った。しかし全員そうしなかった。
8人掛けのテーブルは、手前二つが空いている。見知ったキュヒョン側に座ろうとすると彼がずれた。
大きな口の横長の唇を引っ込めるように笑っている隣の地黒の男も、身長に合う大きな目元で見て来ながら、ずれた。
その隣にいた小柄な若いのが、切れ上がった一重目蓋を少し見開いて、口をあけっぱなしにしたまま、ずれようとして制された。
「兄さんそこです」
笑いをこらえた低く響く声。見知った男の、子供っぽさをあらわにされて、垂れた奥二重の眼差しを怪訝にした。
しかし、席を一つ空けられた巨体のせいで一層小柄を引き立たせ、切れ長の目を更に開き、立ち尽くしている様子を見ると、苦笑しながら言われた通りにした。
自分を見上げた、まだ力を入れ開かれた双眸や赤い唇を見下ろしながら、シギョンは、シウミンだと思った。
間抜けな顔は、はじめまして、と視線を泳がせながら、若干嬉し気にされた会釈で戻った。
よろしくお願いします。キム・ミンソクです。
シギョンと、続けながら俯き気味で伺うように上目遣いになられたのと同時に、
「兄さん」
とシギョンは口の端を上げ見下ろしながら呟いた。
若く、小さかったので、今度は慈しみから無意識に染み入らせた。
「兄さん」
復唱した赤い唇の間から綺麗に整った歯が見えた。げっ歯類の顏だとシギョンは思った。
「お久しぶりです。兄さん」
向かいに顔を向けた。
斜め前に彼のグループのリーダーがいた。
黒髪と、濃く太い眉が相まり黒く見える目元が、透けるような肌で際立った。
「久しぶりだねえ。元気?」
「はい」
と言ってにこやかに頷く、その着ている灰色のTシャツを見ながら、シギョンは小さく噴出して笑った。
眉を寄せた彼らと自分、全員がTシャツ姿だったのが何となく面白かっただけだった。
正面で、目元の堀の深い、店内の雰囲気にあったような男がなで肩から出た首を傾げている。
体格は良いが、端正さと小さな口元でむしろイスラムの女優のような顔立ちのアンバランスさがある。こちらの肌も白かった。
「ヨンファにこの前会ったよ」
「あ、そうですか。どこでですか?」
「収録の打ち上げで。清潭洞のホルモン屋かな」
「彼は色んなとこに出没します」
そう言って、はにかんだ。頬骨を強調させ長くなる目元に、歯が出て、シギョンはそれを見て若干笑顔が強張る。
端正なのに、何となく勿体ないなと思いながら、隣で、均等が段違いに見事な、ほぼ同じ身長を並べて、白目がぎょろりと光る茶髪の男がぱかっと口を開いて笑いかけて来たのに頷いた。
「俺のこと覚えてますか?」
「昨日スタジオで会ったろ。女優さん可愛くて羨ましいよ」
「彼氏います」
「兄さんのせいで座れないです」
「俺のせいじゃないだろ」
割って入ったキュヒョンに言うと、元から上がった口角を上げて大きな瞳に喜びを満ちさせて見てくる。
幼い愛情表現に苦笑して「座ろう」と視線を落としながら呟いた。
「決めて下さい」
キュヒョンが自分と同じ身長の隣の男を挟んで、メニューを渡そうとする。隣の男がそれを取って、シギョンに渡した。
「なんかでかいな」
キャンドルの光が少しだけ届く男の丸い頬を見る。
「同じ、ですよね?」
正面を向いたまま、大きな目の尻が下がり、また横長の唇を引っ込めるように笑った。片手の甲で口元を抑えている。地黒の手から腕にかけて多く浮き出た血管を見て、シギョンは鍛え過ぎだなと思った。
「顔は俺の方が大きいけど」
「変わらないですよ」
「変わるね。今の人だよ」
「相方と並んだら、昔の人になりますよ」
「じゃあ、俺、彼と並んだら原始人になるな」
「兄さん、早く決めて下さいよ」
シシカバブと答え、あとビールとつけ加えて、また口を挟んだキュヒョンにそのまま渡した。
こちらも幾何学模様が描かれた表紙のものを白い手で受けとられながら、間の男に「カレー食べないんですか?」と呟かれる。
「さっき仕事で冷麺食べたんだよ、肉だけで良い。って言うかなんか暑いな」
薄暗い店内で首を伸ばした。
「言ったんですけど。限界って」
「君たちがむさくるしいんじゃないの?」
「兄さんは入ってないんですか」
また片手の甲で口元を抑えて笑う。にやりとしたシギョン含め、全員がここは笑うところだろうと分かり易い冗談に、大小はあれど規則的に笑みをこぼした。
顔を横向けて、量が多い黒髪と横長の唇の上に少しのびてきた髭を見ながら、シギョンは、「熱量が違うんだよ。俺は君たちみたいに熱を出さないから」と彼に言う。
「だから、ふくよかになってきてるでしょ」
青いTシャツから、この中では一番贅肉を感じさせる白い二の腕を全員に見せるように前に出した。
「太い人の方が暑苦しいんじゃ……兄さんがそうって言ってるんじゃないですけど」
「なんてことを言うんだよ。相方の教育がなってないんじゃないの?」
彼らに笑いを起こしながら、シギョンは微笑止まりの目に疲労を出した。
キュヒョン一人にだって辟易することがあるのに、それが六人かと。
若さに、気圧されることがあるのは、最近の詰まったスケジュールのせいだが体力が消耗した際にと、そして、このメンバーが綺麗に狂言回しとされる方に分かれているからだ。
