「チャンミンくんの恋人33」ユノ×チャンミン
おやつの時間にケーキ作りは再開した。
必要な調理器具とスポンジケーキだけ出して、果物を並べる。
「しかし、すごい量ですね」
「何がいいのか分からなかったからな」
全部出すと、果物でテーブルがいっぱいになった。
「これレモンですよ?」
ユノが目の前のレモンに手をつきながらマネージャーを見上げた。
「おー、レモンだな」
「パイナップル一玉使いますかね」
むしろパイナップル使うかな。
「いや、良く分かんなくてな」
「あれ何ですか?」
見たこともない果物をユノが指さした。
「いや、俺には名前はちょっと良く」
「これアボカドじゃないですか?」
アボカドを手に持つ。
「おー、それアボカドかあ」
俺たちは呆然と眺めた。
「20……種類位ありますね」
言った俺の指をユノが握った。
ケーキがぺちゃんこになりそうだ。
「とりあえず、よりわけた方がいいと思います。二人で乗せたいもの相談して下さい。生クリーム泡立てとくんで」
何も言わずレモンとアボカドを冷蔵庫に戻して、ハンドミキサーでクリームを泡立てる。
「オレンジは見たことないかもな」
「パパイヤの方が見たことないですよ」
そう言ったコックがキウイの上に座っていたから取り上げた。何とか決めて洗ったのをマネージャーが切っていく。
「危ないから、ほら」
小さく切れたメロンに伸ばそうとしたユノに、マネージャーが摘まんで渡した。
「ユノ、こっち」
両手で美味しそうにそれを頬張りながら、生クリームを塗り付けてる俺の元へ歩いて来る。
「俺も食べたいです」
「メロン人気だな」
マネージャーが俺の口にも摘まんでくれた。
「チャンミン、ここ、ケーキ見えてる!」
ユノが覗き込みながら指差したスポンジケーキの淵に、ボウルから掬ったクリームをぼとっと落とした。
「チャンミン!」
ユノの頭と片手が真っ白になった。
「すいません、手元が狂いました」
帽子も落ちて、綿棒みたいになったユノにティッシュを渡す。
「大丈夫かユノ」
マネージャーも水に濡らしてティッシュを渡した。頭からごしごしと拭いたユノが、俺たちを見上げた。
「新感覚」
「良かったですね」
「あと、このクリーム甘いね」
どれどれ、と俺とマネージャーが舐める。
「まあ確かに」
「こんなもんだろ」
少し開けた窓から、空気が入れ替わって、ユノが喜ぶ。涼しい夕方に、売り物とは少し違う、生クリームが多いのか波打ったような跡のついた真っ白いケーキが出来て、みんなで眺めた。
中は三段に切って薄切りの苺が敷き詰めてある。
俺は皿に入った淡い緑色のメロンの角切りをぽとっと落としてみた。
たっぷりの白いクリームが包み込んだ。
ユノが楽しそうにこちらを見上げる。
「俺はマンゴーにしようか」
黄色いマンゴーが落ちる。
白桃を落とす。
黒っぽいアメリカンチェリーを置く。
「さくらんぼは種があるぞ」
「食べながら出して下さい」
ラズベリーをユノが持ち上げて、手に果汁がついてもそれを側面に埋めた。
「いいね」
俺が言うと、ユノがどんどん埋めて行く。
皮まで食べられる細長い薄緑色のぶどう。
白っぽい洋ナシ、
パパイヤ、キウイ。
みんなビール片手にほろ酔い気分で乗せて行く。
「クリーム見えなくなって来たぞ」
「まだまだですよ」
果汁がしたたって不向きそうなオレンジ。
ぴかぴかと光る白いライチ。
名前の分からない果物。
紫色のブルーベーリーを、椅子に上がってコックが撒く。
「ちょっと果物多すぎないか」
「それ今聞くと思いませんでした」
「あんまり美味しくなさそう」
酔って来たコックが腹を抱えて笑った。
「ユノ」
まだまだ果物はあったけれど、もう乗せるところがなくなったから、最後に、水を切った苺の皿を見せると、嬉しそうに俺を見上げた。
差し出した掌に乗る。
もう一方の手で皿も一緒に持ちあげると、乗せた果物の上から数個置いて行って、
最後にてっぺんに仰々しく飾ると、見ている俺とマネージャーを見上げた。
「もういいですか?」
「うん」
テーブルにユノを戻す。
「ケーキの写メ撮るか」
「俺も撮りたいです」
「じゃあ、ユノ撮影会するか」
「俺は片付けしてます」
すごい量の洗い物をしていると、笑い声がいつの間にかなくなって、後ろからマネージャーに「チャンミン」と呼びかけられた。振り向くと、笑みを浮かべた顔で、「来い」と言う風に顎でしゃくられた。後についてテーブルに向かう。
そこにはユノが寝ていた。
俺たち特製の大きなケーキと、沢山の果物の中で、小さなユノが寝ていた。
乗せられなかったスイカが王様のようにテーブルの端にあって、
半分に切られたパイナップル、
まだ残っている丸いオレンジ、
赤い林檎に囲まれて、
齧りかけのアメリカンチェリーを抱いて、苺の皿にもたれて眠る。
相方が、まるでおとぎ話の登場人物になったみたいで、俺は口元が弛んだ。
つづく