「少し暗い日々の帳を抜けて2」ユノの短編 ウニョク
今日からの現場は結構遠くて、降り立つのは初めての駅だった。
こういう場所に来ると、ここに住んでいる人達が、自分と同じようにそれぞれの生活があるのが不思議になる。
煌々と照らされた照明の下、ショベルカーの隣で、掘削機で溝を掘っていく。この現場は人が少なくて、一応提示されている期間も短いし、皆ただひたすらに作業を進めて行く。
「休憩だ」
現場監督の一声で休憩に入った。
「昨日、新種のいたな」
「ああ、あの白い奴でしょ」
「ちょっとゼニガメに似てたよな」
俺以外は顔馴染みらしくて、道路の脇に並んで腰かけて話している。一人はジムリーダーにもなったことがある人だった。
ふーん。
ま、俺には関係ないか。
土やアスファルトで汚れたタンクトップ姿のまま、目に入った自動販売機に向かう。
どれにしようかな。汗だくの軍手を取りながら、冷たそうなコーラのボタンを押そうとした。
「その自販機壊れてますよ」
うわっ。
思わず声を上げた。
その姿を見る。あれ?これって、あの人達が話してた奴か。
「ポケモン?」
「……はい」
ちょっと面白くなさそうに目をそらされた。
ゼニガメよりどっちかって言うとピカチュウに似てるな。
「ピカチュウに似てるな」
「やめて下さい。俺、あんまああいう顔好きじゃないから」
「そう、ごめん」
結構可愛い外見だと思うんだけどなあ、ピカチュウ。みんな捕まえてるし。
「これ壊れてんの?電気ついてるけど」
「お金返って来ませんよ。あっちのなら大丈夫です」
指差された方を見ると、少し歩いたところにもう一つ見えた。
「サンキュー」
「はい」
俺はそいつに背を向けて歩き出す。少し歩いて振り返った。
「もし何か飲みたかったら、お礼になんか買うよ」
そう言うと、そいつはちょっと笑った。
「俺もコーラ飲みたかったんです」
名前はキュヒョンだった。
『少し暗い日々の帳を抜けて 2』おわり