そのキュヒョンがゆっくり顔を上げた。
「本当?」
思わず、息をのむ。
「何もしなくても付き合ってる?」
だから、そこは俺の話聞けよ!飯食うだけのカップルなんてザラなんだよ、お前今までどんだけ手が早かったんだよ!って言いたいのに、目と鼻の先で見つめられて声が出ない。
顔が近づく。何で近づくんだよ!ちょっと洒落になりませんよ!
これはあれだな!この寸止めでインターホンが鳴るあれだな!うん、分かってるぞ、これは、あれだ!
でも近いな!息がかかるんだよ!流石に声出しとくか!
「キュヒョン、待っ……んんっ」
その唇が押し付けられた瞬間に、インターホンが鳴った。それ鳴る意味あんのかよ!いや、あるな!あるぞ!
「待てっ、迎えが来たから!んっ」
また押し付けてくる。俺も酒が入ってるからか、引き離そうとしてもびくともしない。壁を背にして、首に腕を回されたまま、キュヒョンごと引っ張り上げるようにして、どうにか立ち上がる俺に合わせて、唇が押し当てらてる。
手探りで、壁に備わったモニターからマンションのエントランスを開錠する。画面は見えないけど、もう誰でも良かった。早くこの状況を打破してくれ!
直ぐにでも寝てしまいそうな酔っ払った目で見つめられながら、キスされる。相手はキュヒョンだと言うのに、柔らかい感触のせいなのか、息が上がって来る。
あろうことか舌が入り込んできた。
「ちょ……」
久しぶりの濃厚なキスに舞い上がってしまっているのか、数回に一回は自分も返してしまっている。
「はぁ……お前ね」
いつの間にかなだめる様にその背中を撫でて抱き締めている。でもキスは終わらない。
「分かったからっ……ん」
お前の覚悟は見上げたもんだよ。はぁ、酔っ払ったキュヒョンだというのに、心臓がやばいな、アルコールもあるんだろうけど。酔っ払っていてくれて良かったよ、この音聞かれないで、って酒のせいでこんなことになってるんだよ!ここに来て王道パターン泣きそうだよ!
やっと、玄関のブザーが鳴る。唇を離す為に、抵抗するその頭を俺の肩に押し付けるようにして抱きしめながら、ドアのロックを開く。
「んーー!」
肩で不機嫌そうにキュヒョンが唸る。開いたドアの向こうに立っていた後輩グループのメンバー、ミンホが、俺達を一瞥して、そのままドアを閉めた。
「おい!」
手を伸ばして、ドアを開ける。ギュライン助けろよ!
「言っときますけど、ミンホはチャンミンさん攻めじゃなくて、俺の名前ですから」
「ミンホ!訳わからないこと言ってないで、こいつ連れて帰れよ!」
「最近付き合い悪いと思ったら」
キュヒョンの体ごと抱えて、ミンホに押し付ける。俺と同じ身長のミンホは軽々と俺の体からキュヒョンを引っぺがした。
「んーーー!」
キュヒョンが不機嫌そうに一層唸るけれど、もう目が開けられない状態の様だった。
「なあ、ミンホ。こいつ記憶なくすタイプ?」
「はぁ。ここまで酔ってるとなくすかもしれませんね」
ちなみに、ミンホはキュヒョンが自称「ギュライン」と名乗る飲み仲間の一人だ。何でギュなのかと言うと、キュヒョンは苗字と一緒だと「ギュヒョン」になるからなんだけど、もう今はそんな事どうでもいいよな!
「お前、送ってって、そのままこいつの実家泊まれる?」
「良く泊めて貰ってますけど」
「こんなに酔ってたら、家族の人大変だろうから向こうが大丈夫なら泊まってってやって」
「はぁ。まぁそうするつもりでしたけど」
「それで、目が覚めてこいつが何も覚えてなかったら、昨日は何もなかったって言ってくれ!」
「じゃあ、何かあったんですね?」
「……何もないよ」
「お付き合いが深まったと」
「深まったら、この先付き合えなくなるから、何もなかったって言ってくれ!」
てか、何でみんな知ってるの?こいつどんだけ勇気あるの!ミンホが少し俺を眺めて、溜息をついた。
「じゃあ、覚えてたら?」
俺も溜息をつく。
「お前に何か言ったら、全部夢だったとでも言って」
二人が帰って、俺はそのまま自分のベッドに突っ伏した。
これは俺のドキュメンタリーなんだから、こんな展開酷い。
つづく
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このせいで「ミノ」は「ミンホ」のままです。