「チャンミンくんの恋人24」ユノ×チャンミン
「ユノ……」
「電気消して寝ろよっ!」
俺は、持っていたフェイスタオルを横に置いて、前のめりになって手を伸ばした。
デスクの上のリモコンを通り過ぎて、
手足を折り畳んでうつぶせている体まで伸ばして、
丸い背中を指で撫でた。
「勝手に触んなっ!」
元のサイズなら絶対言わない台詞と共に払いのけられる。
でも、撫でた。
人前では泣かず、人に頼ることもなく、リーダーなんだから自分の信じた道を突き進むだけ、ユノがそうありたくて、そうしてきたのは知っている。
だけど、本来ユノは寂しがり屋で、とても……
誰かに頼りたい人だ。
困難を乗り越えた時、
大分それを見せて来るようになったけれど、
でもやっぱり俺は年下だし、ずっと一緒にいた気恥ずかしさもあって自分には抑えられていたように思う。だから、その性格と真っ向から相対する必要もなかった。
けれどユノは今、俺がそこから目を遠ざけられないほど、非力だ。
撫でると、その体勢でうつ伏せたまま声を出してまた泣いた。
もう手は払われない。
ユノは今、俺に甘えている。
この数日で、物理的にも俺に頼って、抑えがきかなくなっているんだろう。
でも俺は手を止めた。
泣いていたユノが動きを止めて、少し不思議そうな目でこちらを見た。
この数日を思い出した。
その泣き腫らした顔で、確信した。
ココアの飲み過ぎや、食べすぎじゃない。
浮腫んでたのは、あれは。
「ユノ。こうなってから、ずっと泣いてたの?」
夜に、泣いてたんだ。
俺が手を引っ込めようとすると目で追うから、デスクの隅に手を乗せた。
涙にぬれた目が、俺の顔に向いた。
「だって、このままだったら、俺はまた活動停止だろ」
胸が締まった。
何も言えない。
今実際そうなっているし、あの辛さをユノが再体験していると思うと不用意な言葉をかけられない。
ユノがそんな俺を見て呆然と涙をこぼした。
「あ……いや、どんな形でも良いなら芸能活動は続けられると思います」
不用意な言葉をかけたかもしれない。
ユノはまた顔を前に向けてうつぶせたまま、ベッドに敷かれたタオルに言った。
「……そうだな。でもきっと私生活では俺は一人になる」
「みんないるでしょ」
これは自分でも不用意だったと思った。
でももう言ってしまった。
開き直ったように起き上がって、ベッドに腰をかけるのを眺める。
「俺だけ小さくて?」
俺もが思った事を言って、泣いて赤らんだ顔で無理に口角に力を入れている。
寂しがりでなくても、その孤独は想像を超えるだろうと思った。
「……家族だけは、いてくれると思うよ。でも一生じゃない」
足元に視線を落として、無理矢理に笑みを浮かべるユノが呟く。
「友達とだって、これからは気楽に遊べない、外に出れば俺には危険がいっぱいだし……結婚も無理だ」
自虐的というより、本当に寂しそうに笑って呟いていく。
呟く度に、涙はこぼれた。
「ユノ……」
ユノが顔を上げる。
恨めしそうな顔で見る。
「チャンミンは……もう言ってくれないの?」
こんな素直な相手を見るほど、関係性が変わったのは、
やっぱり気のせいじゃなかった。
一瞬、何を?と思ったけど、すぐに、ああ、と思った。
ユノは、忘れてなかったのか。
あの時は、ユノが変な顔をするから、続きを言えなかったのに。
じっと見つめて来る。
眉を下げた顔は、不安げだ。
こんな短い台詞が言われるかどうかでそんな表情をするほど、追い詰められている。
あの時も素直にそう思ったし、今も俺はそう思う。
だけど、まだ分かってなかった。
この時もまた、俺は浅はかだったのかもしれないことを。
でも、俺は手を伸ばして、その涙ではりついた茶色の髪を、額から払いながら言う。
表情は変えないけれど、払われて気持ち良さそうにゆっくり一度瞬きした。
心を開いた人間に触られるのはユノは好きだってことを知っている。
だから本当はもっと撫でて欲しかったことも。
「俺が、いますよ」
つづく