夢の続き

東方神起、SUPERJUNIOR、EXO、SHINeeなどのBL。
カテゴリーで読むと楽です。只今不思議期。

「ぼくらが恋した貴方へ 1(男のパートナー)」(チャンミンの場合) ユノ


チャンミンは、上向きの針を横目に眺めて、0時丁度を確認すると、光るような大きなそれの瞳をゆらりと動かして、再度正面で、久しぶりに会った恋人の、顎が色を変えているのを眺めた。早く伸びるそれが太さも相まって、元々地黒の肌をより濃く、青くしている。
チャンミン本人も例外ではなく、今日は朝に剃ったきりであったので、今はもうほぼ目の前の男と同じ状態だと言ってよかった。
満足げに笑っている、下唇の出た口元を目にして、一瞬言葉を失いかけたが、その口の方から喋り出したので問題はなかった。
「作ってくれるなんて思わなかった」
細い眸は、黒目が大きくそれ一色のようになる。
小さな顔に、細く高い鼻も、女から見れば男前に見えるに違いなかった。
と、チャンミンは思う。
いや、絶対。と二人で行うライブでの満員の観客席から聞こえる黄色い悲鳴を頭で再生させながらつけ加え、自身に言い聞かせるよう頷きかけ、やめた。
唯一良く思っていない長めの鼻先以外は自分の方が顏は整っているけど、と更に加えた。背もこっちの方が高いしと、今度は言い聞かせたわけではなく頷いた。足も長いしと、また頷いた。
「なに?」
「いや。食べよう、兄さん」
彼らは兄弟ではなかったけれど、歳の差でチャンミンはそう呼んだ。短髪に切られた黒髪には楽さがあって、兵役に入る前、仕事時は前髪がいかに長いことが多かったか、チャンミンは改めて実感した。
立ち上がって、一緒に並べてあった硝子のボトルを掴んだ。コルク抜きで簡単に栓を抜いた。
「どうぞ」
「お、ありがとー」
透明なグラスが半分まで満たされた。
恋人はすぐにそれを持ち上げて嗅いだ。チャンミンは大きな瞳で、見ると言うより観察した。
「俺いれる」
グラスを置き、持っていたボトルを突然掴まれて、手が滑りそうになって、チャンミンは眉を寄せた。
けれど、恋人は楽しそうに、テーブルの隅に置かれた空のグラスを取って、奪った酒を注ぐ。
「はい」
見上げながら、微笑まれる。自分よりも短いほぼ坊主に近い頭の顔が、日に焼けている。
無表情に見下ろしながら、受け取った。
また正面に着席する。
「いただきまーす」
そう言って節の分かり易い指がフォークを取った。白いクリームで和えられたパスタが二つの皿に置かれてまだ湯気を立てている。間にサンチュのサラダ、冷めてきた出前のチキンも、出来合いのカットチーズも容器のままあった。
「すごいよ、本当に」
頬張ってから、美味しー、と続けて笑んでいる。口周りの濃いそれで青くなった頬に白いクリームが跳ねている。
チャンミンは無言で見つめながら、思わず自然と溜息をつきかけた。
「どうした?」
黒い目が丸くなった。含み笑いで頭を振る。
目ざといところもあるけれど、もし、これが女ならと、チャンミンは思った。
さっと顔色を変え、「何?飽きた?」などと問い出すはずだった。
しかし、これは性別の違いと言うよりも、この恋人の性質と言った方が良い気がした。
それに、問いは微妙に間違いだと、フォークにパスタを絡めた。
「あれ、日本?」
もう気にしていない恋人が、少し離れた場所にあるテレビ画面に向いている。
チャンミンは、今度こそ溜息を吐きながら、顔ごと向けた。
「とんかつだ」
「うん」
日本の店が自分達の国に店を出すという。活動の重きを置いているので良く知った国の名物は、大分前からこっちでも名物になっている。
相槌を打った恋人はそのまま深夜番組に釘付けになって、呟いた。
「味噌かけてる」
「名古屋かな」
間を置かず言った自分に、なんで?と向かれた。
「だって」
と、声に出しながら、再び何かを頬張られて動く青い口元を見る。
名古屋のライブで、スタッフが用意してくる二人の好物と思われているもの以外に、あれだけ味噌がかけられたものを食べて、それが特徴と教えられて、と頭で言いながら、チャンミンは閉口していた。
「なんとなく」
どこかに疲労を感じ、それで終わらせた。明日も朝からまた芸能活動とは違う意味でしめ付けられる仕事だ。食べ終えたら、早く帰らせて、寝ないと。
「あ、本当だな」
恋人の何となくとぼけている返事には応えず、チャンミンの大きな目は、名古屋と表示された画面下の文字より、道路に面した店の前を行き交う人の、一人を捉えた。
