夢の続き

東方神起、SUPERJUNIOR、EXO、SHINeeなどのBL。
カテゴリーで読むと楽です。只今不思議期。

「HOW WE PARTY」ユノ×キュヒョン(クリスマス企画短篇)


身分証を掲示して、「どうぞ」と言われてから、ダウンジャケットの友人の背中について行く。狎鴎亭から引大に移動した。店の質も変わる、外にも音は漏れて、ただでさえここらは明るい方なのに、聖夜の灯りを足された町は、更に不穏になっている。
五月蠅いのがどうこうではなくて、待ち合わせの友人がどこかで掴まって、この中にいないのが問題で、どうするかと思いながらも、何人も知り合いは待っているし、他の選択肢もなくここに来た。


ニット帽の友人がこちらを見て「入ろう」と言う風に笑うのを見た後、慣れてはいるものの、音に一瞬面食らった。一気に鼓膜につんざく大きさになったそれは機械の力を借りて伸び縮みする、加工された音だ。
挿入してくる人間の声も、ロボット的、けれど、青に染まった薄暗い店内に、魑魅魍魎のように動く人間は本物。


深夜にも関わらずサングラスをしていてもこれでは意味が無い。二階に直行の入口もあるのに、それを予約してくれた友人が遅れて来るから仕方がなかった。
でも、一階は初めて見たな。
どこかから発射される暗闇を突き刺すような一直線の緑の光が満遍なく中を回転する。正面の壁に映写されるリズムに合わせて形を変える映像は、酒と自己暗示があればトランス状態になった気分にさせる。とにかく、空間を歪ませるような音。エレクトリックな音が、体を斜めに切るように強く入って来る。そして、今日はその原曲の殆どがクリスマスソングだ。


この真冬でも、厚手のコートに数人の肌があたるのがわかる。店内の室温は、もう俺もじとっとした汗をかき始めている。真夏のような格好をしている人間を何人か視界に入れながら、換気の行き届いていない空気に喉がやられそうだと思った。
二階に上がる。
もう一度IDチェックと、ボディーチェックを受けて、行きついたのは赤の空間だった。


クリスマス使用になっているらしく、まるで目の前が血に染まっている。急に色の変わった照明に目を閉じて、慣らした。音は下からも届くけれど、こっちはこっちで奥のフロアーにDJブースもあって、既にその音で、俺の体は斜めに切られている。


コートを脱いで預けながら、本当に久しぶりだな、と思って溜息が出そうになった。自分の良く行くところは知っている連中ばかりだし、狭いけどアットホームな雰囲気がある。
予約の個室に行く前に、踊っていそうな知り合いに話しかけに行く。
あー、これ良いかもな。
今かけられているものの原曲が気になりながら、やっと、一人見つけた。そして何人かまた見つけたり見つけられたりしながら、「メリークリスマス」と言う台詞と共に、その中の数人が口にしたことに少しの驚きと、腑に落ち無さを覚えながら、赤く暗い周りを軽く見る。
でも、その姿は見えず、まあすぐ帰ったのだろうと思って見たものの、やはり腑に落ち無さは残った。
もしそうなら、自分の仕事上の相方がいても可笑しくないけれど、その名前が出て来なかった。


自分と同じ事務所の、人間が来ていたと言われた。


その人間は、二人組のアイドルをしている俺の相方の、親友だ。こちらもアイドルで向こうのグループは大所帯だ。今日はそいつ主催の、仲良い身内だけのパーティーに事務所の何人かが参加している。向こうは何次会なのか、ここに一緒に来た他の面子は誰なのかとかどうでもいいことを考えながらバーカウンターに酒を取りに行くと、一人になったのを見計らったようにどこかの事務所の子が話しかけてきて、その女の子がしきりに連絡先を聞いて来るから、やっぱり個室に早く移動した方が良かったかと、少し後悔する。


