「Let’s go to the 遊園地!最終話」ドンへ×ウニョク
「動きましたがものすごい叫んでますね」
係員と園長と作業員は見上げていた。
「うむ。ヒステリーを起こしているのかもしれん。もう一度呼びかけてみよう」
『お客様ー。お客様ー。この度は大変ご迷惑をおかけしました。復旧作業は完了しておりますので、ご安心ください。地上に着くまでお座席についてお待ち下さい』
観覧車の下からスピーカーで話しかけてくる声を聞いて、ヒョクチェと顔を見合わせて黙ってから、二人で噴き出した。
いつの間にか観覧車は動いていたけど、もうどうでも良かった。
「多分聞こえてたな、俺たちの声。やっぱりドンへと付き合うの楽しいかも。キスとかは抵抗あるけど、ゆっくり行こーぜ」
そう言ってヒョクチェが片手を伸ばしてきた。
風景はパノラマじゃなくなって、等身大のサイズに変わっている。そろそろ観覧車も終わりだった。
「う、うん」
俺も握手するために片手を伸ばしたその時。
まるで誰かに背中を押されたように俺もヒョクチェも前のめりになる。
「わっ」
二人同時に声を出してお互いを抱きとめた。
「ヒョ、ヒョクチェ!」
思わず力強く抱きしめちゃったけど、なんと俺にも腕が回された。
「ド、ドンへ」
見つめ合ったその時。
観覧車の扉が開いて、すぐ外にいた数人と目が合った。
「あ……この度は、大変……」
スピーカーを持った多分責任者の人が、抱き合ってる俺たちを見て、言葉を詰まらせる。
「申し訳あり……あり……えない」
「ありがとうございました!!」
恥ずかしそうに離れたヒョクチェの横で、俺は大きな声で日本語で礼を言い、深々と頭を下げた。
唖然としている目の前の数人に向かって、もう一度、
「本当にありがとうございました!」
と両手で握手して行く。ヒョクチェも「あ、こんにちは」と恥ずかしそうに会釈していく。俺は胸がいっぱいで最高に幸せな気持ちだった。
遊園地って本当にいいね!
ーー観覧車の下。
「園長」
「なんだ、田中君」
園長と係員は楽しそうに駆け出した二人の青年をぼうっと見送っていた。
「……感謝されましたね」
「……そうだな。あと多分日本人じゃないな」
隣にいた作業員は「お疲れ様でした」と気まずそうに言った後、立ち尽くしている園長と係員を残して他の作業員と一緒に帰って行った。
ーー観覧車の中。
透明な老夫婦が向かい合って座って外の様子を眺めていた。
「本当に良かったですねえ」
妻は段々と離れて行く地上に微笑みかける。そうじゃな、と答えた後、夫は勢い良く妻を見た。
「よし!このまま一周した後、ジェットコースターもトライじゃ」
「あら、良いですね」
ーー売店の前。
「ヒョクチェ、今度どれに乗る?」
「うん。それも良いけどさ、なんか腹減らない?」
ヒョクチェ。気づいてない?
俺たち今手繋いじゃってるから!恋人になって手繋いじゃってるから!
「じゃあさ、ホットドッグとか食べようか!」
「うん!俺コーラも飲みたい!あ、売店だ」
ヒョクチェが指差してから待ちきれないように駆け出した。
「待てよー!ヒョクチェー!」
手離れちゃったじゃん!でも、いっか!これからチャンスは何度でもあるから!
「ほら、早く!」
振り向いて俺の手をまた捕まえる。そして、ちょっと照れた顔して、
「練習」
と言って走り出した。
「見ろドンへ!幸せの鳩飛んで来たぞ!」
「待って!ヒョクチェ!照れて走れない!」
『Let’s go to the 遊園地!』おわり