「チャンミンくんの恋人51」ユノ×チャンミン
仕事の合間に話しかけて来る相方は、兄弟のような仕事仲間兼友人を再現していて、それでやっぱり、あの一か月のユノは、俺達は、特殊だったんだと思った。
同じ気持ちではなかったかもしれないけど、
同じ条件下で。
とても近くて。
ずっと続けば良いと思ってた、でもそんなわけにはいかない。
自分達を繋いでいた奇跡は消えてなくなった。
周りは人で溢れていて、あんなことがあったのが嘘の様で……
浴槽の湯を掬う。
何も混入させていない水面を見て、ユノは使うのに、俺はずっと使わないのはなぜなのか分からなかった。
でも今も目の前で、浮かんでいるような気がする。
中には気持ちよさそうに淵に手をかけている、不思議な姿の相方が見えている。
「ヒョン、入ってください」
ノックした向こうで「分かった」と声がする。
けど、こっちが現実だ。
自分の部屋に戻って、ここ数日のあまりの忙しさにそのままになっている空間に、ライトをつける。
見渡す。
ベッドに腰をかけて、疲労からなのかぼんやりした。
日に日にスケジュールは苛酷になってくる。
深夜まで仕事が続いて、帰ったら風呂に入って寝るだけ。
でも、そろそろこれを直さないと。
崩れたおもちゃに目をやりながら、
体が動かない。
……今日もやめよう。
明日でもいいだろ。
ライトを消そうとしたら、ノックされた。
心拍数が上がったのが分かる。
「はい」
立って、ドアを開けにいく。
帰ってから、着替えてもいないユノがいた。
中で話をするのかと思って、体を横にずらそうとしたら、
「忘れてたよ」
携帯電話が差し出された。
「ああ。ありがとうございます」
友人とやり取りしながら風呂場に向かって、それにも関わらず、違うことに意識がいってたからだ。
「じゃあ、おやすみ」
ユノがふと笑った。
まだ、俺は心がここにないみたいだ。
「はい……おやすみなさい」
部屋の中を見もしない相方を眺めた。
踵を返そうとしていたユノが、俺に向き直して、
「明日も頑張ろうな」
と、確認するみたいに言った。この顔は大分疲れて見えるらしい。
頷くと、ユノも少し疲れた笑顔で頷いて、風呂場に歩いていった。
ドアを閉める。
後ろを向くと、温かな照明の部屋がある。
季節は夏だ。
なのに、俺はその温度を感じない。
視線はデスクにもっていかれて、壊れたおもちゃを幻のように見る。
小さなユノがいないからだ、感じないのは。
すぐに慣れると思ったのに。
一か月前は、あんなに早く慣れたのに。
つづく