だけど、まだ待ち合わせの友人が来る気配もなく、話しかけられるまま話をして、相方ほど、仲良いわけではないけれど、同じ事務所の人間がいたなら挨拶位はしたかったかもなと、さっき話題に出された人間のことを思い出した。今日、一緒に来た友人は正直言って知り合って浅いし、ほぼそこら辺の面々と変わらない。そう考えて、いや、話題に出された奴も、昔から知っているだけで、間に相方のチャンミンがいないと挨拶程度だから同じか、と鼻で笑った。
彼等より年上の俺は、微妙に先輩と言うポジションを貫いていて、チャンミンや同じグループのメンバー達とは腹を割って仲良くしているけれど、俺が先輩で良いとしているのをそのまま受け止めて自分にはしている距離の置き方をそいつには思う。その壁を破って接してくる後輩達みたいには、元から肌が合わないと感じ取っているのだろう。空気を良く読んで、立ち回りの上手い奴は俺も合わないと思う。もっと素直な人間が自分には合っている。


そんなことを思って飲んでいると、元から酒が入っていたのもあったけれど、ペースが速かったのか一杯で酔って来た。目の前の子は好みじゃないのに、スタイルの良い体とボディータッチに乗りそうで、「ちょっとごめん」と、酔い覚ましにトイレに向かった。


トイレは二つとも塞がっている。


そこまで用が足したかったわけではなかったから、待っていたけれど、嫌に長いと思って、中でつぶれているのか、それとも、一階ならともかくこっちにはVIPの個室があるのに、こんなところで事に及んでいるのか、ぐにゃぐにゃとした音楽が絶えず流れる中、強めにノックをした。
また少し間が空いて、内側から「どうぞー」と声がして、視線を泳がせた。
知っている人間の声に似ていた。
まさかなと思いながら、ドアノブを回すけれど、開かない。ちょっと考えてから、


「開けろよ、キュヒョン」


と、言ってみた。
鍵を開ける音と一緒にゆっくりドアが開く。


「ユノ……ヒョン?」


見るからに泥酔している、同じ事務所の人間が、いた。年下には全員そう言われるけど、「兄さん」と言う意味の「ヒョン」と付けられるとこいつにはこそばゆさを感じる。俺の「ヒョン」と違って、それ自体が名前のキュヒョンは、普段は大きく二重に開いた目蓋が、少し腫れている。それでも俺がいるのに驚きがあるのかいつも通り開かれてはいるけれど。
平常でも白い顔が、蒼白になっているのが、赤い照明の中でも、今まで見てきた人間達との違いで分かる。
飲み過ぎだろと眉を寄せた。栗色のパーマがかかっている髪が顔に少し貼り付いていた。


「吐いた?」


ドアの前で聞きながら、中に視線を送ると、化粧スペースが手前にある広い個室のトイレは奥まで見えなかった。こいつからは頭からぶっかけたような香水の香りがしてむせそうになる。
でもそんな俺に全く構わず、どこを見ているのか分からない顔で、


「ユノヒョンだ……わーい……」


と、棒読みした。
口角だけ上げて笑っているように言うけれど、元から上がっている口元はそんなに変わらない。顔が真っ白なせいで、ピンクの唇が濃く見える。
これをどうすべきか、こっちだって酔っていて、眉を寄せるだけで言葉が出て来ない俺をうつろな目で見たあと、俯いた。


「……誰と来てます?」
 
こんなに酔っていても、何となく、何か考えているような口調に、こいつらしいなと思った。


「キュヒョンの知らない奴だよ」


「……そっか」


そして、黙られた。
酔いが醒めた気になる。


「……そっちは?パーティーは?」


「お酒」


俺の質問に答えずに、その顔が上がって、へらっと笑って「飲みましょう」と続けて言った。


「お前、もう飲むなよ」


怪訝に言った俺の後ろから誰か来る気配がして、泥酔状態のキュヒョンを隠すように、自分も中に入った。音はまだ聞こえているけど静まった。
見ると、近未来的な蛍光灯の灯る化粧台に空のグラスが幾つか置いてあって、ますます俺は眉を潜める。


