「チャンミンくんの恋人34」ユノ×チャンミン
すやすやと気持ち良さそうに寝ている姿を、同じく微笑んで見つめていたマネージャーが、
少しして、
「明日から活動再開になる」
と、俺に言った。
その顔を見ると、ユノを眺めたまま、違うものを考えているような表情に変わっていた。
――続報が、なかった。
ユノが見たいと言う時しか、テレビ番組はもうつけないことにしていた。
今日で自分達の休暇が終わることを、俺もユノも知っている。
俺は休暇が延びると思っていたけれど、
やっぱり無理だったか、
間に合わなかったか、
そう思った。
「公表はまだだ。テレビには出ない。活動再開と言っても、限界まで外部の人間は使わずに、写真と映像を合成で誤魔化していく。音源もやれるだろうから。それから、病院にももう連れて行く」
浮腫みはなくなったんだけどな、と言ってユノを眺めながら、マネージャーはふと笑った。
俺はそっと深呼吸をした。
マネージャーの小声に付き合うために、自分を用意した。
「どんな形であれ、活動できてユノは喜ぶと思います」
俺もマネージャーから、おとぎの国の住人の様な相方に視線を戻した。
「この先は好奇の目で見られることがあるかもしれない。その時は、頑張ろうな」
はい、と答えた自分の声が少し震えた。不安や、恐さからじゃなくて、これは感慨だと思った。
また訪れた苦境を乗り越えることに、自分にはなぜか余裕があると思った。
今度の方がよっぽどましだと思った、ユノには違うかもしれないけれど。
感慨を覚えたことは、もう、一度は経験していることを、更に一緒の時間を経たパートナーと乗り越えること。それから自分が、ユノを支えて行く強さを自覚できるほどになっていたと言うこと。そして自分達には、助けてくれる人間がいると言うこと。
「俺はもし、この先ユノがこのままだとしても、二人なら芸能界で生き残ると思うし、外されるその日まで、お前達のためだけにやれることをするよ」
「ありがとうございます」
感慨深いことであって、辛いことじゃない。
辛いのはユノだ。
でもマネージャーの穏やかな声と、今だけは何も知らずに、作り立てのケーキを食べている夢でも見ているのか、口を動かしている変わらないのどかな寝顔を見ていると、下がりかける口角に、意識的に力を入れた。
「ユノが起きたら、同じことを言おうと思ってる」
そう言って、マネージャーがこちらに向いた。優しい笑みを浮かべたままだった。
「お願いします」
俺もそちらを向いて、その口角のまま、緩く頷いた。
マネージャーは、また微笑ましくユノを見下ろしていて、
俺はこのまま見ていたら、どんどんと言葉に出来ない胸の圧迫感が酷くなりそうで、
「起こしましょう」と言って、そっと小さな頬を指の背で撫でた。
完全に覚醒していないユノが、酔いも残っているのか、辺りを少しの間見廻して、自分の大きさを確認したように、寂し気な表情をする。この姿になってから、ずっとそんな顔をして起きていたのだろうか、と思った。
きっと夢の中ではユノは元の大きさなんだ。
「ユノ」
俺は屈んで、視線を同じ高さにした。それしか出来なかった。
俺を視界に入れて状況を飲み込んだ相方が、どうにもならないことを受け入れたような、俺を見て少しだけ安心したような微笑で、果物の間を歩いてテーブルの端まで来た。
「チャンミンがすごい大きな口でケーキ食べる夢見た」
歯を見せて笑って、俺の顔に手を伸ばすから、その手を摘まんだ。
「それ、正夢になりますよ」
俺も笑ったけど、この目に薄く浮き出た水を、ユノはすぐに感知して笑顔がなくなる。
でも、もっと最悪なことまで憶測されるかもしれないと、俺はすぐにそれを引っ込めて更に口の端を上げた。
ユノも柔らかい表情になって、何か言われるのを待つように、俺を眺めた。
つづく