「そういうこともある 2」ユノ×チャンミン
~Cside~
背後に散らばる格子に切られたエメラルドグリーンの空間を背に、長い指でネクタイを弛める姿は、本当に格好いいといつも思っている。
その並んだ空間は、フロアーの壁一面の硝子窓から見えるオフィスの明かりだ。
それを背景に、常に涼しい顔でパソコンに向かって時々は外回りに行く。
できる男っていうのは、ああいう人を言うんだろうな。
でも気が抜けている時は、驚く様なところもあったり。
この前は携帯電話をタクシーに忘れた。
僕が慌てて自分のを貸すと、「お、悪いな」と爽やかに笑っていた。
仕事が終われば、飲みに誘ってくれたりする。
面接の時から、フロアーで働いている姿を格好いいと思っていた。
内定が決まって、まさか自分の上司になるなんて……あるだろうとは思っていたけど。
大きなビルの中にはあるけれど、会社自体は大きくない。
新卒は僕を含めて四人だけだから、
そういうこともある。
就業時間はまちまちで、工場に顔を出すことも多い。
自分達の呼び名は、
印刷屋。
泊りがけになることもある。
でも今は初夏で、学校関係の印刷物も落ち着きを見せ、定時に帰ることも多くなった。
二人で行動することも多い。
今日は違った。
ホワイトボードに書かれた「外出」の下に「NR」があった。
工場に行く時、その場合、大体がNR「ノー・リターン」になる。
でも、それなのに帰って来た。
「飲みに行くか?」
と言われた時、ときめいた自分がいる。
色々と不意打ちだったのと、酒も入ってたし。
今日はちょっと危なかった。
距離も近くて、前にも肩をかしてもらった事はあったけど、あの人と飲むとペースがつかめない。
やっぱり僕は、好きなんだろうか。
あなたは気づいていないし、気付くことはない。
すごく可愛がってくれる。
僕は、可愛い部下のままでいたいから。
僕が同性の「男」しか好きになれないなんて、気付かれたらどう思われるか。
昔そう言って、おばけでも見る様な目で見られたのを覚えている。
大学の時には付き合うことも出来たけど、卒業と同時にお互い忙しくなって別れてしまった。
それからは久しぶりだった。恋愛感情を持てるような人に会ったのは。
でも、言わないけど。
その目にうつる自分が可愛い部下のままでいてほしいから。
だけど、
時々その、汝矣島の象徴のような、エメラルドグリーンの四角群を背負ってパソコンに向かっている姿を見ると、羨ましくなる。
まだ独身らしいけど、あの人と結婚する女の人が。
「あー、もう」
考えるなよ。
天井に向かって呟いた自分は全身から酒の匂いがする。
やっぱり飲み過ぎた。
でも、やっぱり恰好良かったな。
軽々と、背が高い僕を支えて。
「月曜日な、か……」
思わず体を横に向けながらかけ布団に抱きついた。
平日なんて、来てほしくはないけど「月曜日」は来てほしいと思った。
でも「おばけ」には見られたくないから、
僕は酔った頭を早く眠らせた。
つづく