「今日も男前なユノヒョンが……来てくれた……」


化粧台の前にふらふらと立って、床に視線を落として、全く感情もこもっていない調子でそんなことを言う。赤と黒のネルシャツは汚れていなくて、吐いたのかどうか、顔を眺めると、栗色の髪が少し貼り付いているのは口元と言うより目元で、白い鼻の頭も赤い。これは違うことが分かった。


「なに?泣いてた?」


訝って俺が言っても視線を落としたまま微笑みを浮かべて黙っている。


「理由は聞かないけど、あんまりこういうとこでやんなよ」


そっと溜息混じりに続けて言うと、

「じゃあどこならいいんですか?」

と自嘲気味に笑って答えられた。
宿舎で、同じグループのメンバーと同居しているこいつの生活のことを言っているのだろうと思ったけれど、それでも「宿舎」と答える。
俺の逡巡が分かったのか、ただ酔っているのか、俺の答えを無視して、


「ちょっと彼女に振られまして……」

と、明かされた。
俺もそれには触れずに、


「じゃあ、パーティーは?」


と、聞いた。
俺にようやく向いて、またへらっと笑った。


「最中に連絡来たんですけど、一応終わりまでやりましたよ。みんなはどっかで朝まで飲んでると思いますよ。チャンミンにも今日は言ってないんで」


じゃあ、こいつは一人で来たのかと俺は顔をしかめた。俺だって知り合いがいなければこんなところ来ない。


「なに?じゃあ一人?」


「彼女に会いに行ったんですけど、門前払い食らって、じゃあ、そこら辺の可愛い女の子とどうにかなろうと思って来たら……」


好みの子いないし、と噴き出したように笑っているのを眺めながら、やはり俺も酔っている頭で、振られたらこんなになるのかと、改めて不思議に思う。こいつだけではなく俺の周り大体にだけど。
自分だって振られたことはあるけれど、何となくお互い分かっている時だし、寂しさはあるけど、そこまでじゃない。多感な時に一番長く付き合った相手くらいに、のめり込むことはない。その子も俺から振ってしまったし。


「パパラッチくらうぞ」

本気でそんなこと考えたのかどうか分からないけれど。
まあ、しなかったからここにいるんだろうけど。
キュヒョンが返事せずに、化粧台横の洗面台に、背を向けたまま手をかけて、ぽんと腰をかけた。


「壊れる」


俺が言うと、床に付かない脚を揺らして「ずっと壊れなかったから……大丈夫」とぼんやりと呟く。もうこいつのメンバー誰か呼び出すかと思い始めた俺に、


「ここのテキーラ美味しいですよね。飲みました?」

そう言って、隣の化粧台に置かれた、まだ酒が入っていたショットグラスに白い手を伸ばした。


「飲むなって」

近寄って、それを摘まんだ手を掴まえた。
化粧台と洗面台に挟まれて灯っている蛍光灯の色はピンクで、今日はとことん赤っぽくしているらしい。だけどそのせいで、あまり照明の意味はなく、とりあえず全部赤く染まっていた。
視線の高さが同じになったキュヒョンが目の前にいる。普段の身長差も俺よりは低いと言っても、180過ぎの自分と数センチしかないけれど。真っ白な顔の、堀の深い大きな目の涙は乾いている。泣いたせいで黒い瞳が、更に黒く光っている気がする。

「何で、こういうとこってテキーラみんな飲むんですかね」

見つめ合ったまま、ずれた会話をされながら、俺も答える。


「早く酔いたいんだろ。俺は飲まない」

掴んでいる白い手とグラスが、また動いた。


「飲むなよ」
 
でも、力の入れていない俺の手と一緒に上がって、諦めて離す。もう勝手に飲めとその後ろの鏡に視線を逸らす。鏡の中の、赤いネルシャツのキュヒョンの背中と、薄手の深緑のニットを着た自分はクリスマスカラーになっていて、それも何となくうんざりさせた。その中には、そんなうんざりした表情の、見ようによってはきつく見える奥二重の目と小作りな目鼻立ちの自分の顏も映っている。

