夢の続き

東方神起、SUPERJUNIOR、EXO、SHINeeなどのBL。
カテゴリーで読むと楽です。只今不思議期。

「ジル・ド・レの住んだ町2」ユノ シウォン チャンミン キュヒョン

作法通り定刻より遅れて人の集まる夜会は、それが定刻とも言うことが出来た。
乗合馬車でやって来るものもいれば、徒歩のものもいる。
町の若人のほぼ全員が集まるのだから、それはこの時代に相応しい垣根のない夜会となっていた。


チャンミンは自ら所有の馬車で、城に赴いた。


垣根を超えたとはいえ、男は全員が黒の燕尾服、女は持てるすべてを出し切った装飾のドレスを着ている。


この城は王の城だ。


それが町の貴族の手に渡ってから、チャンミンは一度来たことがある。
それは夜会ではなかっただろう。でも幼くて記憶が定かではない。


けれどもう一つの城には、入ったことはなかった。


あれもつい最近まで同じ所有者だった。あの城は様々な噂が飛び交ったのち、元々の所有者は未だにはっきりとしていない。でも外観からはこの城より敷地面積は少し広く見える。


チャンミンはそんなことを思いながら、城内に足を踏み入れた。



……変わっていない。



幼い頃の記憶が蘇った。
初めて見るすべての物に興味津々なのに、緊張と大人しさから目だけをきょろきょろと動かしている小さな自分。
前を歩く父と母が、そんな自分に微笑みかけている。
真新しいようでありながら、ビロードの絨毯や、壁の装飾品は雰囲気を変えないようなものにしてあるのが分かる。
遠く頭上にある、シャラシャラと音を立てそうなシャンデリアはチャンミンの記憶と全く同じものだ。
懐かしい記憶と、白と言うよりは山吹色に近い、柔らかな照明に包まれながら、
この城は、この人間に貰われて良かったな、とまるで自分の所有物であるかのように、チャンミンは微笑んだ。


城しか見ていないチャンミンとは対極に、彼が場内に入った途端、女達は色めき立った。
ひそひそとそこかしこで囁かれているのを当の本人は気づいていないのと、興味がないので、その足は進められるばかりだ。


今のチャンミンには、所帯を持とうという気がない。


それは今の生活で満足しているのに加え、配偶者を貰うと、今の生活が消えてしまうと考えているからだった。
今の生活とは、自分の親友が、毎日のように気軽に語り合いに来るこの生活である。
もしチャンミンに、一度でも燃えるような恋をする機会があったのなら、こんな思考はなかったかもしれない。
でも彼にとって恋愛とは想像の域を越えない、現実の日々よりも重要だと思えないものだった。


足を進めながら、チャンミンは、


妙だな。


と思っていた。


彼が注目されているのには理由があった。
この夜会は、舞踏のある大広間、軽食のとれる別室と、やはりこれだけの人数を呼ぶだけのことはある、華やかな景色も楽団も、目に入る料理もそこらのものとは別格だ。質も良く、十分行き届いている。


なのに、


主催者はまだ見えていないようだ。



それでも若い男女がこうやっているのだから、会場はそれなりに盛況している。
キュヒョンがいれば、二人してまるで子供のように、どこかにはいるだろうその人間を探しにいくということもしたかもしれない。
けれど、チャンミンは、幼い時のまま、性格は変わっていない。


これだけの人数の熱気と、段々と気づき始めた婦人方の視線に気圧されて、どこか人のいないところへ、親友が来るだろう時まで身を置きたくなった。


でも自分の屋敷でもなく、そんな場所は知らない。


チャンミンはとりあえず、広間を囲う回廊に出た。
重厚なカーテンの間から、炎の炊かれた夜の外には、真新しい巨大な薔薇園が見える。
深い赤の花が、散らばった窓の外は幻想的だ。
それでも庭園に出るのは、いくら火がたかれているからと言って寒い時分の今には気が引ける。
いくつも続く窓の外を眺めながら、チャンミンは廊下を歩いていた。
ここでももちろん数人の人間はいる。
婦人と目が合うと、彼女たちは一様にみな頬を染めた。
気まずさに視線を泳がせながら、ふと足を止めた。