カメラなど全く気付いていないか気にしていない混雑した大勢の一人。
普段なら自分達のファンに多い年齢層だと避けている、その、年上と分かる女性を、瞳に焼き付けられたように眺めた。
若く見えるのは体の線が崩れていないからかもしれない。手の中の携帯電話を見て店側で立ち止まっている。駐車場に停めて来たばかりなのか、車のキーも共に握られていた。ストレッチパンツに素足で履かれたヒールのあるサンダルが、こちらより気温が高いことが伺える。
乱れていない綺麗に染められた髪は、気を使っている。口元が正義感の強そうな、だけど、女的な気の弱さも見えて、微笑んでいるそれから、良く笑いそうだと思った。友人の多い、明るさが雰囲気から出ていた。
舐めるように見ていたことに気付いて、自身に驚きもしながら、まあな、とチャンミンは思った。
若さや好みの外見しか追い求めなかった自分は、少し変わりつつあった。人生のパートナーに必要なものは何か。
幸運にも相手は選び放題である自覚がある。しかし、毎日晩酌を一緒にしてくれ、会話が楽しく、身綺麗にすることを忘れない、家事も怠らない、許せる範囲の外見であること、それらが備わった相手は意外に多くない。
画面は切り替わったが、チャンミンはまだ考えていた。先ほどの彼女があてはまるのか、あてはまるのだからこうして考えているわけで。きっとそれは目の前の、この、男が原因なのだ。対比されたらしく、女性と言う性そのものに魅力が大分己の中で底上げされている。
既に目の前の人間に視界を切り替えていたチャンミンは、その人間が自分に向いていたことに気付いた。
「チャンミン、どした?眠い?」
心配そうな黒目が見た。
眠いと言えば眠い。けれど、首を振った。
安心した表情で、残りのパスタを口に詰め込んでいる。
一瞬、荒唐無稽な未来を描いた。
結婚し、一生のパートナーを作る。新婚旅行は、綺麗な白い浜辺で、カラフルなカクテルを飲んで、透明な海に入る。仕事で訪れたハワイみたいな場所かもしれない、あの体型なら、水着姿も悪くないだろうと、相手はいつの間にか先ほどの女性にしていた。
子供が出来て、誕生日やクリスマスを祝い、毎年忘れずに結婚記念日や、母親にもなった彼女の誕生日も祝い……そう考えたところで、チャンミンは我に返って鼻白んだ。
荒唐無稽過ぎる想像をやめるよう、テレビに視線を送った。
画面の中で、揚げられたばかりの良い色をした硬めの衣が、包丁でさくりと音を立てて切られていた。
上手く中まで火が通って、肉汁が染み出ている。
チャンミンの光るような大きなそれは、簡単に釘付けられた。
「美味そう」
無意識に呟いた。
「こっちの方が美味しいよ」
そう言われて、正面に向いた。
空にした皿に、チャンミンの作ったサラダを入れながら、満足げに微笑んでいる。
顏を見て、それから、その恋人のグラスが全然減っていないのを、チャンミンはゆらりと瞳を動かして眺めた。
不安があると出る恋人の癖を、チャンミンはこうなる前から知っていた。
若さや、好みの外見しか追い求めなかった自分は、この同性と付き合う選択をした時点で、既に変わっていた。
変わった自分がこの恋人を選んだのだと、毎日晩酌を一緒にしてくれ、会話が楽しく、身綺麗にすることを忘れない、家事も怠らない、許せる範囲の外見であること、そんなことよりも大事なものが自分にはあるのだと、もう一度確認するように、チャンミンは正面の男を眺めた。それから、同じく全く減っていなかった手元のグラスを取った。
「飲もうよ、兄さん」
差し出した。
今度は、本当の安心の笑みを浮かべて、ユノもそうした。
いつの間にか、南国で遊ぶ二人は、撮影中の自分達の思い出になっている。
けれど、チャンミンは再びその記憶を戻した。
もう結婚しているだろう。
子供は男だろうか。
自分と先に出会えば、きっと振り向いただろう。でも、俺を選ばなかったし、俺も……と思いながら浮かべた苦笑は、今回の逢瀬でようやく出た心の底からの笑顔だと気づいたこと、乾杯後に幸せそうに酒を飲む恋人に、チャンミンは、めでたい気持ちになって歌いたくなった。
負け惜しみのように口ずさんだのは、もう思い出せなくなった人にへだ。
「はっぴばーすでーとぅー」
「え、何で?」
そして、これからの自分達に。









『ぼくらが恋した貴方へ 1(男のパートナー)』(チャンミンの場合)おわり

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