「ユノヒョンなら、振られなかったろうな、多分……」


それか、振られてもこんなにならないんだろうな、とどこか見透かしたように呟かれて、「そんなことないよ」と言いながら、やっぱりこいつとは合わないなと、思った。


「だから俺と合わないのかな」


目の前のキュヒョンを見た。


「でも今日は、一緒に飲んで下さい」


グラスが俺の顔の前に突き出されていた。
絶句している俺を、蒼白な顔で、黒く光った瞳がぼんやり見つめてくる。
それを見ながら、束の間考えて、自分で持って飲もうとすると、俺の口まで持って来られた。


「これしかないから。少し」


少し高い位置で傾けられた。
小さなショットグラスに、微かに黄色のついた液体がこぼれそうに傾く。
反射的に、受ける様に口をつけた。口の中に、ぴりぴりとしたアルコールが入ってくる。
グラスはすぐ離された。
少量でも、ただでさえ酔っていた自分には、強くてくる。くらりとして、体に火が付いたようになった。
でもこいつの言っていることは分かった。
このテキーラは少し甘い。


「美味しいですよね。好みの子いなくても、ユノヒョンが一緒に飲んでくれたから、良かった……」


男にしては白く綺麗な手で持ったものを俯いて見ながら、キュヒョンが独り言の様に話す。
俺は、やはり共通に思っていたことを口に出されたのに驚きと、アルコールと赤く染まったキュヒョンと強い香水の匂い、音楽に思考が止まって来る。


「……キュヒョン、水持って来るから飲め」

言いながら、俺も一度目を閉じて、酔いが過ぎるのを待って、また目を開けた。
喉が熱い。
残りを煽らずに飲んでいるキュヒョンがいる。まだ少し残して、ピンク色の唇についた酒を舐めている。目がくらむ。


「残りですいません」


俺はいらなかったのに、酔った手で、再びすぐグラスを口元で傾けられた。危なくて受けてしまう。やはりこぼれながら、グラスの中のものが口に入った。
熱い。
口の中で熱が拡がる。
目の前で、俺を気が抜けたように見ているキュヒョンにもたれそうになりながら、蛍光灯を掴んで免れた。
こぼれた強い酒が首まで伝っている。
熱い息を吐いた自分の口元に、柔らかくて、温かいものが一瞬たどった。
顔を上げる。
こちらに体を傾けたキュヒョンが、また俺の唇を舐めた。
ぼやける頭で、「おい」と言ってその体を押す。
キュヒョンが、


「垂れて、勿体なかったので」


と、へらっと笑った。
何も言葉が出ずにその顔を眺めていると、その顔も笑いがなくなる。
それからまた近づいてきて、ぺろっとなめた。
あまりにも自分が酔っているのか、不快感が出ずに、むしろさっき話しかけて来た女の子に感じた危うさを覚えて、「だめだって」と呟くだけで、体が動かない。
舐められた唇まで熱く感じる。
何度か小さく舐めて、キュヒョンが顔を上げて、目と鼻の先で「なくなりました」と言って笑った。
堀の深い、ぼんやりこちらを見る顔を見つめて、これは、仕事上の相方の親友で、性格が合わない男で、相手も酔って自分が何してるのか分かってないかもしれないんだぞ、と言い聞かせるように目を逸らせた。


「水、取って来る」


と、呟くと、「酒にして下さい」と返された。


「両方持って来るから、鍵閉めろよ」


「閉めれないから、行かないで下さい」


と、俯いて言われて、なぜか酒で元々脈打っていた心臓が音を立てる。酔いすぎだ俺、と短く頭を振って「行かなかったら、持ってこれないだろ」と当たり前のことを返して、黙った目の前の相手から、体を引きはがすようにして出た。


出た途端、音楽で耳をやられる。顔をしかめながら、赤い視界の中歩く。


「ユノさん!一階にも行って、頭小さい人探しましたよ」


さっきの女の子がほっとした顔をしながら、俺の前に現れた。綺麗な長い脚の出た短いスカートに胸の大きく開いた半袖のニット姿は、これだけ酔っている自分には危険を覚えて頭を抑えた。