その壁のレリーフを見てチャンミンは、
「ここにもあるのか」
と思うのは微かで、ただただ馴染み深い気持ちになるのだ。
でもそのデザインはそんな悠長なものではない。
けれど、この町の人間なら、チャンミンと似た思いを抱くものが多かった。


その時、


「これだな」


と呟きにも似た声をチャンミンは聞いた。


それは少し不思議だった。
呟きのような小さな声は、耳元で囁かれているくらいでないと聞こえないようなものなのに、自分の隣には誰もいない。
けれど、視線の先に、これも婦人方の目を引きながら、こちらにやってくる人物がいる。
あんな距離の人間の声が聞こえるなんてことはないだろう。
それからその口調は、なぜかチャンミンにとって僅かな嫌悪感を抱かせた。
人を嘲笑うような、自信家の余裕をそれに感じたからだった。
でも歩いてくる人間が目を引いている理由は分かる。


チャンミンの正面まで来て、ひざまずいた。
大きいとは言え自分とは違い、横に長さのある目を、形の良い黒い眉が密に囲んでいる。
横幅のない高い鼻に、綺麗な歯の揃う口元の口角はなだらかに上がっている。
誰が見ても、この人間の顔を「悪い」とは思わないだろう。


そして、チャンミンは眉をひそめて呆然としている。


なぜこの男は、男の自分にこんなことをしているのか。
片手を胸に当て顔を上げ、微笑むその唇が開く。



「あなたに決めた」



言葉の奇妙さから、チャンミンは更に眉をひそめたのではない。
その大きな黒い瞳が、
まるで今見ていた、
夜の闇に混じった花の様な、
暗さを含んだ紅色に、光った気がしたからだった。


チャンミンは不快感をあらわにした顔をしている。


何者か分からない男が、自分に跪いて、わけのわからないセリフを吐いた。


その男が立ち上がると、自分よりは低いけれど、それでも高身長なことも分かった。
でもその身なり。
チャンミンは眉を寄せながらも固唾を飲んだ。
その少し、型は時代遅れな燕尾服が、あまりにも上質なので分かった。



「この城の主、チェ・シウォンと申します」



チャンミンは、自分に起こっている不快な不可思議さと、その正体に、ただ彼を見据えるだけだった。
でも挑むように見つめ合っている二人の、この主の側の背後から、聞こえた靴音にチャンミンは目をやって、
そして奪われた。


面白そうに、自分達を見つめて、気怠く立っている男がいる。
でもその立ち姿には品の無さはない。
その後ろから、まるでこっそりあとを追うようについてきた女たちも、自分達のやりとりを見ていた女たちも、皆彼に目を奪われている。


それは恐らく、その頭の小さな均整の整った体型と、目。
綺麗に通った鼻筋を支えているその、炎のようなのに冷たい、見る人間をチャンミンを、一瞬で氷漬けにしてしまうような温かみの無い奥二重の目。
それらの端正な要素をどことなく甘く見せている、質感のある唇も、
周りの女たちの気持ちがチャンミンには手に取るように分かった。


さっきの呟きは、もしかしたら自分の物だったのかもしれない。


「これだ」
とチャンミンは、なぜかもう一人の自分がいるような、勝手に体が呟いたような、
変な声を、自分に聞いたような気がした。


そして、



「確かに。シウォン、お前の言う通りだ」



と、鼻で笑った顔は、今までの印象を一新させるような、黒の瞳だけでその目が構成される小動物のような愛らしさを見せて、それもチャンミンの目を奪う。


「申し訳ないですけど、邪魔しないで貰えませんか?……ユノ」


目の前の男が、後ろに言った。


その口調が、知り合いのようなものだったからではない。


自分の目を引き付けている男が着ているものが、確かにこれも少し古めかしい様相ではあったけれど、
微笑みのすっかり消えた、苛立ちさえ感じさせるような物言いで言った男と同様に、
見たことがないほど、質の高いものだったからだ。



チャンミンは思った。



二人目の、城主だと。









つづく

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