夢の続き

東方神起、SUPERJUNIOR、EXO、SHINeeなどのBL。
カテゴリーで読むと楽です。只今不思議期。

「First dreams4」ハンギョン×ヒチョル


なあ、ハンギョン、なあ。



壁面に様々なライティングが施されたビルを窓から眺めながら、ふと、こちらの顔を覗き込むようにして隣にいた人間をハンギョンは思い出した。


茶色の長い髪に、大きな目と白い体が、若干女っぽくも見えたけれど、男。
異国の仕事で出会った、その国の人間だった。
何年も共にして、そして自分から離れた。
あんなに複数の人間達と一緒に生活することはもうないだろう。自分が異国のアイドルグループにいた昔を、ハンギョンは景色を眺めながらも、目蓋の奥でいつものようにフラッシュバックさせた。

異国の芸能事務所で、タレントになりたいという自分の夢は叶ったような気がした。でも思い描いていた形では、そこでは叶えられなかった。
今の自分のスタート地点なのだから、勿論忘れることはないけれど、そんな理由だけでなく、すぐに蘇ってしまうのは、こうしてふとした瞬間に、呼び掛けられるからだ。
遠く離れた人間に、記憶の中で。

自分の名前を、一番良く呼んだ……



「なあ、ハンギョン、なあ」



誰よりも最初に自分の名前を呼ぶのは、ヒチョルだ。
13人のアイドルグループのメンバーは、殆どが中国語を喋ることが出来なかった。元々自分が外国人なのだから、会話は他のメンバーに合わせて彼等の言葉で喋るしかないのは当然だと思っていたし、あと二人いる中国語を話すメンバーがいない時は、話す相手さえいなくなるのも、国民性の違いもあるのだから、これも必然だと思っていた。
初めはそうではなかった。全員が少しでも仲を深めようと努力していた。けれど、様々な面で、仕事が思っていたものではなかったと自分だけ考え出すとそうなり、むしろメンバーが気を使って話そうとしてくる中、自ら遠ざけていたところもあったと思う。
そんな中、挑むように話しかけて来たのは、中国語を操るメンバーじゃなかった。いつの間にか隣に来て、大体誰よりも先に名前を呼んで来て、最後まで呼んで来る男。
ハンギョンは、その声を思い出して、顔を思い出して、体を思い出した。
メンバーで、友人で、恐らく最初で最後の同性の……



「だって他に誰もいないだろ」



男相手にそういう気分になった可笑しさよりも、なぜ相手が自分を選んだかの方が気になった。
忙しい中、たまの空き時間、メンバーが他の仕事や交際で誰もいなくなった宿舎に、ヒチョルだけが良く残って、自分に構った。最初の日に、終わったベッドの中で、まだ半信半疑のままハンギョンはヒチョルに、気になって聞いた。上手く出来なかったせいで時折襲って来るのだろう痛さに顔をしかめながらも、ヒチョルはそう答えて笑った。
他人を放っておけない性格からなのと、始まってしまった自分達の夢を、一緒に叶える同志と言う感覚が、ヒチョルのどこかで狂ってしまったからのようにも見えた。同志と言うものにはあまりピンと来なかったけれど、ヒチョルを見ていると、それはとても大事なのだろうとハンギョンは思った。
どうにもならない仕事や孤独を、誰かがいると言う安心感だけで補おうとしたのか、それは続いた。飢えた目を向けるようになってしまった自分に、仕方ないと言う風に笑って応える相手が、自分の下で白い体を染めて、悶える姿に、単純に欲情もするようになった。
お互いが所有物になってきた感覚は、何と言う名前なのか、ハンギョンは良く考えていたのを思い出す。
ヒチョルの、あの桃色に染まった体に包まれると、酷く安心した。抱いているのか、抱かれているのか。腕も脚も、肌も全部、そんな時でさえ、ヒチョルは優しかった。体格も悪くない男二人のそんなものが、ごつごつとした感覚ではなく、まるで綿菓子でも抱いているような気になったのは、相手がヒチョルだったせいだと、ハンギョンは思う。
あの優しさのせいだと、ハンギョンは思う。
だけど自分達には、それだけだった。変わらず良く話しかけられて、誕生日を祝われたり、他のメンバーよりも見つめ合う時間が長かったり、体を重ねたり。
ただ、それだけだ。
最初にハンギョンが聞いた一言だけで、互いに何も言及をしなかった。そして、それはもう出来なくなった。


今なら、ハンギョンは思う。


何よりも、夢が大事だった。


夢は人間そのもの。何にも代え難い。


――例え、恋よりも。


今、ハンギョンが相対している窓の向こうには、100万ドルの夜景が拡がっている。映画のクランクインを目前にした、顔合わせの食事会がお開きになったところだった。高層ビルは、様々なライティングでそれ自身も壁面に模様をつけ、どこからか照らされる光でも輝いている。香港の象徴を眺めながら、あれからのちに、あの人間が公にも公開した自分への言葉を、ハンギョンは脳裏で復唱した。


結婚したら、一度会いに来い。


何も言わずに消えた自分に、ヒチョルがどうなったかは知っている。それでも、俺は叶えたかったとハンギョンは夜景を眺めた。
そして、それは叶った。
誰もいない隣に、顔を向ける。あの頃と同じ、大きな目の若いヒチョルが、自分を覗いている。良く「これが13億の奇跡か」と馬鹿にしているようで、少し誇らしそうに触られた自分の顏は、あの頃よりは老けてしまったけれど、爽やかだと今も言われている。


じゃあ、俺は、結婚する。


ハンギョンは、大きな目を輝かせている相手に言った。
変わらず優しい笑みで自分を覗き込んでいる。
そのぐらいすれば会えると、誰もを納得させるために相手が公にした新しい規則、俺にお前が初めて望んだこと、とハンギョンは語り掛けて行く。




その夢を、今度は俺が叶えよう、ヒチョル。








……なあ、ハンギョン、なあ……










『First dreams』END









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