「ああ、ごめん」


応えながら、その大きな二重の目と、白い肌を眺めて、この子、あいつにちょっと似てないか、と考えると、


「なんか飲みますか?」


と腕に細い手を添わせて微笑まれた。さっきはタイプじゃないと思ったけれど、その顔は何となく可愛くて、「ああ、うーん」と、言いながら、


「ごめん。ちょっと今は無理なんだ」


と、気付けば断っていた。
いや、結構可愛かったし、彼女別に悪くなかっただろうと思うのに、バーカウンターで俺はドリンクを二つ注文している。
でも、俺は断った時の彼女の悲しそうな顔なんかもう忘れかけて、自分にも染みついている気がする香水の香りと舐められた自分の唇の熱を感じながら、あいつ鍵閉めたのかと足早に戻った。
ドアノブを回すと、やっぱり鍵は開いていて、むしろ中にいるのかに鼓動が大きくなった。


「キュヒョン」


安堵している自分がいる。
赤いネルシャツに近づくと、


「戻って来なかったら、俺、困ったなって思ってました」


と、出た時と同じ、俯いたまま、鼻で笑われた。栗色のパーマのかかった頭が見える。
それを眺めて、


「顔見たい」


思わず、口にしていた自分に顏が上がる。
大きな瞳が俺を眺めたあと、


「俺も、見れた」


と頬や鼻の頭を少し染めたぽうっとした顔で笑った。
似てなかったな、とさっきの女の子を思い出した。それから、彼女はやっぱりタイプじゃないと思った。


「……適当に買って来た。水じゃないけど、これ飲んで」


細長いグラスのストローをキュヒョンに差し出す。差し出されるまま、濃いピンクの唇がゆっくり白いストローに口づけた。鼓動が治まらない。
茶色の液体を吸って、キュヒョンが飲んだ。


「これ、酒じゃない」


「酔い醒まさないと」


これはなんかだめだろ、と、思った俺を見る。距離の近いのも気にならなくなっている自分は、目の前で黒い瞳にじっと見つめられて、


「こっちが酒」


と、抵抗も諦めて、それにはストローがついていないものをそのまま差し出した。
キュヒョンがそれを取らずに見下ろして、


「ユノヒョンから飲んで下さい」


そう言われる。
良い予感が全くしないのに、これは自分がさっぱりしそうだと思って注文したのもあるからと言い訳を考えたのも滑稽なまま、飲んだ。
爽やかな紅茶の味が口に拡がる。
キュヒョンが俺を眺めて、また体をこちらに傾けた。
俺は何をされるか分かっているのに、やはり体が動かない。
俺の唇を舐めた。


「もう一回飲んで下さい」


と、呟かれて、その顔を見ながら、また一口飲むと、すぐに舐められて、唇の間にも舌が入って舐めた。


「これ注文したんだ……」


目と鼻の先で見つめて、言われる。


「紅茶がさっぱりしそうだったから」


見つめ合ったまま答えた。ぐにゃぐにゃと伸び縮みを続ける音はボリュームが減ってもまだ聞こえている。目の前の光景と全てに自分が酩酊していくのを感じる。
俺から少し視線を落として、


「これ紅茶入ってませんよ」


と呟かれた。俺はまた飲んでみた。紅茶の味はしている。


「ロングアイランド・アイスティー」


俯いたキュヒョンが酒の名前を言った。


「もう一口飲んで下さい」


顔を上げた人間と目を合わせながら、言われた通りに飲むと、その顔が近づいて、俺の唇を割るようにゆっくり舌をいれて来て口内のものが奪われた。
白い喉元が上下する。


「美味しいですよね」


見つめ合って、この酒の度数はどのくらいなんだと思う。体は動かない。心臓はずっと暴れまわっている。
でも、また一口、口に含んだ俺にキュヒョンが顔を寄せて来る。
重なった唇に、そのまま相手に流し入れた。
こくりと音を立てて飲み込まれる。


