夢の続き

東方神起、SUPERJUNIOR、EXO、SHINeeなどのBL。
カテゴリーで読むと楽です。只今不思議期。

「一つの点を境にして、変わる瞬間に立ち会ったはじめての経験である 2」キュヒョン イトゥク(リクエスト企画)

本当に、上手く行かない。
ダンスだけでも、他のメンバーに近づきたくて、事務所に残り、トレーニングを続ける。だが、全ての感覚を近づけないと、距離は埋まらない、キュヒョンは、そううんざりしながら、寮に帰らなければならない時刻を指している腕時計を見下ろして、肩を落とす。  
優しいマネージャーが送ってくれた移動車の中で、窓から街並みではなく、冷たい一瞥を見て思う。つい最近まで普通の高校生だったのに、もうテレビに出てアイドルをしている。格好良いとか、歌が上手いとか言われて、少ないけどファンもついて、多分マンションの前には、今日も誰かが夜じゅう、待っている。けれど、二重になり、堀も深くなって憧れていた姿になった自分の悩みは、まるでそこら辺の高校生のようだと。
疲労と睡眠不足で、特に解決策も浮かばずに、キュヒョンは窓に映る情けない自分と、吐かれた煙と男らしいリーダーの像をずっと見ていた。
マンションに戻り、エレベーターを降りたところで、声を上げかけた。昼の一場面を切り取ったように、外に向かう壁に肱ついて下を眺めていたかと思うと、こちらを一瞥する。ただ、口につけていたのは煙草ではなく、オレンジのファンタだった。ペットボトルを一口ごくりと飲んで、「お帰り」とまた向かれた。
「あ、はい。ただいま」
とキュヒョンは返事してから、少し考え、「帰りました」と続けた。白いトレーナーとパジャマパンツで、就寝間近なのが分かる。耳に光る銀の小さな輪のピアスは、最近、ファンに貰ったブランドものなのだと言っていた。良く似合っている。
「キュヒョン」
険しい眼差しで見つめられると、自分を悩ませる忠告をまたされると察しがついて、思わず目を逸らしてしまう。それと同時に、この時間まで一生懸命にレッスンをした自分が馬鹿らしくなり、キュヒョンは無意識に唇を尖らせた。突き刺さる視線の中、なぜ無言なのが不思議で、ちらりと顏を上げた瞬間に言われた。
「寮内で酒を飲むな」
リョウクから漏れたのではないことは分かっている。二人とも飲んだのだから。恐らく自分達を心配した誰かが話したのだろう。キュヒョンは、あの日に自分が口にしていた悪口まがいなことも思い出し、顔面が蒼白した。しかし、
「特にお前は未成年なんだから、本当に気を付けろ」
と、付け加えられたあと、また無言になった。それで終わりかと訝りながら、「はい」と呟くと、「じゃあ、早く寝ろ」と、キュヒョンの横を通り過ぎ、「おやすみ」とエレベーターに乗って自分の階に戻ってしまった。
おやすみなさい、と返すことも出来ずに、キュヒョンは行ってしまったエレベーターを見続ける。改めて思えば、その内容はリョウクと自分しか知らないはずだから、これは、当然のようにも考えられるが、大方予想がついているものを突っ込んで聞かないのは、彼にとって、自分なんかどうでも良すぎる存在ということかと、捉えかけたが、キュヒョンはまた訂正した。そうではなく、あれは、愚痴を容認したのだ。
未成年が酒を飲んではいけないのは、法律上当然で、破ったのは自分だけれど、二十歳を目前に控え、その年齢を超えた人間達が周りにいると、酒を飲む場に参加することは結構ある。勿論そんな公の場で飲むことはないが、二人しかいない部屋の中でなら、黙認されても良いのではと、どこかで甘えていた。いや、勿論隠していたし、何より、知り合って日の浅い誰かに、自分の思いの内を吐き出すには、アルコールしか思いつかないほど心の限界だった。けれど、違反なのは間違いないし、事務所の規則にも反してる。思ったのは、やはり規則は規則なのだということ。そして、一人でも乱せば統制が取れなくなる。このアイドルグループは十三人もいるのだ。自分は、そこに入った。
ここにきて、芸能人は模範でなければならないということがキュヒョンの記憶に蘇っていた。
十三人もの人間を統制しなければならない。
真面目だけれど、ただ、真面目なだけでは、こんな大勢を守れない。彼は、思ったよりも未成熟ではないのかもしれない。新人の自分もいる十三人のアイドルグループ。そのリーダー、イトゥクという人間は、外で煙草を吸わない。たとえそれがマンション内でも。ファンがこれだけいて、どこで見られ、カメラを構えられているか分からないからだ。こちらに厳しいが、彼自身に対しては、より厳しいことが、キュヒョンは今更に理解できた。一人も例外を出さず、誰かが乱せば、グループが乱れる。お茶の間の模範でもあるが、グループの模範でもある彼は、ただ、己に対しての愚痴は本当に良いのだ。それが建設的な物であれば、面と向かって話す機会を設けるのだろう。今回のことは、その必要もないと思われた。ただ、それだけ。
五歳の年齢差、それ以上に、考えている。キュヒョンは、部屋の暗証番号を入力しながら、想像よりも思慮深かった人間のことを思い、自身の浅はかさに切なくなった。それからなぜか、このグループにいるためには、もっと努力を重ねなければと言う焦燥感に駆られた。
玄関を入ると、リビングから、シャワーを浴びたばかりのソンミンが顔を出し、「あ、お疲れ。差し入れあるよ」と細い唇の端を上げた。あまり気分が乗らないまま、盛り上がった声の聞こえるそこへ、キュヒョンが足を踏み入れると、テーブルにアイスクリームがばらばらと置いてある。「これにしよう」と包み紙を開けて、既に頬張っているメンバーもいた。
「リーダーからだよ。キュヒョン、どっちが良い?」
リョウクがにこにこと、手に二つ持って来て見せた。ピンク色の平たいアイスバーが描かれているストロベリーチョコのかかったアイスと、マンゴー味のものだった。
「イトゥク兄さんから?」
二重も慣れた目で、キュヒョンは見つめる。
「そうだって。僕、こっちが良いんだけど」
「俺もそっちが良い」
えー、と言いながらも、「練習してきたしな」とピンクのラッピングの方をリョウクは渡してくれた。キュヒョンは、受け取って、シャワーを浴びるまで置いておくために、冷凍庫の引き出しに入れながら、しげしげとまた見つめた。
「俺の分もあるんだ」
思わず口にし、シャワーを浴びた後も、誰もいなくなったリビングで、何となくゆっくりとそのアイスを食べた。





つづく

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