「共犯者」ユノ×チャンミンの短編
「何ですかこれ?」
見慣れた掌にのせられた白い物体に俺は首を傾げた。
顔を上げると、ユノが視線を泳がせて呟いた。
「大福」
「いや、それは分かるんですけど」
「いちごが入ってるよ」
「まあ、それはいいんですけど」
苺の大福はピンクだけかと思ったら白いのもあるんだな、とは思ったけれど。
俺はまた視線をそれに向けた。
「なんで?」
「好きじゃん」
「いや、好きですけど……」
俺は言葉を濁してそれを見つめる。
その視線の向こうには、スポーツウェアを着たユノの足が見えた。
「だって、今……深夜」
「別にいいじゃん」
「じゃあ、まあ頂きます」
俺はその透明なパッケージで包まれた柔らかなものを手に取った。
顔を上げると、深夜にいきなり、ウォーキングをしてくると出て行ったからか、ユノの頬はまだ上気している。
「ありがとうございます」
「うん」
日本のコンビニは、色んなものが置いてあって、特に食品は充実している。日本で活動するときは、行きつけだった。
「ヒョンは何買ってきたんですか?」
俺は風呂から出てきたばかりで、Tシャツとジャージのズボン姿だった。
「同じの」
片手に下げたビニール袋にがさがさと手を入れて取り出される。
白い物体がまたその掌の上にのった。
同じものを握っている自分達の手元を眺める。
「えっと。今食べるんですか?」
「太ると思う?」
「まあ、痩せることはないでしょうね」
ここ最近の疲労とこの時間で頭が働かないのか、また自分達は手元を眺めて黙った。
「まあ、食べますか」
「うん」
廊下から、ダイニングに移りながら、でもこんな時間に別に頼んでもいないものをユノが買って来るなんて珍しいな、と思った。
「俺、珈琲入れますけど、ヒョンは?」
「コーラあったっけ?」
「ありますけど……」
俺はまた言葉を濁した。
「太ると、思ったの?」
「まあ、痩せることはないでしょうからね」
俺達は立ち止まって、また黙った。
ユノがテーブルにつかず、ソファーに座ったから、俺はインスタントコーヒーをいれて、ガラスコップに注いだコーラと一緒にその正面に胡坐をかいて座った。
「いただきます」
「いただきます」
ユノが両手で持った白い餅をそろそろと、口に含んだのを見て、自分も食べた。
まだ残っている手元をぼうっと見ながら、ユノはもぐもぐと口を動かした。
「美味しい」
と、呟いた。
「良かったですね」
「チャンミンは?」
「美味しいですよ」
「良かったね」
「ヒョン、ダイエット辛いんでしょう?」
ユノが黙った。でも口はもぐもぐと動いている。それから、
「つらい」
と、呟いた。
俺は鼻から息を出して噴き出した。白い粉が飛んだ。
「頑張って下さい」
声を出して笑いながら、俺は最後の一口を食べ終えた。
ユノは最後の一口を残して手元を眺めている。
俺は笑って声をかける。
「ヒョン」
「これ食べなかったら、ちょっとは大丈夫かな?」
「まあ、大丈夫じゃないことはないでしょうね」
ユノは唇を突き出してじっとそれを見ている。
「ヒョン」
俺の呼びかけに、目がこちらに向く。
俺は口を開けた。
ユノは口を開いている俺を見て少し表情を弛ます。
そっと俺の口に入れた。
俺はもぐもぐと口を動かして、飲み込んだ。
「うん。美味しい」
ユノが俺の顔を見ながら微笑んだ。
「じゃあ、寝ましょう、ヒョン」
「うん」
二人で歯を磨いて、廊下を歩いてから自分達の部屋のドアに手をかける。
おやすみなさい、と言った。
「ヒョン」
ユノがこちらを向く。
「次は一個を半分にしましょう」
ユノが笑った。
俺はドアを開く。
「チャンミン」
ユノに向いた。
「今日、何の日か知ってる?」
「あ」
そういえば、先月、知り合いから貰ったチョコレートを
俺がダイエットで食べきれなくて、ユノに渡したんだった。
「ホワイトデー……ですね」
俺は苦笑して、なんだ、と息を吐いた。
「ううん。違う」
黙った俺をユノが面白そうに見ている。
「チャンミンと苺大福を食べる日」
ユノがにやっと笑って、部屋に入って行った。
目を瞬かせてから、俺も自室に入る。
じゃあ、次のバレンタインも、
また渡してみるかと、
再び苦笑して……
企んだ。
『共犯者』おしまい