「飲んで下さい」


再び、口に含むと、もっと唇は重なって、口づけたままキュヒョンが飲み込んでいるのが分かる。目を逸らさずに、唇は離れず、キュヒョンが俺の下唇を吸った。甘い蜜を吸うようにされて、離される。
それを見ながら、グラスの酒を俺は大きく一口含んで、その後頭部に手を回して、薄く開いて待つ唇に、流し込む、そのままキュヒョンが飲み込む。お互いの口の中に何もなくなっても、つけたまま、キュヒョンがもう少し味わうように一度俺の唇を食んで、片手に持っていたグラスを俺は置いて、抱きかかえる。その唇を舐めて咥えながら、隙間から舌を入れると、俺にも腕を回されて、冷たく爽やかな紅茶の香りがしながら酔わせて来る酒の味と一緒に舌は絡んだ。
口づけ合う。
呼吸のために唇に距離を開けた。互いの腕の中で鼻先をつけた相手を見つめる。
どちらも上気していた。


「ユノヒョン」


はあ、と呼吸しながら目で返事をする。何でこんなことになっているのかは分からない。


「俺、口移しとか無理だと思ってたのに……」


俺は何も言わず呼吸を整える。


「今、返事しないユノヒョンが、過去にそれやってたって分かっただけで、なんか嫉妬してるんですけど……」


そう自虐的に笑って言って、俺の肩口に額をつけようとした頭を、体に回していた両手で掴んで、また唇を重ねる。少し驚きながらも、キスを返してくる相手の口にもう一度舌を入れて絡めた。


「キュヒョン、俺達、可笑しいよな」


両手でキュヒョンの後頭部を掴んだまま唇の先をつけたまま呟く。


「ここにいれば可笑しくないです」


また口づけられて、抱きしめ合いながらキスしていると、ドンドンと強くドアが叩かれた。
二人共、扉に向く。我に返ったように、お互いを見た。
酔っていても、キュヒョンは終わりを分かった微笑みをする。


「グラス……持てる?」


言うと、数度頷かれる。
その微笑みが寂しげで、俺は見つめながら、キュヒョンもこちらを見ていた。


「出ましょう」


キュヒョンが言った。
でも、やはり二人共かなり酔っていたから、何とか全部重ねたグラスを、ふらつきながらあいた席に置いた。
俺達は、急に場所が変わった人の行き交う喧騒のフロアーで、向き合って立ち尽くした。
真っ白なキュヒョンの顏は、相変わらずで、でもそれも朝が来る頃には戻るだろう。
お互いに合わないと思っていた自分達の姿は変わらない。
大きな瞳が俺を見た。


「じゃあ、ユノヒョン。俺、帰ります。なんか彼女と付き合ってたことさえ忘れそうですよ」


そう言って、自虐的に笑った。


「……ああ」


その姿を見つめて答える。
「クリスマスが起こしたミラクルでしたけど、終われば俺達いつも通りですから」と言って俺に微笑んだ。


「そう……」


返事した俺を、しばし見つめてから、寂しげに笑って、「じゃあ、メリークリスマス!」と言ったキュヒョンに、


「うん。じゃあ」


と俺が答えたから、キュヒョンはその微笑みのまま踵を返そうとする。


「じゃあ、俺も友達に挨拶して行くから、そこで待ってて」


足を止めて、自分を見る大きな瞳は、もっと大きくなっている。
機械的な音楽は、室内をねじるように出されて止まらない。
暗闇の中、照明と混じり合って、人を鼓舞させている。
自分の鼓動も一緒になって鳴りやまない。


「二次会したいんだけど、俺のうちとかダメ?」


キュヒョン。と俺は言って、祈るように、その瞳を見つめた。
考えるために俺からそらされた瞳が、聖夜に味付けされた喧騒のフロアーを泳いでいく。
ついて行くように、俺も眺めた。


「じゃあ」


切り出されてまたキュヒョンに視線を戻す。


タクシー呼ばないと、と答えた顔は、照明と見分けがつかないほど、真っ赤だった。










『HOW WE PARTY』END




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