「First dreams3」タオ×ベッキョン
こいつをどうしてやろうかと思う。
年の初めに恋人が、女と浮気をして、でも、いつものことだった。
ごめんごめん、なんか向こうからキスされたんだよお、といらないことまで喋る口に、こいつの頭はどうなってんだと、ベッキョンは、タオを見て思っていた。
お前が俺に、「好きでどうしようもないんです」と泣いたから俺は付き合ってやったんだろうが、とあんぐり口を開きながらも、首筋から湧いて来たような怒りを感じていた。
そのでかい図体に、何でそんなキャパの小さい脳味噌しか持ち合わせていないんだと、普段、他人に思わないようなことまで思った。
デビュー仕立てのこの忙しい時に、ただでさえ国の違いから自分達のお付き合いは困難を極めていて、それで究極は男同士で、その上なぜ俺は浮気をされないといけないんだと、ベッキョンは、いつも顔色の悪そうなその肌の色と、目に常時くまの出来ている、一見人相が悪そうな人間に、怒りで我を忘れかけた。
に、加えて、自分はこいつに抱かれている。
ベッキョンは呆然と「それ以上言ったら殺す」と、良く人から綺麗だと言われる長い指先で、ふわわふとしたストロベリーシェイクのストローを摘まみながら呟いた。
ムカつくのは、恋人が浮気をしたこともだけれど、その人相が悪いと思っている顔の奴が女には「格好良い」ともてはやされることが多いこともだ。自分なんか、メンバー内で勝手に付けられた顔面ランキングで、相変わらずの下位なのに。
そして、そのおかげで、今回も上手くやりやがったと、ベッキョンは、呆然としながらも、短く息を吐いたような笑いが出た。柔らかいシェイクを吸うこともできなかった。
同室でもないのに、メンバーの目を盗んでホテルの部屋に来たタオに、連絡もせずに来るなんて何だ?と嬉しさよりも嫌な予感がしたのはこれが何度か経験したことだからだ。
むしろ、何で言うんだよ、と思いもしたけれど、言わなきゃ言わないで更にはらわたは煮えくり返る。
つまりそれだけ、まだ自分はこんな男相手に想いがあるんだと、実感するのもまたベッキョンは腹が立った。
「ごめんなさい、ヒョン」
たどたどしく喋られるのは、国の違いからではなくて、元からタオが舌足らずなだけだった。「兄さん」と言う意味の「ヒョン」と言われるのも、この年下相手に俺は、抱かれて浮気されてと、ベッキョンを突き落としていく。
このピンクのふわふわのをぶっかけてボコボコに。
相手をたこ殴りにする、見た目も売りのアイドルらしからぬことが頭をよぎって、そんなことをしたら自分が興奮したタオにいつの間にかベッドに押し倒されるのが容易に想像ついて、それは頭から瞬時に消えた。
謝りながら、悪く見えるとベッキョンは思う目つきのそれからいつも通りの、大量の涙が湧き出て来る。
ベッキョンは冷めた顔で眺めて、
「今年の抱負を言います」
と、呟いた。
一時間前、のほほんとホテルの外でマネージャーと一緒に購入したシェイクをデスクに置いて、デスクチェアーに座ったまま、目の前で突っ立っているタオに、その顔で続けた。
「今年は、俺が浮気するんでよろしく」
タオが「ぎゃあ」と泣いた。
それを見ながら「よし、帰れ」と言い放った。タオは必死に横に首を振っているが許さないし、自分が言い出したら聞かないことも分かっているから、タオは帰るだろうと、ベッキョンは分かっている。
苛立ちはおさまらなかった。
やはりすごすごと肩を落として退散していく、人相の悪いと思う自分の恋人の背中を見送りながら、ベッキョンはなんでこんなにされてもまだ別れる選択が出来ないんだと、最後は自分にも怒りを覚えた。
けれど、その、人相が悪いと思っている容姿に最近は「あれ?ちょっとこいつ格好いいかも」と思い始めて来ている自分がいるのも知っている。
とりあえず今年は、自分が可愛い女の子と浮気して、タオを打ちのめしてやることだけ夢見て、ベッキョンはピンクのそれを啜った。
『Fierst dreams3』タオ×ベッキョン