回す方だと自覚があるが、いつもなら自主的に行き来するところ、疲れから、自然と回されるのも避けて通れない。抗わないが、性に合わないことには考えただけでも疲弊を感じる。今は全く出ていないが、あと一時間もすればこのテーブルの会話は質が変わる。あちら側の端と、こちら側のシウミン除く回し役との間に挟まれ、面倒になれば適当に帰るかと、シギョンはそっと息を吐いた。
「そういや何の漫画?」
自分を招いたキュヒョンに恨み混じりの目を向けそうになりながら、隣の男の、いかにも葉物で作られたような緑の濃厚な液体が配置された皿の横で、閉じられている物を見た。
向こう側の手元に置かれている物も同じらしかった。
見られていたから正面が反応して、本を持ちあげた。
 「これ、面白いんです」
 「あんな無言で読んでたらそうでしょう」
的確な返答が欲しいと横に向いた。
 「チャンミン、その漫画何だよ?」
含み笑いで渡される。
注文を終えたキュヒョンと彼が話し始めて、みんな気がそちらに向いた。
日本の翻訳物らしい小型な本を開いて見つつ、シギョンは、顔を近づけられた雰囲気を感じて、視線をやった。
本の中身はゴキブリの話で、ゴキブリに人類が殺されていた。日本もそろそろネタ切れが深刻だが、話運びは面白いのだろうと、それよりもこの男だった。
不思議だ。
人気のアイドルが、そう言う目を向けてくることに、シギョンがむず痒さを覚えるのは、まだ自分は同じ側だと言うプライドと、相手の人気の高さからだった。画面の人間が、自分に見とれているという以上の不思議さは妥当で、芸能界にデビューしたての、この男が所属する団体は、今一番話題性があるだろう。ここにいるリーダーには会ったことはあったが、他のメンバーは初めてだった。シギョンは、彼と自分の歌手人生を天秤にかけながら、やはり己の音楽的才能、未だ忙しいタレント生活は、そうなってしかるべきか、と冗談めいた自賛で、落ちついた。
それに、自分を見ていたのではなく、漫画を覗き込んだところ、目が合ってしまったからで、みとれたような眼差しは、勿論外見にではなくバラード歌手としての実績にと言うことで何度も経験してきたそれで、シギョンは彼に今、微笑んだのではなかった。
読みたいと言う無邪気さからでなく、隣になってしまった気まずさから覗き込むと言う選択をした鈍さに、性質の良さを覚えた。
端にたるみが出てきた唇の端を上げた。
「読みたい?」
と一応聞いた。
眉も茶色い髪に合わせて染められ、この熱気に関わらず、正面に炎が揺れるキャンドルを素直に置かれている小柄な体は、いたいけにも見えるが白い腕は太く鍛えている、と雑味なく浸透していそうな意識には、はつらつとした生物としての鮮度の高さも見た。
「あ、いえ」
見つめたまま、嬉し気に開けた口だけで否定するさまも、感情を隠すことはしないのは、グループの一番年上と言う強気さが相まっているのも悪くなく、純粋性が増される。
分かっていて聞いたのだから、答えは予想した通りだったが、シギョンは思わず、更に微笑んでしまった。
可哀想に。
隅に追いやられて、この人間以外は全員、自分の良く見知った男と、彼と自分の間にいる男の話術に夢中で、リーダーだけは気にしているが、彼はそちらの会話にも反応しないといけない。
「ミンソク」
シギョンは声を出した。久しぶりに出したほどの優しく聞こえるそれで、名乗られた本名の方にした。
「一口くれる?」
では二人で犠牲になろうと思った。相手にとって不足はないし、それがきっと最良だと。
何も自分の言うことに予想されないことなど無いだろうと言う変化しない明るい表情が「はい」と言う。
シギョンはテーブルの端に置かれたスプーン入れに手を伸ばしかけたが、それより早く、緑の濃い液体を掬われ、宙に浮かんでいるのを見て、素直に顔を出した。
彼は、引っ込めるか戸惑ったが、もう顔を出されて、そのまま、カレーはシギョンの口に入った。
先ほど同じものを見て、少し、美味そうだなと思っていたのだ。
まだ温かい。美味だった。
青臭いかと思ったが、にんにくとスパイスの香りが強い。
このスパイスは。
自分を明るい表情で見上げている顔を眺めながら、彼に聞いても分からないだろうと思ったが「この香り何だろうね?」と聞いた。
言われてすぐに一口食べた。
自分の口にも入ったスプーンや、赤い唇についた緑のカレーが、舌で舐められるのを見て、シギョンは眉を寄せた。
慈しむ以上の、想像をした自分に、眉はすぐに戻したが、シギョンはまるで、店内の両脇に置かれた樽に入れられた物や、カレーに入ったそれに巻かれていく。
視界がぼやけるような、それは香辛料と砂漠の砂。
砂漠に囲まれたイスラムの町で。
薄暗い建物の中、幾何学模様のすすけた布のベッドでに白く小柄な若い男と、肉欲に耽る贅肉のついた男を想像した。
背中から抱えるようにして、白い体を貫いている。
二人とも恍惚と、ひたすらに愛に溺れている。
後ろを向く赤い唇に、吸い寄せられるようにして口づけている。
嬉し気に唇の端を上げる若い男の舌を吸って、ただ、がむしゃらに。
「兄さん」
シギョンは黒いフレームの奥から、彼を見た。
「すいません、分からないです」
そう言って、赤い唇が笑った、
「ビール来ましたよ」
と言うキュヒョンの声。
シギョンは、眩暈がするほどの疲労を覚えていた。







『アラベスク的並行宇宙』ソン・シギョン×シウミン おわり

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